埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第九十八回)

  第十九話 仏像を科学する本、技法についての本
  〈その2〉  仏像の素材と技法〜金属・土で造られた仏像編〜

 【19−10】

仏の技法

 仏は、土製の方形の板上に刻された仏像で、主に寺院の堂塔な どの内部荘厳のために制作され、我が国では、飛鳥、白鳳、天平時代に流行した。
 仏堂の壁面一面が、おびただしい数の金色の仏で荘厳されていた光景は壮観 であったであろう。
 堂内荘厳だけではなくて、厨子に入れて礼拝の対象とされた仏もある。
 この仏も、平安時代に入ると、ほとんど記録にも遺品にも接するこ とが出来ない。


南法華寺 出土
 製法は、凹型の型に粘土を押しあて、原型どおりの像を造り、それを焼き締めた後に、金銀泥なり金銀箔、あるいは彩色を施して仕上げる。
 押出仏と同様に、一つの原型から多数の像を制作することができ、堂内荘厳に用いられたのである。

 ところで、古代の寺院の壁面装飾は、どのようになされていたのであろうか。
 壁面装飾には、4種の方法があったと考えられる。
 即ち、繍仏を壁面にかけるもの、押出仏あるいは仏を壁面に貼り付けるもの、壁 画を描くものである。

 久野健は、その使い分けは、次のようであったという考えを述べている。
 飛鳥寺、薬師寺、大官大寺など第一級の大寺院の壁面装飾は、繍仏を多く使用。
 次いでは、押出仏で荘厳された。
 銅版押出しの千仏像のやや便化したしたのが、仏の使用となってあらわれたと おもわれる。仏を壁面装飾に使用した寺院の多くは、紀寺、山田寺、当麻寺 など氏寺級の寺院が多く、官立の大寺が少ないということから、そのように考えられる。
 壁画は、法隆寺壁画に例があるが、古代寺院においてはそれほど多くはなかったのではないかと思われる。


紀寺 出土
 仏は、全国およそ50ヵ所から出土している。
 奈良では、川原寺をはじめ、橘寺、南法華寺、定林寺、紀寺、山田寺、当麻寺などから出土。そのほかの出土地は、近畿各県のほか福井、広島、鳥取、長野な どの各地から出土している。
 このようにしてみると、奈良時代を中心とした古代においては、塑像、仏など土で造られた仏像は、高価な金銅仏、乾漆仏と違い、安 価大量に制作可能なことから、地方の仏教寺院においても仏像制作の主たる材料として、盛んに造られたのであろう。


仏についての本】

 先に紹介した、
「至 文堂 日本の美術」シリーズの「押出仏と仏 日本の美術118」久野  健編(S51)
 が、仏についてしっかり解説された一番詳しい本。


「謎 の大寺 飛鳥川原寺」 網干善教・NHK取材班著 (S57) 日本放送出版協会刊 【202P】 1400円

 昭和49年3月、網干善教を責任者として川原寺裏山の発掘調査が行われ、そこから千数百点の方形三尊仏や塑像片などが発掘出土した。
 本書は、その発見仏を舞台回しに、方形三尊仏荘厳のルーツをインドパキスタンに求めつつ、「川原寺と は、一体どのような寺であったか」という設問に臨む、ドキュメントスタイルの本。
 方形三尊仏による壁面荘厳のルーツを、インド・エローラ石窟寺院、オーランガハード石窟寺院に求めたり、仏荘厳壁面を、パネル上に復元を試みたりしており、興味深く 面白く読める。
  
川原寺出土 方形三尊仏  パネル上に復元した 壁面荘厳  エローラ石窟 壁面荘厳    

「飛 鳥の仏と塑像〜川原寺裏山出土品を 中心として」 (S51) 奈良国立博物館刊 【37P】

 前記の「川原寺裏山の発掘調査」の出土遺品の全貌と、飛鳥の諸寺址から出土した仏・塑像の展観の写真解説図録。
 川原寺出土遺品の全貌と仏の代表的作品が掲載されている。


仏の来た道〜白鳳期仏教受容の 様相〜」 後藤宗俊著 (H20) 思文閣出版刊 【320P】 5985円

 本初唐期の仏が、我が国に伝来する「仏の来た道」を丹念にたどった研究書。
 まとまって仏が出土した、大分宇佐市の虚空蔵寺跡の調査に携わった著者 が、考古学・美術史・文献史学などの領域にわたって学際的に探った本。

 



 参  考
  第 十九話 仏像を科学する技法についての本

〈その2〉仏像の素材と技法〜金属・土で造られた仏像編〜
〜関連本リスト〜

書名
著者名
出版社
発行年
定価(円)
仏 像のみかた〈技法と表現〉 倉田文作 第一法規出版 S40 3500
古 美術の科学〜材料・技法を探る〜 小口八郎 日本書籍 S55 1500
仏 像彫刻の鑑賞基礎知識 三森正士・岡田健 至文堂 H1 3689
日 本史小百科 彫刻 久野健編 近藤出版社 S60 2000
日 本仏像事典 真鍋俊照編 吉川弘文館 H16 2500
金 銅仏 日本の美術251 鷲塚泰光 至文堂 S62 1300
塑 像 日本の美術255 西川杏太郎 至文堂 S62 1300
押 出仏と仏  日本の美術118    久野健編 至文堂 S51 980
乾 漆仏 日本の美術254    久野 健 至文堂 S62 1300
一 木彫の展開〜平安時代前期の彫刻〜
日本の美術457   
岩佐光晴 至文堂 H16 1571
一 木造と寄木造 日本の美術202 西 川杏太郎編 S58 1300
檀 像 日本の美術253 井 上 正 至 文堂 S62 1300
鉄 仏 日本の美術252 佐藤昭夫 S62 1300
石 造美術 日本の美術45 小野勝年 至文堂 S62    1300
石  仏 日本の美術147 鷲 塚泰光 S53 980
金 工史談(全2巻) 香取秀真 国書刊行会 S51 21000
日 本金工史 香取秀真 藤森書店 S57 6000
金 工史(考古学講座第5巻) 香取秀真 雄山閣 S5
造 像法概論・仏像鋳造法(仏教考古学講座第1巻」 逸見梅栄・香取秀真 雄山閣 S11
法 隆寺献納宝物 金銅仏T 東京国立博物館編 大塚工藝社  H8 28000
古 代小金銅仏 久野健 小学館 S57 33000
古 代の技術 小林行雄 塙書房 S37 950
続 古代の技術 小林行雄塙 塙書房 S39 2000
奈 良の大仏〜世界最大の鋳造仏〜 香 取忠彦 草 思社 S56 1500
東 大寺大仏の研究〜歴史と鋳造技術〜 前田泰次他 岩波書店 H9 32000
新 修国分寺の研究(第一巻 東大寺と法華寺) 角 田文衛編 吉 川弘文館 S61 9800
鋳 金家の見た東大寺大仏 戸 津圭之介 富 岡美術館 H3
論 争 奈良美術 大 橋一章編 平 凡社 H6 2860
鋳 造〜技術と源流の歴史〜 石 野亨 産 業技術センター S52 3000
技 術者のみた奈良と鎌倉の大仏 著 者代表・荒木宏 有 隣堂出版    S34 650
鎌 倉大仏〜東国文化の謎〜 清 水真澄 有 隣堂 S54 680
鎌 倉大仏と阿弥陀信仰 神 奈川県立金沢文庫 H14
日 本の鉄仏 佐 藤昭夫 小 学館 S55 24000
鉄 仏の旅 倉 田一良 佼 成出版社 S53 1300
関 東の鉄仏 埼 玉県立博物館 S48
押 出仏と仏 像型 奈 良国立博物館 S58
仏 教美術論考 三 森正士 法 蔵館 H10 22000
天 平彫刻の技法〜古典塑像と乾漆像について 本 間紀夫 雄 山閣 H10 15000
謎 の大寺 飛鳥川原寺 網 干善教・NHK取材班著 日 本放送出版協会 S57 1400
飛 鳥の仏と塑像〜川原寺裏山出土品を中心として 奈 良国立博物館 S51
仏 の来た道〜白鳳期仏教受容の様相〜 後 藤宗俊 思 文閣出版 H20 5985

 


       

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