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●あべのハルカス美術館で「円空展」開催(2/2〜4/7) (2024年2月24日‎)


大阪市のあべのハルカス美術館で、開館10周年記念展「円空〜旅して、彫って、祈って」が開催されています。




開催期間は、2024年2月2日(金)〜 4月7日(火) です。
詳しくは、あべのハルカス美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

ご紹介がちょっと遅ればせになりましたが、あべのハルカス美術館で大規模な円空仏展が開催されています。
現存する円空仏は5000体以上あるそうですが、本展覧会では著名な円空仏160体が出展され、円空の初期から晩年までの生涯をたどるものとなっています。
関西での大規模な円空展は約20年ぶりだそうです。

出展像については、展覧会ページの出品リストをご覧ください。
有名処では、円空仏の寺として知られる岐阜県千光寺の巨大な金剛力士像や両面宿儺坐像、円空最晩年の作である岐阜県・高賀神社の十一面観音菩薩・善女龍王・善財童子3像などが出展されています。

  
(左)千光寺・金剛力士像、(中)千光寺・両面宿儺坐像、(右)高賀神社〜十一面観音菩薩・善女龍王・善財童子3像

あの円空仏の「素朴な微笑み、プリミティブな力強さ、精神性」といた魅力の世界を堪能できることと思います。

日本仏教彫刻史の埒外にあった円空仏が、芸術作品として注目されるようになったのは、昭和の時代になってからのことでした。
初めて円空仏を発見しその魅力に惹かれたのは、彫刻家、橋本平八(1897〜1935)だそうです。
橋本は、昭和6年(1931)飛騨千光寺で円空仏に出会い感銘し、円空仏を蒐集しましたが、その後も円空仏が世に広く知られ評価されることはありませんでした。

円空が有名になるようになったのは、昭和32年(1957)「円空上人彫刻展」が岐阜県立図書館で催されたのが、大きなきっかけとなったようです。
昭和34年(1959)には、民芸運動で著名な柳宗悦が主催発行する雑誌「民芸」9月号で円空特集が組まれました。
柳宗悦や谷口順三(後の円空学会理事長)の文章のほか、当時、岐阜大学助教授の土屋常義氏の「円空の芸術」という論文が掲載されました。
昭和35年(1964)には、神奈川県立近代美術館で「円空上人彫刻展」が催されました。
このようにして、昭和30年代に至って、円空仏が世に知られるようになり、また本格的な芸術作品として評価を受けるようになったようです。

今では円空の名前を知らない人はまずいないというほどに、極めて高い芸術的評価を得ている円空仏ですが、昭和戦前までは評価の対象外で、その存在すら良く知られていませんでした。
そのことを振り返ると、世の芸術的評価「美の感性や評価のモノサシ」の移ろいというものに、思いを致さずにはいられません。

今月(2/12)まで、東京ステーションギャラリーで「みちのく いとしい仏たち展」が開催され、江戸時代の「みちのくの民間仏」が多数展示されました。
展示された「カミさま、ホトケさま」は、現代の仏教美術史では評価の対象になっていないといえると思います。
このような「民間仏」の造形が、将来どのように評価され位置付けられていくのかというのもまた、興味津々といった処です。

そんな視点からこの円空仏展を鑑賞してみるのも、面白いかもしれません。





●東京国立博物館で「中尊寺金色堂展」開催(1/23〜4/14) (2024年1月22日‎)


東京国立博物館で建立900年 特別展「中尊寺金色堂」が開催されます。

 


開催期間は、2024年1月23日(火) 〜 2024年4月14日(日) です。
詳しくは、東京国立博物館HP並びに展覧会ページ公式サイトをご覧ください。

本展は、金色堂上棟の天治元年(1124)から700年となることを記念して開催される特別展です。
展覧会では、金色堂内の須弥壇中央檀に安置される阿弥陀如来像をはじめとする諸仏像11体がすべて出展されます。
(展示作品は公式サイト・作品リストを参照ください)

金色堂内の諸仏像が、展覧会に出展されるのは、60年ぶりだということです。
(金色堂改修の際、同じく東京国立博物館で展示されたようです。)

中尊寺金色堂には3つの須弥壇が設けられ、清衡、基衡、秀衡の棺が納められていますが、壇上にはそれぞれ11体ずつ、合計33体の諸像が祀られています。
(11体の組み合わせは、阿弥陀三尊像、六地蔵像、二天王像となっています〜西南檀天部像1体は亡失し、現在は32体が祀られています。)
12世紀前半から平安最末期ごろまでの制作で、典型的な藤原様式の作風を示しています。


中尊寺金色堂内壇上に安置される諸仏像

これらの金色堂内諸尊像は、2004年(平成16年)に国宝に指定されました。
(全32躯中、西南檀阿弥陀像は後世の移入像のなので、31躯が国宝指定)
仏像一つ一つの造形表現を見ると、ある意味、定型的藤原様で「国宝なのかな?」と思ってしまいます。

金色堂の建物の方は、戦後国宝指定が始まった初年度、昭和26年(1951)に国宝に指定されています。
金色堂は、金箔と螺鈿による光の輝きの幻想的空間で、仏像も含めて精妙な工芸的装飾意匠のなかの荘厳空間全体に美術文化的な価値があるのだと思います。


中尊寺金色堂

仏像一つ一つの造形について評価するというのではなく、「堂の建築ぐるみの金色の装飾的世界」として意味があって、ようやく「金色堂と安置仏像とセットで国宝」になったということなのでしょう。

展覧会場は本館正面奥の特別5室で、小規模展と云って良いのものようですが、会場には実物大の金色堂が、高精細画像で大型ディスプレイ上に再現されるということです。
「金色の装飾的世界」のイメージを体感できるかもしれません。





●茨城県天心記念五浦美術館で「天心が託した国宝の未来〜新納忠之介、仏像修理への道」開催(12/9〜2/12) (2023年12月07日‎)


茨城県北茨城市の茨城県天心記念五浦美術館で企画展「天心が託した国宝の未来〜新納忠之介、仏像修理への道」が開催されます。

 


開催期間は、2023年12月9日(土)〜2024年2月12日(月) です。
詳しくは、天心記念五浦美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、「近代仏像修理の父」ともいわれるべき新納忠之介の業績をたどる企画展です。
新納忠之介は、明治の半ばに、岡倉天心の意を受けて、近代における仏像、文化財の修理修復の道を切り拓き、現在の美術院国宝修理所の創成に携わり、近代仏像修理の歴史とともに歩んできた人物です。
その間、新納が関った修理は、実に2631点にのぼります。

企画展開催主旨には、
「それまで確立した修理法が無かった仏像修理において、新納は試行錯誤を重ね、現状維持を基本とする新たな修理法を確立させました。
その技術は今日まで引き継がれています。
本展覧会では、修理図面や研究ノート、書簡といった新納忠之介旧蔵資料の他、新納が模刻した仏像等の彫刻作品も展示します。これらの品を通して、天心の目指す文化財保存の道をひたすらに歩んだ新納の業績を紹介します。」
と記されています。

  
(左)ボストン美術館修理所での新納忠之介、(中)新納忠之介模造・中尊寺一字金輪坐像、(右)修理図解 東大寺二月堂・十一面観音光背

これまで「新納忠之介と近代仏像修理」をテーマにした大きな展覧会は、2回開催されていると思います。

「没後50年 新納忠之介展〜仏像修復にかけた生涯」鹿児島市立博物館 2004年10〜11月
「仏像修理 100年」奈良国立博物館 2010年7〜9月

 


それぞれ、あまり大きな話題にはならなかった展覧会だったと思いますが、「明治以降の近代仏像修理の軌跡」などにご関心のある方には、誠に興味深い特別展であったのではないかと思います。
私も、共にジックリ観覧し、記憶に残る展覧会でした。

今回の企画展は、久方ぶりの「新納忠之介と仏像修理」にスポットを当てた展覧会の開催です。
いわゆる「仏像展」ではなく、仏像修理というマイナーなテーマで、開催場所も出かけるにはちょっと大変な茨城・五浦ということで、さほど注目されないのかもしれませんが、押さえておきたい企画展です。





●東京ステーションギャラリーで「みちのく〜いとしい仏たち展」開催(12/2〜2/12) (2023年12月07日‎)


東京都千代田区の東京ステーションギャラリーで特別展「みちのく〜いとしい仏たち」が開催されます。

 


開催期間は2023年12月2日(土) - 2024年2月12日(月) です。
詳しくは東京ステーションギャラリーHP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、本年4月〜5月に岩手県立美術館で開催された企画展「みちのく〜いとしい仏たち」の巡回展です。
9月〜11月には、京都・龍谷ミュージアムでも巡回展が開催されました。

展覧会内容などについては、このHPの【岩手県立美術館で「みちのく いとしい仏たち展」開催】をご覧ください。





●半蔵門ミュージアムで「初公開の仏教美術〜如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて〜展」開催(11/22〜4/14) (2023年11月22日‎)


東京都千代田区の半蔵門ミュージアムで特集展示「初公開の仏教美術〜如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて〜」が開催されます。

 


開催期間は、2023年11月22日(水)〜2024年4月14日(火) です。
詳しくは、半蔵門ミュージアムHP並びに特集展ページをご覧ください。

今回初公開として展示される如意輪観音菩薩像と二童子像は、醍醐寺伝来の平安時代制作の仏像です。

 
半蔵門ミュージアム〜(右)如意輪観音菩薩像(平安・10C)、(左)二童子像(平安末〜鎌倉・11C末〜12C初)

展覧会パンフレットによると、
「如意輪観音像は、平安時代中期、10世紀までさかのぼる貴重な作例です。
近時の修復で当初の面貌が明らかになりました。
二童子立像(矜羯羅・制タ迦)は、醍醐寺にあって一時期は現在当館所蔵の不動明王像に随伴していましたが不動明王像とは別具で、11世紀末、12世紀初めごろ制作された瀟洒な作品です。」
との解説がされています。

これらの像は、醍醐寺から真如苑に寄贈されたもののようで、二童子像は不動明王像とともに醍醐寺三宝院にあったそうで、その後、昭和5年(1930)創建の旧伝法学院に移された像だということです。

ご存じのとおり、半蔵門ミュージアムは運慶作とみられている大日如来像が常時展示されていることで知られています。
2005年に新発見となり、その後、2008年にクリスティーズのオークションにかけられ、14億円で落札、真如苑の所蔵となり、世間を大きく賑わせた超有名な仏像です。


半蔵門ミュージアム〜真如苑蔵・大日如来像(運慶作とみられる)

初公開の醍醐寺伝来の平安古仏、一度は見ておきたいものです。





●東京都・印刷博物館で「明治のメディア王〜小川一眞と写真製版展」開催(11/18〜2/12) (2023年11月22日‎)


東京都文京区の印刷博物館で、企画展「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」が開催されています。

 


開催期間は、2023年11月18日(土) 〜 2024年2月12日(月) です。
詳しくは、印刷博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、仏像とは直接関係ないのですが、明治期の古写真に関連した興味深い企画展のようですので、ご紹介しておきたいと思います。
小川一眞は、明治のメディア王とも呼ばれ、写真撮影をはじめ印刷、出版、乾板製造など写真を軸とした一連の事業を展開し、写真師としてただ一人、帝室技芸員を拝命した人物です。

古文化財、仏教美術の世界では、明治21年に実施された政府による本格的「近畿地方古社寺宝物調査」に同行し、多くの仏像写真などを撮影した写真師として知られています。

  
小川一眞が明治21年「近畿地方古社寺宝物調査」同行時に撮影した古写真
(左)興福寺北円堂・無着像、(中)東大寺法華堂・月光菩薩像、(右)興福寺金堂に集められた古仏像


小川一眞の撮影仏像写真は、明治期を代表する美術書「国華」「真美大観」「稿本帝国日本美術略史」などに掲載されていて、明治期撮影の文化財古写真として大変貴重なものとなっています。

小川一眞撮影の仏像古写真については、本HPや「観仏日々帖」でも何度も取り上げていますのでご記憶のある方もいらっしゃるのではないかと思います。
小川一眞その人については、観仏日々帖・新刊案内〜「帝国の写真師〜小川一眞」岡塚章子著〜で、詳しく詳細させていただいています。

今回の企画展は、
「写真師、小川一眞を中心に、写真製版が印刷をどのように変えたのか、近代日本における視覚メディアの発展と視覚文化の形成に与えた影響を探ります。」
という趣旨のものですので、
仏像や文化財古写真についての展示は殆どないのではないかと思いますが、明治期の古写真の世界にご関心のある方には興味深い企画展ではないかと思います。





●浜松市美術館で「みほとけのキセキU〜遠州・三河のしられざる祈り展」開催(10/14〜12/3) (2023年10月13日‎)


浜松市美術館で企画展「みほとけのキセキU〜遠州・三河のしられざる祈り」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月14日(土)〜12月3日(日) です。
詳しくは、浜松市美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、2020年3〜4月に開催された企画展「みほとけのキセキ〜遠州・三河の寺宝」の続編、第二弾となる展覧会です。
「今回の企画展「みほとけのキセキU〜遠州・三河のしられざる祈り」は、みほとけ展の続編に位置付け、通常非公開・寺外初公開の作例、近年の調査でその価値が見出された作例を紹介する他、前回展では紹介できなかった地域、時代の仏像も取り上げます。遠州・三河の「しられざる作例」の存在を再確認しながら、改めて遠州・三河に根付いた仏教文化の価値や魅力に迫ります。」
と、開催趣旨に述べられています。

出展仏像は、掲載展示目録をご覧ください。
50件の仏像が出展されますが、展示仏像の顔ぶれを見てみますと、「あの仏像が出展されるのだ」というような、良く知られた仏像はなさそうです。

  
展覧会に出展される仏像
(左)豊橋市 普門寺・聖観音像(平安後期)、(中)袋井市 西楽寺・月光菩薩像(平安後期)、(右)磐田市 定光寺・千手観音像(平安後期・市指定)


前回の「みほとけのキセキ展」では、摩訶耶寺・千手観音像(平安)、方広寺・釈迦三尊像(南北朝)など名の知られた重要文化財指定仏像が10躯も出展されましたが、今回は、重文指定の仏像(彫刻)の出展は無いようです。
(浜松市美術館蔵・刺繍不動明王二童子像掛幅が、唯一の重文指定出展作品です。)

私も、出展仏像で観たことのある仏像は1件も無く、全部、初見となる仏像です。
是非、出かけて「遠州・三河の知られざる仏像」に出会ってみたいと思っています。

また、本展では前回展と同様に、「出展仏像の写真撮影OK」となるようで、大変嬉しいことです。





●上原美術館で「伊豆仏に出逢う〜上原美術館の40年展」開催(10/7〜1/8) (2023年10月13日‎)


静岡県下田市の上原美術館で特別展「伊豆仏に出逢う〜上原美術館の40年」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月7日(土)〜2024年1月8日(月・祝) です。
詳しくは、上原美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

上原美術館は、大正製薬の名誉会長であった上原正吉・小枝夫妻の寄付により、1983年に上原氏の郷里である下田市に「上原仏教美術館」として開設され、現在に至っています。
今回の特別展は、開館40周年を記念して開催されるものです。

開催趣旨については、
「本展は、上原仏教美術館開館40周年を記念し、長年にわたって伊豆半島の仏像調査の最前線にあり続けている当館の活動を、調査した仏像の展示を通じて振り返る展示です。知られざる伊豆の歴史を秘めた、仏像との出逢いをお楽しみください。」
と述べられています。

上原美術館は、個人の寄付コレクションを展示する私立の美術館でありながら、設立以来、長年にわたり、伊豆地方を中心とする仏像の調査研究に取り組むとともに、毎年、伊豆の仏像についてのテーマ企画展を開催するという活動を展開、多くの研究成果を上げている、稀有とも言っても良い存在の私立美術館です。

1992年に美術館から出版された、「伊豆地方仏像調査報告書〜伊豆の仏像 南部編」は、美術館による仏像悉皆調査の報告書として大変貴重な調査資料になっています。

 


また、毎年の仏像企画展も興味深いテーマばかりで、私の手元にある展覧会図録だけでもご覧のようなものがあります。

 
私の手元にある上原美術館の仏像企画展図録の数々

一私立美術館で、これだけの伊豆地方仏像調査研究の成果を積み重ねていることに、驚きと敬服の念を抱かざるを得ません。

今回の記念展の展示仏像は、出展リストがまだ掲載されていませんので詳細は分からないのですが、南禅寺の二天像(平安・県指定)、下田 向陽寺・阿弥陀如来像(平安)、松崎町 吉田寺・阿弥陀三尊像(鎌倉・県指定)をはじめ、多数の伊豆の仏像が展示されるようです。

  
(左2躯)南禅寺・二天像(平安・県指定)、(中)向陽寺・阿弥陀如来像(平安)、(右)吉田寺・阿弥陀三尊像(鎌倉・県指定)

上原美術館の40年にわたる仏像調査&企画展開催の功績に想いを致す、注目の展覧会です。





●滋賀県立美術館で「千年の秘仏と近江の情景展」開催(10/7〜11/19) (2023年9月30日‎)


滋賀県大津市瀬田の滋賀県立美術館で「千年の秘仏と近江の情景」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月7日(土)〜11月19日(火) です。
詳しくは、滋賀県立美術館HPならびに展覧会ページをご覧ください。

この展覧会は特別展ではなく常設展の一企画として展示されるもので、
「湖南市の名刹正福寺の仏像を中心として、豊かな文化を育んできた滋賀の情景をあらわした作品を滋賀県立美術館のコレクションとともに展示します。」
というものです。

この小企画をわざわざご紹介するのは、湖南市 正福寺の厳重秘仏・大日如来坐像が、公開展示されるからです。
正福寺の大日如来像は厳重な秘仏となっており、公開されるのは33年ぶりのことで、寺外での公開は初めてになります。

  
(左・中)正福寺・大日如来坐像(平安・重文)、、(右)善水寺・不動明王像(平安・重文)〜正福寺像と作風が似通っている〜

像高:92.5p平安中後期(10C末〜11C初)の制作で、重要文化財に指定されています。
国内最古級の胎蔵界大日如来像で、ふくよかで丸顔の顔つきは10世紀末ごろの制作の善水寺の諸像と似通ったところがあることが指摘されています。

正福寺には、この大日如来像のほかに4躯の観音像(平安)、薬師如来像(平安)、地蔵菩薩像(平安)が遺されていて、すべて重要文化財に指定されています。
私も、これまで2度、正福寺を訪ねたことがありますが、大日如来像は秘仏で拝することが出来ませんでした。

現在、秘仏・大日如来像は琵琶湖文化館に寄託されているようですが、まさかこの秘仏が美術館で公開されるとは思いもよりませんでした。

出展仏像は作品リストのとおりですが、正福寺の3躯の観音像のほか、大日如来像と近しい関係にあると思われるにあると思われる、善水寺・不動明王像(平安・重文)が特別出展されます。
この不動明王像も、一見の価値がある、なかなか魅力的な仏像です。

小規模な展示企画ですが、正福寺・大日如来像を美術館で眼前に観ることが出来る、またとないチャンスです。
是非、出かけたいと思っています。





●神奈川県立歴史博物館で「足柄の仏像展」開催(10/7〜11/26) (2023年9月30日‎)


横浜市の神奈川県立歴史博物館で特別展「足柄の仏像」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月7日(土)〜11月26日(火) です。
詳しくは、神奈川県立歴史博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

この展覧会は、足柄地域(神奈川県西部、西湘)の仏像を紹介する特別展で、本博物館初となるものです。
神奈川県の彫刻を地域別に紹介する特別展としては、2020年に「相模川流域のみほとけ」展が開催されましたが、本展はこれに続く第2弾と云えるものです。

足柄地方の仏像は、辺鄙で訪ねるのが大変だったり、拝するのが難しい処が多いのですが、この展覧会では、当地の主だった仏像が一堂に出展されるという、得難い機会です。

約80件(重文:3件、県指定13件)の仏像・神像・肖像彫刻・仮面が出展されるということです。
出展仏像のリストはまだ掲出されていませんが、展覧会ページには主な出展仏像が掲載されています。
良く知られた箱根神社・満願上人坐像(平安前期・重文)、2006年に調査により存在が確認され新発見となった箱根神社・男神女神像(平安・重文)が出展されるのは注目です。

  
(左)箱根神社・満願上人坐像(平安前期・重文)、(中)女神像(平安・重文)、(右)男神像(平安・重文)

掲載仏像のなかで、私が拝したことがあるのは、箱根神社像のほかには、南足柄市の保福寺・薬師如来像、朝日観音堂・聖観音像だけで、残りの仏像はみんな未見の仏像ばかりです。

 
(左)保福寺・薬師如来像(平安・県指定)、(右)朝日観音堂・聖観音像(平安・県指定)

足柄地方の隠れた古仏を一挙に観ることが出来る、見逃せない仏像展だと思います。





●京都国立博物館で「東福寺展」開催(10/7〜12/3) (2023年9月30日‎)


京都国立博物館で、特別展「東福寺」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月7日(土)〜12月3日(火) です。
詳しくは、京都国立博物館HP並びに展覧会ページ展覧会公式サイトをご覧ください。

本展覧会は、今年3月〜5月に東京国立博物館で開催された特別展「東福寺」の巡回展です。
展覧会の概要や見どころについては、このHPの【東博で「東福寺展」開催】でご紹介しておりますので、そちらをご覧ください。





●千葉 市原歴史博物館で「いちはらのお薬師様展」開催(10/1〜12/24) (2023年9月22日‎)


千葉県市原市の市原歴史博物館で、特別展「いちはらのお薬師様〜流行り病と民衆の祈り」が開催されます。

 


開催期間は、2023年10月1日(日)〜12月24日(日) です。
詳しくは、市原歴史博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展覧会は、昨年(2022年)11月に開館した市原歴史博物館が、市制施行60周年記念事業として、開館後初の特別展として開催されるものです。

特別展開催主旨には、
「本特別展では、新型コロナウイルスの終息を願い、県内最古の白鳳仏である栄町龍角寺「銅造薬師如来坐像(国指定重要文化財)」をはじめ、市内に残る平安時代後期以降の木造薬師如来坐像や日光・月光菩薩、十二神将像など、県や市の指定文化財を含む43体が一堂に集結します。
これまで世に出ていなかった本市の貴重な歴史遺産を多数紹介し、先人たちが流行り病にどう対処してきたのか、その歴史や祈りのすがたを紹介し、様々な体験を通じてわかりやすく伝えます。」
と記されています。

出展リストは、まだ掲載されていませんが、展覧会チラシによると、皆さん良くご存じの龍角寺・薬師如来像(白鳳〜天平・重文)をはじめとして、橘禅寺・薬師如来坐像(鎌倉・県指定)、光善寺・薬師如来坐像、法行寺・薬師如来坐像(平安末・市指定)、称禮寺・薬師三尊像(平安後期・県指定)などが出展されることになっています。

 
(左)橘禅寺・薬師如来坐像(鎌倉・県指定)、(右)称禮寺・薬師如来像(平安後期・県指定)

橘禅寺・薬師如来像は、胎内に墨書銘があり、1262年に、前年焼失した本尊に代わって、仏師・大仏師常陸公蓮上、小仏師・信濃公新蓮により造立されたことが明らかになっている像です。

全部で43体の仏像が出展されるということですが、このほかにはどのような仏像が展示されるのでしょうか?
市原市を中心とする知られざる仏像に出会えるのかもしれません。

ちょっと、興味津々の仏像展です。





●MIHO MUSEUMで「金峯山の遺宝と神仏展」開催(9/16〜12/10) (2023年9月20日‎)

滋賀県甲賀市のMIHO MUSEUMで、秋期特別展「金峯山の遺宝と神仏」が開催されます。

 


開催期間は2023年9月16日(土)〜12月10日(日) です。
詳しくは、MIHO MUSEUM・HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展開催趣旨は、
「奈良県の吉野から大峰山にいたる山系は金峯山とも呼ばれ、藤原道長ら有力貴族が参詣する屈指の霊場でした。
本展では、近年発見された貴重な出土品を含めた、役行者、蔵王権現など、彫刻、絵画、工芸品を約200点展示し、平安人の心の拠りどころとなった「金峯山信仰」のようすを紹介します。」
というものです。

出展作品については、HP・展示品リストをご覧ください。
金銅藤原道長経筒をはじめ金峯山信仰にかかわる名品がこぞって展示されます。

彫刻関係での注目は、「第3章〜蔵王権現」と題する展示で、西新井大師總持寺・蔵王権現鏡像(長保3年・1001年〜国宝)をはじめ、各地の蔵王権現の古像がいくつも出展されることです。

とりわけ、私の大注目は、東京〜五社神社蔵・蔵王権現立像(平安・都指定)が出展されることです。
知られざる、蔵王権現像の古像といってよいのだと思います。

五社神社というのは東京都のハズレのハズレ、奥多摩の秘境と云われる檜原村人里(ヒノハラムラ・ヘンボリ)という処にある、山中の知られざる神社です。
この五社神社に、平安時代の蔵王権現像のほか、数体の古像が遺されているのです。
蔵王権現像は、10世紀に遡る制作とみられていて、片足を挙げた蔵王権現像の大変に古い貴重な作例とされています。

  
東京〜五社神社蔵・蔵王権現立像(平安・都指定)、(中・右)は、五社神社訪問時に撮影した写真

それよりも何よりも、惹き付けられるのは、圧倒的な迫力の造形です。
力感十分で太造り、重量感があり、逞しく魅力的です。

本像の存在を知る人は、そう多くないでしょう。
五社神社まで訪れてこの像を拝したことのある方は、本当に少ないのではないかと思います。

私は、8年前に、この辺境ともいえる五社神社を訪ねて拝したのですが、その時受けたインパクトと驚きは忘れられないものとなっています。

  
東京〜檜原村人里にある五社神社社殿と社殿内厨子に祀られる諸像

その五社神社・蔵王権現像が、本展に出展されるというので、ビックリしてしまいました。
知られざる五社神社・蔵王権現像が、本展出展を機に、広く注目されるようになるのではないかと思っています。

仏像愛好の方は、是非、一度観ておく値打ちがある像ではないかと思います。





●栗東歴史民俗博物館で「栗東の神・仏展」開催(9/16〜11/26) (2023年9月20日‎)

滋賀県栗東市の栗東歴史民俗博物館で良弁僧正1250年御遠忌記念収蔵品展「栗東の神・仏」が開催されます。

 


開催期間は、2023年9月16日(土)〜11月26日(火) です。
詳しくは、栗東歴史民俗博物館HPをご覧ください。

本展は、今年が、金勝寺を開いた僧・良弁僧正の没後1250年の記念の年(1250年御遠忌)にあたることから、良弁僧正1250年御遠忌によせて、収蔵資料から、栗東に花開いた宗教文化について紹介するものです。

出展作品については、出品目録をご覧ください。
仏像(神像)については、収蔵作品から金勝寺、善勝寺ゆかりの仏像を中心に約30躯が展示されます。

重要文化財指定像は、小槻大社・男神坐像(2躯・平安)、西遊寺・毘沙門天像(平安)、円満寺・十一面観音像(平安)が展示されます。

  
(左)小槻大社・男神坐像(平安・重文)、(中)西遊寺・毘沙門天像(平安・重文)、(左)円満寺・十一面観音像(平安・重文)

円満寺の観音像は、博物館収蔵像ではなくスポット展示となるのですが、井上靖著の小説「星と祭」に描かれる、近江の十一面観音巡りがのなかにも綴られていることでも知られている像です。

栗東歴史民俗博物館で、これまで開催された仏像企画展に登場する顔ぶれが多いのですが、なかなかの佳品ぞろいで、観ておきたい企画展だと思います。





●東京国立博物館で「京都・南山城の仏像展」開催(9/16〜11/12) (2023年9月5日‎)

東京国立博物館で浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」が開催されます。

 


開催期間は、2023年9月16日(土) 〜 2023年11月12日(火) です。
詳しくは、東京国立博物館HP展覧会ページ並びに展覧会公式サイトをご覧ください。

本年7〜9月に、奈良国立博物館で特別展「聖地 南山城〜奈良と京都を結ぶ祈りの至宝」が開催されました。
奈良博展は大規模な特別展だったのですが、東博開催の本展は奈良博の巡回展ではなく、いくつかの仏像をピックアップした小規模な特別展になっています。
開催場所も平成館ではなく、本館正面奥の特別5室での開催となっています。

出展仏像の目録はまだ掲出されていませんが、
浄瑠璃寺・九体阿弥陀像(平安後期・国宝)のうちの1体、海住山寺・檀像風十一面観音像(平安前期・重文)、禅定寺・十一面観音像(平安中期・重文)、極楽寺・行快作阿弥陀如来像(鎌倉・重文)
などが、出展されるようです。

  
(左)海住山寺・十一面観音像(平安前期・重文)、(中)禅定寺・十一面観音像(平安中期・重文)、(左)極楽寺・行快作阿弥陀如来像(鎌倉・重文)

海住山寺・十一面観音像と極楽寺・阿弥陀如来像は、「京博展」には出展されておらず、「東博展のみ」の出展となっています。





●おのみち歴史博物館で「調査してみたら・すごいぞ尾道の仏様!展」開催(9/2〜11/15) (2023年9月5日‎)

広島県尾道市のおのみち歴史博物館で、令和5年度尾道市史編さん事業企画 新指定文化財公開展「調査してみたら・すごいぞ尾道の仏様!」が開催されます。

 


開催期間は2023年9月2日(土)〜11月5日(日)です。
詳しくは、尾道市HP・おのみち歴史博物館ページをご覧ください。

「調査してみたら・すごいぞ 尾道の仏様!」という展覧会名を目にしただけで、ワクワクした気持ちになってしまいます。

本展は、現在編纂刊行中の「新尾道市史」刊行事業の一環として実施されている彫刻分野の文化財調査の成果を紹介する企画展です。
彫刻調査は、北部御調地域から南部生口島地域まで、本調査に悉皆調査を含めて400躯以上となる大規模なものであったそうです。
本展では、
「仏教美術史(彫刻史)の専門家たちによる調査では、未指定の文化財の中には美術的・学術的に価値が高いと判断される彫刻が多数存在することが判明しました。
新指定文化財を一般に公開し紹介するもので、普段は観る機会が少ない平安時代後期から室町時代までの仏像などを紹介します。」
ということです。
出展目録は掲載されていないのですが、展覧会ポスターに載せられている天部像の写真を見ると、なかなかに興味深いものがあります。

「新尾道市史・文化財編」は、上巻が2019年に刊行されていますが、仏像彫刻が掲載される下巻の刊行はこれからのようです。
下巻の刊行が、愉しみです。





●大阪・高島屋史料館で「万博と仏教〜オリエンタリズムか、それとも祈りか?展」開催(8/5〜12/25) (2023年9月5日‎)

大阪市浪速区の高島屋史料館で企画展「万博と仏教〜オリエンタリズムか、それとも祈りか?」が開催されています。

 


開催期間は2023年8月5日(土)〜12月25日(月)です。
詳しくは、高島屋史料館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

この企画展は仏像の展覧会ではないのですが、明治以降近代における
「万国博覧会に出展された仏教に関する展示物を概観しながら、近代における仏教のイメージの受容と、その変遷について考察してみたい。」
という、まことに興味深いテーマの展覧会です。

明治政府として初の公式参加となったウィーン万国博覧会(1873)から、大阪万博(1970)に至るまで、五重塔や平等院鳳凰堂を模したパビリオンはじめとする仏教イメージとオリエンタリズムについていろいろな側面からのアプローチがされているようです。

この企画展の監修は、結構話題を呼んだ本「観音像とは何か〜平和モニュメントの近・現代」(2021年・青土社刊)の著者である君島彩子氏です。
私はこの本を、久々に新鮮な刺激を受けて、まことに興味深く読みました。
その君島氏の監修展ということですので、どのような企画展か是非出かけてみてみたいものと思っています。

企画展には大阪万博で展示されたという仏像のレプリカがいくつも展示されています。
展示レプリカは、薬師寺東院堂・聖観音像、唐招提寺・講堂如来像、同聚院・不動明王像、四天王寺・阿弥陀如来像などのようです。
これもまた一見してみたいものです。

 
「万博と仏教」展に展示されている大阪万博展示の仏像レプリカ





●龍谷ミュージアムで「みちのく〜いとしい仏たち展」開催(9/16〜11/19) (2023年9月5日‎)

京都 龍谷ミュージアムで特別展「みちのく〜いとしい仏たち」が開催されます。

 


開催期間は2023年9月16日(土)〜11月19日(日)です。
詳しくは龍谷ミュージアムHP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、本年4月〜5月に岩手県立美術館で開催された企画展「みちのく いとしい仏たち」の巡回展です。

展覧会内容などについては、このHPの【岩手県立美術館で「みちのく いとしい仏たち展」開催】をご覧ください。





●石川県立歴史博物館で「いしかわの霊場〜中世の祈りとみほとけ展」開催(7/22〜9/3) (2023年7月23日‎)

石川県金沢市の石川県立歴史博物館で特別展「いしかわの霊場〜中世の祈りとみほとけ」が開催されます。

 
展覧会チラシ〜(左)は明泉寺・千手観音像(平安・県指定)、(右)右上は石動山天平寺・十一面観音像(南北朝・町指定)

開催期間は、2023年7月22日(土)〜9月3日(日) です。
詳しくは、石川県立歴史博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、石川県内における霊場の成立、および中世における展開を、今に残る霊場を中心に紹介する特別展です。
出展作品については、展覧会ページ・出品一覧をご覧ください。

出展仏像を見ると、能登方面のあまり知られていない、見所ある仏像がいくつも出展されるようです。
能登方面で知られている仏像というと、珠洲市薬師寺・金銅薬師三尊像(白鳳・重文)や、羽咋市豊財院の3体の彫像(十一面観音・聖観音・馬頭観音像〜平安・重文)ぐらいではないかと思います。

 
(左)珠洲市薬師寺・金銅薬師三尊像(白鳳・重文)、(右)羽咋市豊財院の3体の彫像(平安・重文)

出品一覧を見ると、今回の仏像出展は、こうした著名像ではない在地霊場の仏像が、18件展示されるようです。
展覧会ページには、穴水市明泉寺の千手観音像(平安時代・県指定)、伝阿弥陀如来像(平安・町指定)、珠洲市曹源寺・阿弥陀三尊像(平安・県指定)、中能登町石動山天平寺・十一面観音像(南北朝・町指定)などの写真が掲載されていますが、それぞれになかなか興味深いものがあります。

 
(左)穴水市明泉寺・伝阿弥陀如来像(平安・町指定)、(右)珠洲市曹源寺・阿弥陀三尊像(平安・県指定)

私も、展示仏像の中で拝したことがあるのは、木造泰澄及二行者像(文化庁蔵・福井県博保管〜室町・重文)だけで、あとの仏像は全く未見のものです。
能登方面の仏像が展示される企画展は、2003年に同じ福井県立博物館で開催された「能登 仏像紀行展」以来の事ではないかと思います。

知られざる能登の未見の仏像を見ることが出来るなかなか無い機会で、出かけてみようかと思っています。





●福井市立郷土歴史博物館で「福井の里山 文殊山ゆかりの神仏展」開催(7/27〜9/3) (2023年7月23日‎)

福井市の福井市立郷土歴史博物館で令和5年夏季特別陳列「福井の里山 文殊山ゆかりの神仏」が開催されます。

 


開催期間は、2023年7月27日(木)〜9月3日(火) です。
詳しくは、福井市立郷土歴史博物館並びに展覧会ページをご覧ください。

本展の開催趣旨について展覧会ページによると、
「文殊山は、奈良時代の名僧・泰澄が開いたとされる「越前五山」の一つに数えられる霊山であり、その山麓には文殊山信仰の拠点である楞厳寺をはじめ、数多くの密教寺院が栄えていたと伝わります。
本展では、文殊山ゆかりの仏像を中心に展示し、文殊山の深遠な歴史と信仰を紐解いていきたいと思います。」
と述べられています。

文殊山はハイキングコースとしても親しまれている標高365mの小高い山ですが、その麓には、9〜10世紀の優作として知られる秘仏・十一面観音像(重文)が安置されている二上観音堂があります。

ご存じのとおり、本年5月には、33年ぶりの秘仏御開帳がありました。
観仏日々帖「福井・二上観音堂の秘仏本尊・十一面観音像 御開帳観仏記」をご参照ください。

展覧会には、残念ながら秘仏・十一面観音像は出展されませんが、同じお堂に祀られる多聞天像、広目天像(平安後期・市指定)が出展されます。

  
(左)二上観音堂・十一面観音像(平安・重文〜本展には出展されず〜(中)多聞天像、(右)広目天像〜共に平安後期・市指定〜

文殊山のある地域は、文殊山信仰の拠点であるとともに、奈良時代に開発された東大寺領荘園「糞置荘」の荘域でもあったところです。
今回の展覧会では、こうした文殊山ゆかりの仏像が、多数出展されます。

  
展覧会出展像〜(左)冬野町・十一面観音像(平安後期・市指定)、(中)楞厳寺・文殊菩薩像(平安後期)、(右)泰澄寺〜伝泰澄大師像(平安前期・県指定)

なかなか興味深い展覧会です。





●岡山県立博物館で「慈悲のほとけ〜観音と古寺の名宝展」開催(7/28〜9/3) (2023年7月23日‎)

岡山市の岡山県立博物館で特別展「慈悲のほとけ〜観音と古寺の名宝」が開催されます。

 


開催期間は、2023年7月28日(金)〜9月3日(日)です。
詳しくは、岡山県立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展覧会は、中国観音霊場に伝わる様々な観音像の魅力に迫るとともに、歴史ある諸寺院に伝わる書画・彫刻等の名宝を紹介するものです。

最大の注目は、岡山市・法界院の秘仏「聖観音菩薩立像」(平安・重要文化財)が出展され、寺外初公開となることです。
法界院の秘仏・聖観音像は33年に一度の秘仏となっており、2021年に33年ぶりの御開帳がありました。
この秘仏が展覧会に出展されるというのは、ちょっとビックリしました。

 
法界院・聖観音像(平安・重文)

法界院・聖観音像は、10世紀後半の制作とみられる一木彫像です。
像高:104cm、ヒノキ材の一木彫像で内刳りは無く、技法的には古様なのですが、天衣の彫成は簡素で彫りも浅くなっており、穏やかな顔貌となっています。
地方作の素朴な魅力を感じさせる仏像です。
私は未見の像ですが、一度は、観ておきたい平安古仏ではないでしょうか。

出展作品目録は、まだ掲載されていないのですが、仏像では餘慶寺・聖観音像(平安後期・重文)、三佛寺・十一面観音像(平安後期・重文)、大山寺・金銅観音菩薩像(奈良・重文)などが出展されるようです。





●奈良国立博物館で「聖地 南山城〜奈良と京都を結ぶ祈りの至宝展」開催(7/8〜9/3) (2023年6月28日‎)

奈良国立博物館で、浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「聖地 南山城〜奈良と京都を結ぶ祈りの至宝」が開催されます。


開催期間は、2023年7月8日(土)〜9月3日(火) です。
詳しくは、奈良国立博物館HP並びに展覧会ページ公式サイトをご覧ください。

この展覧会は、浄瑠璃寺・九体阿弥陀如来像の修理の完成を記念して開催される特別展です。
展覧会では、修理を終えた九体阿弥陀像のうちの2躯が出展されるほか、南山城の寺社に伝わる仏像や神像を中心に、絵画や典籍・古文書、考古遺品などを一堂に展観されます。




仏像の出展も、大変充実したものとなっています。
南山城にある主要な仏像のうち、出展されない蟹満寺・金銅釈迦如来像(白鳳〜奈良・国宝)、観音寺・十一面観音像(奈良・国宝)を除いては、そのほとんどすべてが勢ぞろいすると云ってよいのではないかと思います。
出展仏像については、展覧会ページに出陳予定作品一覧が掲載されていますので、ご覧ください。


展覧会では、次の2点が大きな見どころとされています。

【第1点】は、修理が完成した浄瑠璃寺・九体阿弥陀如来像(平安後期・国宝)のうちの2躯が、出展されることです。

 
展覧会に出展される、修理を終えた2躯の浄瑠璃寺・阿弥陀如来像(平安後期・国宝)

浄瑠璃寺・九体阿弥陀像は、2018年から5年がかりで、明治期以来およそ110年ぶりに保存修理が行なわれました。
その最終年度に完成した2躯(その1と8)が展覧会に出展されます。
修理の内容、状況リポートなどは、紡ぐプロジェクト公式サイト・文化財修理記事に、何回にもわたって掲載されています。
「国宝 九体阿弥陀〜最後の2体が修理所へ」などの記事を、ご参照ください。

【第2点】は、明治時代前期に、浄瑠璃寺から寺外に出てしまった十二神将像(鎌倉・重文)と、その主尊であった浄瑠璃寺・薬師如来像(平安・重文)が、展覧会に展示されることになり、離れ離れになってから140年ぶりの再会が実現することです。


浄瑠璃寺・薬師如来像(平安重文)と浄瑠璃寺伝来・十二神将像(鎌倉・重文)〜東博・静嘉堂文庫文蔵

十二神将像は、現在三重塔に安置される薬師如来像の眷属として祀られていたのですが、明治前期2度にわたって全躯がお寺から外に出て、何人かの所蔵者を経て、現在では東京国立博物館に5躯、静嘉堂文庫に7躯がそれぞれ所蔵されています。
主尊薬師像と眷属十二神将像の再会は、今回が初めてのことで、まさに140年ぶりの里帰りということになります。
十二神将像の寺外流出やその後の経緯、再会にかかわる話については、観仏日々帖「博物館の気になる仏像あれこれH〜東京国立博物館・静嘉堂文庫分蔵の浄瑠璃寺伝来・十二神将像」「再会〜離れ離れになった仏たちD:いくつかの再会」で、詳しくご紹介していますので、ご覧ください。


私の最大の注目は、次の2点の仏像が展覧会に出展されることです。

【第1点】は、常念寺・菩薩立像の出展が出展されることです。

相楽郡精華町にある常念寺に祀られる、等身一木彫の菩薩像(平安・重文)です。

    
常念寺・菩薩立像(平安前期・重文)

あまり広く知られていませんが、9〜10Cの制作とみられ、見事な造形、堂々として雄偉、雄渾な空気感が漂う優作です。
私の記憶の限りでは、これまで本像が寺を出て、展覧会に出展されたことは無かったのではないかと思います。

もう一つ特筆すべきことは、本像が、初期の神仏習合像で、菩薩形の薬師像という「薬師菩薩」の作例ではないかとして指摘されていることです。
明治初年までは近隣の祝園神社神宮寺にあって、江戸時代には薬壺を持ち、十二神将の眷属が祀られていました。
初期神仏習合像の有様や、神の姿を現したという「薬師菩薩」といった興味津々のテーマを考えるうえでも、大変貴重な作例となっています。
本展の中でも、必見の仏像だと思います。
常念寺・菩薩像については、観仏日々帖「常念寺(京都精華町)・菩薩像は、薬壺を持っていたのか?」「京都府精華町・常念寺の菩薩立像」で、ご紹介しておりますので是非ご覧ください。

【第2点目】は、和束町 薬師寺・薬師如来像蟹満寺・阿弥陀如来像が出展されることです。

    
(左)和束町 薬師寺・薬師如来像(平安前期・重文)、(右)蟹満寺・阿弥陀如来像(平安前期・市指定)

和束町・薬師如来像(平安前期・重文)〜像高:56.4cmは、9Cの一木彫像なのですが、奈良時代の乾漆像に違いないと見紛わせるような衣文表現という珍しい造形が注目の像です。
平安初期彫刻の塊量的ボリューム感と奈良時代の乾漆表現が同居しているという不思議な像で、このような像が奈良に近い南山城和束の地に残されているのが、興味深い処です。
なかなか魅力的な造形で、一度は観ておきたい像ですが、現地で拝するのも難しく、また展覧会などに出展されることも少ないので、今回がいいチャンスかと思われます。

蟹満寺・阿弥陀如来像(平安前期・市指定)も、こうした奈良乾漆系の造形感の系譜にある像で、和束町像ほどのインパクトはありませんが、なかなか興味深い像です。
南山城地域における奈良様の系譜というものについて、考えさせてくれる2像です。
両像については、観仏日々帖「京都府相楽郡和束町・薬師寺の薬師如来坐像」でご紹介していますので、ご覧ください。





●香川県立ミュージアムで「空海〜史上最強、讃岐に舞い降りた不滅の巨人展」開催(4/22〜5/21) (2023年4月12日‎)

香川県高松市の香川県立ミュージアムで弘法大師空海生誕1250年記念特別展「空海〜史上最強、讃岐に舞い降りた不滅の巨人」が開催されます。

 


開催期間は、2023年4月22日(土)〜5月21日(火) です。
詳しくは、香川県立ミュージアムHP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、弘法大師空海生誕1250年を記念して空海生誕の地とされる讃岐を中心としたゆかりの文化財をかつてない規模で展示する特別展です。
出品目録はまだ掲出されていませんが、国宝10件、重文15件、地方指定文化財7件を含む60件が出展されるとのことです。

仏像は、願興寺・聖観音坐像、井戸寺・十一面観音立像、法蓮寺・不空羂索観音坐像、與田寺・不動明王立像など、見どころ十分の香川、徳島を代表する仏像が出展されます。

    
(左)願興寺・聖観音坐像(奈良・重文)、(中)井戸寺・十一面観音立像(平安前期・重文)、法蓮寺・不空羂索観音坐像(平安後期・重文)

願興寺・聖観音坐像(奈良時代・重文)は、
数少ない奈良時代の脱活乾漆造の観音像で、南都の官営仏所の制作と考えられる、美麗な優作です。
四国では、唯一の脱活乾漆造の仏像作例です。

井戸寺・十一面観音像(平安前期・重文)は、
9世紀末から10世紀の制作で、徳島県最古の木彫像と言われています。
口をへの字に結び唇を突き出した顔貌、中心線から大胆に歪んだ体躯の造形が、独特の強烈なインパクトを発散させている一木彫像です。
得も言われぬ存在感は、全国の地方仏の中でも屈指の惹き付ける魅力あふれる像だと思います。
寺外初公開の出展となるということです。

法蓮寺・不空羂索観音坐像(平安後期・重文)は、
全国でも数少ない坐像の不空羂索観音像です。
張りのあるモデリング、均整の取れた体躯のバランス、彫技の入念さは、それぞれに見事で、堂々たる安定感、重厚感は、鄙の地には稀な一流の仏師の腕になるものだと思われます。

與田寺・不動明王立像(鎌倉・重文)は、
江戸時代の台座修理銘に作者は湛慶で、京都・東寺より移安されたと記されている像です。
湛慶作の伝来は信じられないものの、運慶作の願成就院像、浄楽寺像に通じる特色が伺え、運慶周辺の仏師の作ではないかとみられています。

香川、徳島の見どころある優作像を一度に観ることができる、興味深い展覧会です。





●岩手県立美術館で「みちのく いとしい仏たち展」開催(4/8〜5/21) (2023年4月2日‎)

岩手県盛岡市の岩手県立美術館で企画展「みちのく いとしい仏たち」が開催されます。

   
(左)展覧会チラシ(右)青森県田子町〜洞圓寺・矜羯羅童子像(江戸)

開催期間は、2023年4月8日(土)〜5月21日(火) です。
詳しくは、岩手県立美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、京都、東京でも、以下のとおり巡回展が開催されます。
龍谷ミュージアム〜開催期間:2023年9月16日(土)〜2023年11月19日(日)
東京ステーションギャラリー〜開催期間:2023年12月2日(土)〜2024年2月12日(月)

本展覧会は、いわゆる仏教美術作品としての仏像の展覧会ではなくて、
「岩手県や青森県に多く残る、江戸期の庶民が祈りを託した素朴な民間仏を紹介し、日本における信仰と造形の本質について検証」
するという企画展です。

展示される仏像は、江戸時代に仏師の手ではなく土地の大工や職人らの手によって刻まれた、大変素朴な「カミさま、ホトケさま」たちです。
開催趣旨には、
「このような、いわゆる仏師ではない人が造った尊像は「民間仏」と称され、近年注目を集めています。
北東北にはユニークな民間仏がいまでも多く残っており、大切に護られています。
そのやさしく、ほっこりするような造形は、厳しい風土に生きる人々の切なる思いがそのまま託された祈りのカタチといえるでしょう。
本展は、その素朴さゆえにこれまで顧みられなかった北東北の民間仏約130点を一堂に集め、その魅力をはじめてご紹介するとともに、日本における信仰と造形の本質を問い直そうとするものです。」
と述べられています。

  
(左)岩手県葛巻町〜宝積寺・六観音像(江戸)、(右)岩手県奥州市〜黒石寺・十王像(江戸)

展示される「カミさま、ホトケさま」は、現代の仏教美術史では評価の対象になっていないといえると思います。
このような「民間仏」の造形がどのように評価され位置付けられていくのかは、興味津々といった処です。
木喰仏や円空仏の芸術性が見いだされるようになったのは、昭和の時代に入ってからのことです。

そんなことを考えると、「美の感性や評価のモノサシ」は、これからどのように移ろっていくのでしょうか?
ちょっと気になる展覧会です。





●銀座キヤノンギャラリーで「佐々木香輔 写真展〜快慶 ひかりを刻む〜」開催(4/4〜4/15) (2023年4月2日‎)

東京銀座のキヤノンギャラリーで、佐々木香輔 写真展「快慶 ひかりを刻む」が開催されます。

開催期間は、2023年4月4日(火)〜4月15日(土) です。
詳しくは、キャノンギャラリーHP・写真展ページをご覧ください。

この写真展は、大阪中之島のキャノンギャラリー大阪でも巡回開催されます。
開催期間は、2023年8月1日(火)〜8月12日(土) です。

佐々木香輔氏は、仏像写真で有名な奈良「飛鳥園」に勤務ののち、奈良国立博物館の写真技師(2009〜2020)を務めた写真家です。
2015年に奈良博で「大和の仏たち〜奈良博写真技師の眼」という企画展が開催されたのを覚えておられる方もあろうかと思いますが、本展の企画担当をした方でもあります。

佐々木氏は、かねてから仏像写真の「ライティング」、すなわち光が生み出す作用、効果について深い関心、こだわりがある旨、執筆文などで語っており、本写真展「快慶 ひかりを刻む」の紹介文にも
「『仏像を見ることは、ひかりを見ることである』
写真家、佐々木香輔氏はこう語ります。
光をどう受けるかによって、仏像の表情が不思議なほどに変化するというのです。
そして、仏師・快慶が造った仏像は特に光を意識したものだと、氏は撮影を重ねるうちに強く感じるようになったといいます。」
と記されています。

快慶作品が勢ぞろいした奈良博「快慶展」(2017年開催)の図録仏像写真の多くも、佐々木氏撮影によるものです。
仏像はライティングによって全く違った印象に見えてしまうのですが、本写真展で、快慶の仏像が光によってその魅力がどのように引き出されているのか、大変興味深く感じます。





●東京都写真美術館で「土門拳の古寺巡礼展」開催(3/18〜5/14) (2023年3月18日‎)

東京都目黒区の東京都写真美術館で「土門拳の古寺巡礼」展が開催されます。

 

開催期間は2023年3月18日(土)〜5月14日(日) です。
詳しくは、東京都写真美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

仏像好きの方なら、土門拳のライフワークともいえる豪華写真集「古寺巡礼」をご存じない方はいらっしゃらないと思います。
本年は「古寺巡礼」全5集の「第1集」が刊行されてから、60年を迎えるということです。

開催概要によると、
「本展では、カラーの代表作と、土門を魅了した室生寺の釈迦如来坐像をはじめ、重量感のある平安初期の木彫仏を中心にモノクロームの仏像写真と、合わせて約120点を展観します。土門が対象の本質に迫った、力強く個性的な「日本の美」をご覧ください。」
ということです。

土門拳の「古寺巡礼」や「仏像」の写真展は、昭和47年(1972)に新宿小田急百貨店で「土門拳写真展 古寺巡礼」が開催されて以来、幾度もいろいろな形で開催されていて、今回の写真展もあまり目新しいといったものではないかもしれません。
私も土門拳の写真展を、何度観に行ったか数えられないような気がします。

とはいっても、あの土門拳の圧倒的な迫力のアップ写真の磁力に引き付けられて、また展覧会に足を運んでしまいそうです。





●東京国立博物館で「東福寺展」開催(3/7〜5/7) (2023年3月9日‎)

東京国立博物館で特別展「東福寺」が開催されます。

 

開催期間は、2023年3月7日(火) 〜 2023年5月7日(火) です。
詳しくは、東京国立博物館HP並びに展覧会ページ展覧会公式サイトをご覧ください。

東福寺は、鎌倉時代前期に摂政・関白を務めた九条道家が、奈良の東大寺と興福寺とを合わせたような大寺院の創建を発願し、開山として円爾(聖一国師)を招いて建立した禅宗寺院です。
京都五山の第四に列された大寺院で、現在でも本山・塔頭合わせて国宝7件、重要文化財98件の文化財が所蔵されています。
本展は、東福寺の寺宝がまとめて紹介される、初の大規模展覧会ということです。

なお、本展覧会は京都国立博物館でも巡回開催されます。
京都展の開催期間は、2023年10月7日(土)〜12月3日(日) となっています。

展覧会出展作品については、展覧会ページ・出品目録をご覧ください。

禅宗寺院ということなので、仏像の展示は少ないのですが、「巨大伽藍と仏教彫刻」(第5章)という章立てされ、ご覧のような仏像が出展されます。



ちょっと注目というものを二つだけご紹介します。

一つは、巨大な「仏手」です。
手だけで、2メートル以上あります。
この仏手は、東福寺の旧本尊・釈迦如来坐像の「手」で、鎌倉〜南北朝時代(14C)の制作です。
元々の本尊は、像高が約15メートルという巨大像で、東福寺の仏殿に安置され、「新大仏」とあがめられたそうですが、1881(明治14)年の大火災で堂宇が焼失し、この左手だけが救出されました。
現在、仏手は東福寺の法堂に安置されています。


特別展展示の東福寺・仏手〜焼失本尊・釈迦如来像〜(鎌倉〜南北朝)

もう一つは、東福寺の塔頭・万寿寺の金剛力士像・2躯(重要文化財)です。
2メートル以上ある堂々たる造形で、鎌倉時代中期ごろの慶派仏師による制作とされています。
本像は、東大寺南大門の国宝・仁王像の像容の型式スタイルを継承した、極めて少ない作例です。
東大寺南大門・仁王像の形制は、不思議なことに、後の仏師の範とされなかったようで、現存作例では、わずかにこの万寿寺の金剛力士像、三重県府南寺の仁王像(南北朝時代)の2例しか残されていないということです。
本像も、ふだんは非公開の東福寺宝物館「光明宝殿」に安置されていますので、眼近に実見できる良い機会ではないかと思います。

   
万寿寺・金剛力士像(鎌倉・重文)





●帝塚山大学附属博物館で「古代美探求〜奈良の近代 まなざしといとなみの諸相展」開催(2/24〜3/18) (2023年3月1日‎)

奈良市(東生駒)の帝塚山大学附属博物館で企画展「古代美探求〜奈良の近代 まなざしといとなみの諸相」が開催されています。

 

開催期間は、2023年2月24日(金)〜3月18日(土) です。
詳しくは、帝塚山大学附属博物館HP並びに企画展ページをご覧ください。

本企画展では、帝塚山大学附属博物館の所蔵する
「明治から昭和戦前期の、奈良の文化財の拓本や彩色図譜、文様模写など」
がピックアップされて展示されています。

開催趣旨には、
「今回の展示は、奈良の文化財をめぐって有名・無名の人びとが残した、さまざまな成果を通じて、「古代美探求」のいとなみを見つめてみようとするものです。」
と述べられていて、次のような展示構成になっているようです。



企画展には、久留春年の『古代藝術拓本稀観』や「正倉院式文様集」も展示されているようです。
久留春年については、観仏日々帖「室生寺金堂・十一面観音、地蔵菩薩像の板光背の話」で、
「室生寺金堂・十一面観音の美しい板光背を新補したとみられる古画家で、「奈良古美術研究家」としても知られ、近代奈良文化史を語る上では、忘れてはいけない人物であること」
を、ご紹介したことがあります。

規模の小さな企画展のようですが、近代奈良の文化史といった奈良学的なものにご関心のある方には、一見の価値があるのではないかと思います。
このような企画展が開催される情報に気が付かず、開会後のご紹介となってしまいましたが、なかなか興味深いものがあります。





●東京国立博物館で、4年ぶりに「令和4年年度 新指定 国宝・重要文化財展」開催(1/31〜2/19) (2023年1月22日‎)

東京国立博物館で「令和4年度 新指定国宝・重要文化財展」が開催されます。

開催期間は、2023年1月31日(火)〜2月19日(日) です。
詳しくは、文化庁HP新指定国宝・重要文化財展ページをご覧ください。

東京国立博物館HPには、1/21現在、まだ開催案内がされていませんが、まもなく掲載されると思います。

「新指定国宝・重要文化財展」は例年、4〜5月に開催されるのが恒例となっていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって2000年の開催が中止になって以来、ずっと開催されていませんでした。
今回、やっと4年ぶりに待望の開催となったものです。

令和4年度の新指定国宝・重要文化財は昨年11月に答申がありました。
仏像(彫刻)は、6件が重要文化財の新指定となりましたが、その内容については本HP・特選情報でご紹介した通りです。

展覧会では新指定仏像(彫刻)がすべて出展されるようです。
展示予定は文化庁HPの展示文化財一覧に掲載されていますが、仏像(彫刻)の出展内容を一覧にすると、ご覧のとおりです。

 

新指定仏像の注目ポイントなどは、特選情報「令和4年度の新指定重要文化財発表」でふれさせていただきましたが、その時にふれなかった観音寺像、丹生川上神社像については次の通りです。

観音寺・不動明王像 は、9世紀後半の制作とみられるカヤ材とみられる一木彫像です。
極めて古例の不動明王像で、10世紀以降に不動明王像の図像が定型化する以前の有り様を示しているとみられる異形の不動明王像です。
近年、見い出された像のようで、2020年に福知山市の市指定文化財に指定され、今般、一足飛びに重要文化財に指定されました。

丹生川上神社・神像 は、奈良東吉野村の古社、丹生川上神社に伝えられる神像群です。
20躯の群像で、主神の罔象女神像は13世紀半ばごろの制作、残りのうち15躯は平安後期(12世紀)、4躯は鎌倉時代の制作とみられています。
主神・罔象女神像は大型で図像上も重要な優品で、吉野地方に古社にまとまって伝わった神像群として注目されるものだそうです。

   
(左)観音寺・不動明王像(平安前期・重文)、(右)丹生川上神社・罔象女神像(鎌倉・重文)

4年ぶり開催の待望の「新指定文化財展」、是非とも観に行きたいと思っています。





●東京国立博物館で「大安寺の仏像展」開催(1/2〜3/19) (2022年12月26日‎)


東京国立博物館で企画展「大安寺の仏像」が開催されます。

開催期間は、2023年1月2日(月・休) 〜 2023年3月19日(日) です。
詳しくは、東京国立博物館HP並びに企画展ページをご覧ください。

本展は、大安寺木彫群と称される、奈良時代の一木彫像が出展されるものです。
全部で9躯の木彫群のうち、秘仏の十一面観音像、馬頭観音像を除いた7躯が出展されます。
出展7躯は、楊柳観音像、不空羂索観音像、聖観音像、四天王像(すべて奈良時代・重文)です。 大安寺出土の瓦なども展示されますので、詳しくは企画展ページ掲載の展示作品リストをご覧ください。

2022年4〜6月に奈良国立博物館で特別展「大安寺のすべて」が開催されました。
この展覧会は、仏像だけでなく、古瓦などの出土考古遺品、古文書、絵図など大安寺の歴史をたどる数多くの文化財が展示され、まさに「大安寺のすべて」と銘打つに相応しい展覧会でした。

今回の東博での「大安寺の仏像展」は、所謂、木彫群像だけが出展される企画展ということで、平成館ではなくて、本館正面奥の第11室での開催となっています。
大安寺では、現在、宝物殿の増改修工事を実施中であることから、今回の東博企画展開催の運びとなったものと思われます。





●京都国立博物館で寄託品展示「京都の仏像と神像」開催(1/2〜3/5) (2022年12月26日‎)

京都国立博物館の名品ギャラリーで「京都の仏像と神像」と題した企画展示が行われます。

展示期間は、2023年1月2日(月・休)〜3月5日(日) です。
詳しくは、京都国立博物館HP並びに名品ギャラリー企画展ページをご覧ください。

京都国立博物館の1階は、彫刻の展示フロアーになっていて、京博寄託仏像の名品が展示されています。
いつも、国宝の大きな安祥寺・五智如来像が展示されていて、おなじみになっていると思います。
1〜3月の企画展示は「京都の仏像と神像」特集で、
「京都の社寺の寄託品から国の指定品を中心に、とくに彫刻展示担当者の思い入れが深いものを選んで展示いたします。」
ということです。
展示仏像は、企画展ページ・展示作品リストをご覧ください。
作品リストを見ると、折々に入れ替わりで、展示されることのある馴染みの仏像なのですが、なかなか見どころのある仏像がいくつも展示されるようです。

なかでも、私がまたジックリ観てみたいなと思うのは、
光明寺・千手観音像(重文)、高山寺・薬師如来坐像(重文)、神護寺・薬師如来坐像(重文)、清水寺・伝観音勢至菩薩像(重文)
といった処でしょうか。

光明寺・千手観音像(長岡京市) は、近年は奈良時代に遡る制作ではないかと云われている興味深い一木彫像です。
ちょっと細面で腰高、ふくよかな造形、粘塑的な衣文表現が特徴的で、確かに奈良時代の制作を思わせる興味深い一木彫です。

高山寺・薬師坐像 は、奈良時代末期の木心乾漆像です。
もともと丹波国神尾山金輪寺(現亀岡市)の本尊であったものが、故あって高山寺に移されたものと伝えられています。
本像の両脇侍も現存しており、日光菩薩は東京国立博物館、破損している月光菩薩は東京芸術大学の所蔵となっています。

 
(左)光明寺・千手観音像(奈良〜平安・重文)、(右)高山寺・薬師如来像(奈良・重文)

神護寺・薬師如来坐像 も木心乾漆像です。
アンバランスなほどに大きく見開いた眼、大きな耳の異貌で、衣文の表現もくどいほどに粘りが強いという、アクの強い個性的な像ですが、そこがまた魅力的です。
X線調査によると、像の内部に、穏やかな天平風の木心乾漆像が埋め込まれていることが判明しました。
現存像は、その上から、ものすごく分厚く木屎漆を盛り付けて、古い乾漆像を芯にして、全く新しい乾漆像を盛り上げ成形したものとなっていたのです。
この際に、現在の、平安初期的要素の強い、アクとボリューム感のある表現に変えられたという、謎の多い興味津々の仏像です。

清水寺・伝観音勢至菩薩像 は、運慶作の像ではないかとの見方がある注目の仏像です。
本像は京都市東山区の清水寺の阿弥陀堂に、近世の阿弥陀如来像の脇侍として安置されていた像です。
文治5年(1189)に造られた運慶作の浄楽寺・阿弥陀三尊像両脇侍像によく似ていることが指摘されています。
清水寺は興福寺の末寺で、南都仏師であった運慶もしくはその周辺の作である可能性が十分考えられるということです。
2017年に東博で開催された「運慶展」にも出展されていましたので、覚えておられる方も多いのではないかと思います。

 
(左)神護寺・薬師如来坐像(奈良〜平安・重文)、(右)清水寺・伝観音勢至菩薩像(鎌倉・重文)

博物館の仏像彫刻の平常展示のなかでの特集企画ですが、見処十分の出展像ばかりで、機会を見て訪れてみたいものです。





●佛教大学宗教文化ミュージアムで「ほとけのドレスコード展」開催(10/29〜12/10) (2022年11月1日‎)

京都市右京区嵯峨広沢西裏町の佛教大学宗教文化ミュージアムで、特別展「ほとけのドレスコード」が開催されます。

 

開催期間は、2022年10月29日(土)〜12月10日(土) です。
詳しくは、佛教大学宗教文化ミュージアムHP並びに展覧会ページをご覧ください。
本展は、毎年シリーズで開催されている、仏像の見方の特別展、「ほとけの手」「ほとけのヘアスタイル」に続く第3回の展覧会です。
「なにを着る? どう着る? どう着こなす?」
というキャッチコピーのとおり、通肩とか偏袒右肩とかの着衣法のバリュエーションなどをテーマにした、ちょっと興味深い切り口の展覧会です。
展示作品については、展覧会ページに展示品一覧が掲載されています。

大注目は、本展に、神光院(京都市北区西賀茂)の薬師如来立像が出展されていることです。
神光院・薬師如来像(像高121.5p)は、平安前期(9C前半)の制作とみられる、一木彫像です。

 
神光院・薬師如来像(平安前期・市指定文化財)

本像の存在は、近年まで全く知られていませんでした。
2011年に皿井舞氏により研究誌(美術研究404号「京都神光院蔵 木造薬師如来立像」)に初めて紹介され、大注目となった仏像です。
皿井氏論考では、
「本像は、上賀茂神社にかかわる仏堂「岡本堂」安置仏で、その後、上賀茂社神宮寺に祀られ、慶応4年、神仏分離で神光院に移されたものと思われる。
制作年代は、岡本堂再建期の天長年間(824〜833)頃と想定される。」
という見解が示されています。
無指定の仏像でしたが、2015年に京都市の市指定文化財に指定されました。
仏像の概要については、京都市情報館HP・新指定・登録文化財〜第33回京都市文化財ページに掲載されています。

私は10年前に、皿井論文でこの仏像の存在を知り、神光院まで拝しに出かけたことがあります。
両腿のたくましい隆起や、胸から腹にかけての量感あふれる肉身の表現は迫力十分、「バリバリの9世紀平安前期彫刻に間違いない」と云って良い古像です。
こんな凄い仏像が、これまで全く知られていなかったことに大ビックリでした。
観仏日々帖「京都・神光院  薬師如来立像」にてご紹介をしたことはありますので、ご覧いただければと思います。

この像のもう一つの注目点は、着衣に「特異な旋転文(渦文)」が多数(10個程)表されていることです。

 
神光院・薬師如来像の着衣に多数表される特異な旋転文

何とも不思議な群れるような旋転文(渦文)なのですが、皿井舞氏は、この特異な表現について、
「あくまでも憶測にすぎないが、本像の異例とも言える旋転文に、神のための仏にふさわしい何か特別な意味が籠められていた可能性がある。
それはある意味で、仏教信仰とも、神祇信仰ともつかない、それらの信仰のさらに背後にある何かに呼応したものであるのかもしれない。」
(皿井舞「なぜ、今「かたち」なのか」〜「かたち」再考・開かれた語りのために・平凡社刊2014刊所収)
と述べています。
不思議な旋転文の群れ、霊威表現にかかわっての、興味津々の見どころです。

展覧会場では、360度ビューで本像を眼近に観ることが出来るそうです。
神光院で拝すると、脇壇の奥に祀られ、足元や側面からは観ることが出来ませんので、この迫力ある仏像の魅力を十分味わうことが出来るのではないかと思います。

「知る人ぞ知る」注目の平安前期(9C)の一木彫像を観ることが出来る、絶好のチャンスだと思います。





●大倉集古館・企画展に所蔵の国宝・普賢菩薩像が展示(11/1〜1/9) (2022年10月27日‎)

東京都港区の大倉集古館で、企画展「大倉コレクション〜信仰の美」が開催され、同館所蔵の国宝・普賢菩薩騎象像が公開展示されます。

 

企画展開催、普賢菩薩公開期間は2022年11月1日(火)〜2023年1月9日(月・祝)です。
詳しくは、大倉集古館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

大倉集古館所蔵の国宝・普賢菩薩騎象像は、院政期を代表する名品中の名品と云われる仏像です。
国内の博物館が所蔵している、たった二つだけの国宝指定仏像で、大倉集古館の看板コレクションになっています。
(もう一つの博物館所蔵国宝仏像は、奈良国立博物館所蔵の薬師如来坐像〜平安前期〜です。)

本像については、観仏日々帖「大倉集古館・普賢菩薩坐像」で、ご紹介したことがありますのでご覧ください。

以前は常時展示されていて、いつでも観ることが出来たのですが、2019年秋に、大倉集古館がリニューアルオープンしてからは、常時展示が無くなってしまい、普段は観ることが出来なくなってしまいました。
現在は、限られた時にしか公開されていません。

今回開催の企画展は、院政期の傑作、国宝・普賢菩薩騎象像を観ることが出来る絶好のチャンスです。





●伊豆・上原美術館で「無冠の仏像展」開催(10/8〜1/9) (2022年10月6日‎)

静岡県下田市の上原美術館で特別展「無冠の仏像〜伊豆・静岡東部の無指定文化財」が開催されます。

 

開催期間は、2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月・祝) です。
詳しくは、上原美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

「無冠の仏像」という展覧会名、ちょっと刺激的で目を惹き付けるネーミングです。
どんな展覧会なのだろうかと思ったら、文化財指定されていない「無指定」の仏像のなかから、見処のある仏像をセレクトして展示する仏像展ということです。

開催主旨には、
「実は今日でも日本各地には、その存在を知られることなく伝えられている貴重な文化財が多数存在しています。
上原美術館は開館以来39年にわたって継続して伊豆の仏像の調査を行い、伊豆に貴重な仏像が存在することを明らかにしてきました。
その結果、文化財指定を受けた仏像もありますが、学術的な価値が高いものの、信仰上の理由などから指定を受けていないもの、評価が遅れている仏像も未だ多数にのぼります。
・・・・・
本展は、伊豆を中心に、静岡県の仏像・仏画の調査研究の最前線にあり続けている当館が独自の調査で見出した仏像に加え、過去に貴重な像であると評価されながら、文化財指定を受けてない、「無冠」の文化財を、厳選して展示するものです。」
と、述べられています。

出展目録が掲載されていませんので、どんな仏像が展示されるのかは判りませんが、多分、知られている仏像はほとんどないことと思います。
上原美術館が「無冠の仏像」という評価した仏像は、どのようなものなのか、興味津々という処です。

チラシを見ると、一つだけ知っている仏像がありました。
下田市・法雲寺の秘仏・如意輪観音像で、60年に一度という御開帳に訪ねたことがあり、観仏日々帖に「法雲寺秘仏拝観記」をご紹介したことがありますので、ご参考になればと思います。





●比叡山国宝殿で開館30周年記念「比叡の霊宝展」開催(9/23〜12/4) (2022年10月6日‎)

比叡山延暦寺の比叡山例宝殿で、開館30周年を記念した特別展「比叡山の霊宝」が開催されます。

 

開催期間は、2022年9月23日(金)〜12月4日(日) です。
詳しくは、比叡山例宝殿HPをご覧ください。

比叡山例宝殿は、延暦寺の名宝が常時展示されていますが、今回は開館30周年ということで、
「比叡山内や里坊寺院、また外部機関に寄託している国宝9点重要文化財40点余り、名宝約70点を展示させていただきます。 普段目にすることのできない比叡山の名宝の数々をご覧いただくことで、延暦寺の歴史や仏教美術の魅力に触れていただく良い機会としていただければ幸いです。」
ということです。

展示品目録がHPに掲載されていますので、ご覧ください。

出展仏像の顔ぶれを見ると、普段出展の著名仏像の他に、比叡山内の山坊などの注目古仏がいくつも出展されているようです。
いつもの顔ぶれでは、檀像千手観音像(9C・重文)、維摩像(9C・重文)といった有名どころや、観仏日々帖「残された古写真から突き止められた仏像の行方〜桜井市・興善寺」でご紹介した薬師如来像も展示されています。

普段展示されていない山坊、里坊寺院像のなかでの注目像は、
松禅院・観音菩薩像(9C・県指定)、同・地蔵菩薩像(10C・県指定)、大林院・不動明王像(11C・重文)、葛川明王院・千手観音三尊像(12C・重文)
あたりでしょうか。

    
(左)松禅院・観音菩薩像(9C・県指定)、(中)松禅院・地蔵菩薩像(10C・県指定)、(右)大林院・不動明王像(11C・重文)

比叡山内や里坊寺院のこれだけの仏像が一堂に展示される機会はあまりなく、訪ねてみたい展覧会です。





●早稲田大学會津八一記念博物館で「下総龍角寺展」開催(9/20〜11/15) (2022年9月10日‎)

東京都新宿区の早稲田大学會津八一記念博物館で企画展「下総龍角寺」が開催されます。

 

開催期間は、2022年9月20日(火)〜11月15日(火) です。
詳しくは、會津八一記念博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

展覧会開催趣旨は、次の通りです。
「国指定重要文化財である銅造薬師如来坐像をご本尊とする下総龍角寺は、白鳳時代から現在まで法灯を守り続ける、東国屈指の古刹です。
早稲田大学では1947年以降、継続して下総龍角寺の調査を行ってきました。
調査では瓦や土器はもとより、東国では4例目となるセン仏も出土しており、往時の法会の様子がうかがい知ることができます。
本展覧会では下総龍角寺の歴史を、これまでの調査成果を踏まえ、様々な分野の観点からご紹介します。」

本企画展は、これまでの考古学的調査研究の成果展示を主とするもののようですが、展覧会には、白鳳〜奈良時代の大型金銅仏像である薬師如来像(重文)が出展されます。

  
龍角寺・薬師如来像(白鳳〜奈良時代・重文)

この薬師如来像は、現存する数少ない大型の金銅仏(頭部のみ当初)の貴重な作例です。
龍角寺は、千葉県印旛郡栄町という辺鄙な処にあり、薬師像は年2回、限られた日だけの開帳で、なかなか拝するのが大変です。
近年では、千葉市美術館開催「仏像半島〜房総の美しき仏たち展」(2013年)、奈良国立博物館開催「白鳳展」(2015年)に出展されました。
今回の出展は、それ以来で「東京初公開」になるそうです。

また、本展開催に併せて、シンポジウム「下総龍角寺再考〜最新の発掘調査から」が、10月16日(日)開催されます。
近年の研究成果を総括する大変充実したシンポジウムのようです。

プログラムについては、以下のチラシをご覧ください。



会場は早稲田大学小野記念講堂ですが、事前に申し込めばオンラインでの視聴も可能となっています。
シンポジウムの詳細と、聴講申し込みは、【こちらのページ】です。

龍角寺・薬師如来像については、ご存じのとおり従来から、
・製作地についての議論〜関東・下総での制作か、中央での制作か?
・制作年代についての議論〜7世紀後半の白鳳期か、8世紀の奈良時代に入ってからのものか?
といったことがあります。

シンポジウムでは、「龍角寺薬師如来像の像容と制作時期」(川瀬由照氏)という演題も設定されています。
どんな話があるのか、興味深い処です。





●栃木県立博物館で「鑑真和上と下野薬師寺展」開催(9/17〜10/30) (2022年9月10日‎)

栃木県宇都宮市の栃木県立博物館で、開館40周年記念特別企画展「鑑真和上と下野薬師寺〜天下の三戒壇でつながる信仰の場」が開催されます。

 

開催期間は、2022年9月17日(土)〜10月30日(日) です。
詳しくは、栃木県立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

展覧会開催主旨には、
「下野薬師寺は、奈良時代には日本屈指の大寺院との位置づけから、唐僧鑑真による授戒作法を執り行う戒壇が東国で唯一設置され、東大寺(奈良県奈良市)、観世音寺(福岡県太宰府市)と並び、天下三戒壇と称されました。
以後、東北・関東地方十か国の授戒と信仰の中心寺院となり隆盛を誇りました。
・・・・・・・
当館が開館して40周年という節目の年にあたり、天下三戒壇の一翼を担った下野薬師寺について再評価することで、栃木県の豊かな歴史と文化を再認識していただければ幸いです。」
と述べられています。

出土遺物など考古、古文書関係の出展が主なようですが、仏像関係では、
唐招提寺から、一木彫群の薬師如来立像、伝獅子吼菩薩立像、伝衆宝王菩薩立像(奈良・国宝)、後身代わり・鑑真和上像(美術院制作模像)が出展されます。
詳しい出展作品は、「鑑真和上と下野薬師寺」出品目録をご覧ください。

私の最大の注目は、栃木県にわずかに残る平安前中期一木彫像と云われる2像が、揃って出展されることです。
宇都宮市にある能満寺(羽下薬師堂)・薬師如来立像と、大関観音堂(西刑部観音堂)・菩薩立像です。

   
(左)能満寺(羽下薬師堂)・薬師如来立像(平安前中期)、(中・右)大関観音堂(西刑部観音堂)・菩薩立像(平安前中期・県指定)

共に、カヤ材の一木彫で、9〜10世紀の制作とみられています。
地方的な野趣はあるものの、堂々たるボリューム感、ダイナミックな造形感を感じさせる魅力十分の平安古仏です。
私は、15年ほど前に両寺を訪ねて拝したことがありますが、思いの外の迫力を感じ、心に残っている仏像です。

両像を同時に見ることが出来る、絶好の機会かと思います。
しばらくぶりの再会を愉しみに、宇都宮まで出かけてみたいと思っています。





●島根県立美術館で「祈りの仏像 出雲の地より展」開催(9/16〜10/24) (2022年9月10日‎)

島根県松江市の島根県立美術館で企画展「祈りの仏像 出雲の地より」が開催されます。

  

開催期間は、2022年9月16日(金) 〜 10月24日(月) です。
詳しくは、島根県立美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

展覧会開催主旨には、
「古代から中世に至る出雲国600年の仏像史をたどり、地域固有の歴史の流れと人々の祈りの心に触れる展覧会です。」
と記されています。
出展目録が掲出されていないのですが、〈展覧会チラシ〉に掲載されている仏像の顔ぶれを見てみると、島根県の主だった仏像がすべて勢揃いする、仏像展になっているようです。

  

島根県の仏像展といえば2017年10〜12月に古代出雲歴史博物館で「島根の仏像展」が開催されたのを、覚えておられる方も多いかと思います。
この展覧会は、副題に「平安時代のほとけ・人・祈り」と名付けられていたように、島根県の平安時代の古仏が勢揃いするという充実の展覧会でした。

今回の展覧会は、鰐淵寺、満福寺、仏谷寺、清水寺、禅定寺といった島根の平安時代以前の仏像に加えて、鎌倉時代以降、中世の諸仏像が多く出展されているのが、なかなかの見どころと云っても良いのではないでしょうか。
島根の仏像は「出雲様式」とも呼ばれる平安古仏が良く知られるところになっていますが、鎌倉以降の仏像が採り上げられることはなかなかないように思います。
島根県の主だった仏像を一堂に見ることが出来る絶好の機会となる、お薦めの企画展です。

「島根の仏像展」に出かけて以来、5年ぶりに島根まで出かけてみたい気もするのですが、ちょっと遠いので逡巡している処です。





●鎌倉国宝館開催「北条氏展Vol.3-2」に、願成就院本堂の阿弥陀如来坐像が出展(9/3〜9/14) (2022年9月4日‎)

鎌倉国宝館で開催の特別展「北条氏展Vol.3-2 北条義時とその時代〜義時と実朝・頼経」に、願成就院の本堂本尊・阿弥陀如来坐像(鎌倉・県指定)が出展されます。

  


  
(左)願成就院・本堂本尊〜阿弥陀如来坐像(鎌倉・県指定)    (右)願成就院・本堂〜寛政元年(1789)建立

展示期間は、2022年9月3日(土)〜14日(水)の期間限定の出展です。
本展覧会「北条氏展Vol.3-2」の開催期間は9月3日(土)〜10月23日(日)となっていますが、願成就院・阿弥陀如来坐像の展示は、期間限定になっていますので、ご注意ください。

特別展の詳しい内容は、鎌倉国宝館HP並びに展覧会ページをご覧ください。
また、出品作品については、展覧会ページに出品リストが掲載されています。

静岡県伊豆の国市の「願成就院の阿弥陀如来像」といえば、運慶作の国宝・阿弥陀如来坐像のことが思い浮かばれることと思います。
拝されたことがある方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
運慶作の阿弥陀如来像、毘沙門天像、不動三尊像が安置されているのは、願成就院の大御堂なのですが、これに隣接して寛政元年(1789)に建立された現在の本堂があり、こちらの御本尊も阿弥陀如来坐像なのです。

本堂本尊の阿弥陀如来像(像高:86.8p)は、あまり知られていませんが、鎌倉時代制作の優作で、県指定文化財となっています。
作風から運慶系統の仏師の製作と見られていて、像底の構造も、運慶系の像にみられる「上げ底式内刳り」になっています。

本像は、建保3年(1215)に供養された南新御堂の阿弥陀三尊像の中尊であったものだと見られています。
この本堂本尊・阿弥陀如来像は、普段は一般公開されておらず拝観が出来ません。
その阿弥陀像を眼近に観ることが出来る絶好のチャンスで、10日間ほどの出展ですが、この機会に実見しておきたい処です。

なお、本特別展「北条氏展Vol.3-2」には、神奈川大磯町〜高来神社の神像3体(男神・女神・僧形像)も出展されています。
高来神社・神像群については、観仏日々帖「高来神社の神像群 (大磯町郷土資料館保管)」でご紹介したことがありますが、一見の価値ある注目の神像です。

  
高来神社・男神像、女神像(鎌倉・大磯町指定文化財)




●京都国立博物館で「河内長野の霊地 観心寺と金剛寺展」開催(7/30〜9/11) (2022年7月30日‎)

京都国立博物館で特別展「河内長野の霊地 観心寺と金剛寺〜真言密教と南朝の遺産」が開催されます。

  

開催期間は、2022年7月30日(土)〜9月11日(日) です。
詳しくは、京都国立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展覧会は、大阪府河内長野市にある古刹、観心寺と金剛寺の所蔵する文化財を展示すると共にその歴史と信仰をたどる展覧会です。
京都国立博物館では、平成28年度(2016)から令和元年度(2019)にかけて、両寺の文化財悉皆調査を実施しました。
本展はその成果を公開する機会として、従来知られた名品に加え、調査によってみいだされた中近世の文化財が紹介されるということです。

出展作品については展覧会ページ・出品リストをご覧ください。

観心寺と金剛寺の仏像と云えば、観心寺の秘仏・如意輪観音像(平安9C・国宝)と、金剛寺の行快作の巨像・大日如来、不動明王、降三世明王三尊像(鎌倉13C・国宝)が大変有名ですが、今回の展覧会にはこれらの国宝像は出展されません。
観心寺・秘仏如意輪観音像が寺外に出ることは絶対にないでしょうから、致し方ない処ですが、見処ある興味深い仏像がいくつも出展されています。

私の注目仏像は、
観心寺では、伝宝生如来像、伝弥勒菩薩像(平安9C・重文)、地蔵菩薩像(平安9C・重文)や、戊午年銘(658)の光背が根津美術館に所蔵される金銅・観音菩薩像(白鳳・重文)、
金剛寺では、大日如来像(鎌倉・重文)、五智如来像(鎌倉・重文)、僧形神坐像(平安10C)
あたりでしょうか。

観心寺・伝宝生弥勒両像は、やや鈍さを感じるもののずっしりとした重みを感じさせ、安祥寺・五智如来像(平安前期・国宝)を想起させる佳品です。
観心寺・地蔵像は、僧形神像かと思わせるような平安前期の魅力ある一木彫像です。

    
(左)観心寺・伝宝生如来像〜弥勒菩薩(平安9C・重文)、(中)観心寺・伝弥勒菩薩像〜仏眼仏母(平安9C・重文)、(右)観心寺・地蔵菩薩像(平安10C・重文)

一番興味深いのは、金剛寺の僧形神坐像です。
本像は山門前の鎮守社に御神体として祀られていた像です。
10世紀の制作とみられるケヤキ材の一木彫像ですが、目尻のつり上がった面貌などなかなかの霊威感を感じさせます。

   
金剛寺・僧形神坐像(平安10C)

特に注目されるのは、背面を中心としてザクザクと彫り込まれた丸ノミの痕をとどめる荒い仕上げとなっていることです。
所謂鉈彫り像を想起されるのですが、このノミ痕が神の霊威感を表現しているようにも感じさせます。
なかなか興味津々の神像です。

河内長野の真言密教の二大古刹、観心寺と金剛寺の文化財と歴史の全貌にふれることが出来る展覧会だと思います。





●大津市歴史博物館で「仏像をなおす展」開催(7/23〜9/4) (2022年7月23日‎)

滋賀県大津市の大津市歴史博物館で伝教大師最澄没後1200年記念企画展「仏像をなおす」が開催されます。

   

開催期間は、2022年7月23日(土)〜9月4日(日) です。
詳しくは、大津市歴史博物館HP並びに企画展ページをご覧ください。

展覧会開催主旨は、企画展ページによると次の通りです。

「本年は、比叡山延暦寺を開創した伝教大師最澄が、弘仁13年(822年)に没して1200年にあたります。
それにあわせて、延暦寺では根本中堂をはじめとした多くの文化財の修復を行い、それにともなって数々の発見や見直しがありました。
本展では、市内の寺社に現存する、修復や復興関係の史料や宝物を展示し、破損や亡失された仏像や神像が元通りにされてきた歴史を紹介します。」

本展は、通常の仏像展とは違って、「仏像をなおす」という仏像が修復、復興されてきた歴史を紹介するという展覧会です。
一味違った切り口の企画展ですが、大変興味深いものがあります。
展覧会図録(800円)も発刊されているようで、この企画展主旨を考えると、展覧会もさることながら、図録に執筆されている内容の方が面白そうな気がしています。

出品作品については、企画展ページ・出品リストをご覧ください。





●鎌倉国宝館開催「北条氏展」に実慶作の2像が揃って展示(7/2〜8/10) (2022年7月10日‎)

鎌倉国宝館で開催中の特別展「北条氏展 vol.3-1 北条義時とその時代 ー義時と頼朝・頼家ー」に、仏師・実慶作の修善寺・大日如来像(重文)と、かんなみ仏の里美術館・阿弥陀三尊像(重文)の2像が揃って展示されています。

   

展覧会の開催期間は、2022年7月2日(土)〜8月21日(日) です。
詳しくは、鎌倉国宝館HP並びに展覧会ページをご覧ください。
また、出品作品については展覧会ページ出品リストをご覧ください。

本展覧会は、北条氏をテーマに連続3回開催される特別展第1回展です。
注目は、現在、仏師実慶の作であることが明らかになっている2像が揃って展示されることです。

  
(左)修善寺・実慶作〜大日如来像(鎌倉・重文)    (右)かんなみ仏の里美術館・実慶作〜阿弥陀三尊像

実慶は「運慶願経」(1183年)に結縁者として快慶などと共に名前の見える慶派の仏師です。
生没年は不詳ですが、運慶周辺の仏師で東国に下向した慶派仏師の一人と考えられます。
現在、実慶作の像内墨書銘がある仏像が2像確認されていて、それが修善寺・大日如来像(重文)、かんなみ仏の里美術館・阿弥陀三尊像(重文)です。
両像共に、1984年に仏像修理が実施された際に「実慶作」の像内墨書銘が発見されました。

修善寺・大日像の方は、承元4年(1210)の年紀が記されていました。
修善寺は2代将軍頼家が北条氏により幽閉され非業の死を遂げた寺で、本像は側室、辻殿の供養のために造立されたものと見られています。
像内から発見された納入品に二人分の髪の毛があり、辻殿と頼家の母、北条政子のものではないかと、発見当時、新聞報道されるなど大きな話題となりました。

かんなみ仏の里美術館・阿弥陀三尊像は、美術館隣地の桑原薬師堂に伝わった像で、北条氏ゆかりの像である可能性が高いと見られています。
薬師堂の諸仏像は、管理する桑原区から函南町に寄贈され、2012年開館のかんなみ仏の里美術館に展示されています。

運慶作の浄楽寺・阿弥陀三尊像他の諸像は、残された木札に「‥‥運慶小仏師十人」と運慶に付き従った小仏師の存在が銘記されていますが、「実慶」はこの小仏師のうちの一人であったのではないかとも云われています。

修善寺・大日像は年に1回(11月)だけの公開になっており、運慶直々の息のかかった実慶の二つの作品を、同時に揃ってみることが出来るのは大変貴重な機会ではないかと思います。





●横須賀美術館で「運慶 鎌倉幕府と三浦一族展」開催(7/6〜9/4)
●神奈川県立金沢文庫で、巡回展開催(10/7〜11/27)
    (2022年7月2日‎)


神奈川県横須賀市の横須賀美術館で開館15周年記念 800年遠忌記念特別展「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」が開催されます。

   

開催期間は、2022年7月6日(水)〜 9月4日(日) です。
詳しくは、
横須賀美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展覧会は、貞応2年(1223年)に没した運慶の800年遠忌を記念し、横須賀美術館と神奈川県立金沢文庫により共同開催されるものです。

横須賀美術館展では、横須賀市内に残る運慶および運慶工房作と見られる仏像を中心に、前後する時期の仏像や書跡等、計約50点の文化財を展示されます。
出展作品については、展覧会ページ・出品リストをご覧ください。

出展仏像をみると、運慶作で知られる浄楽寺の不動明王像、毘沙門天像(文治5年1189・重文)、運慶派仏師の作とみられる満願寺の観音菩薩像・地蔵菩薩像(鎌倉・重文)、不動明王像・毘沙門天像(鎌倉・横須賀市指定)ならびに曹源寺・十二神将像(鎌倉・重文)あたりが、注目像という処でしょうか。

これらの像は2017年に東京国立博物館で開催された「運慶展」に出展されましたので、皆さん、そこでご覧になっていることと思います。
なかでも満願寺の観音菩薩像・地蔵菩薩像は、像高:2メートルを超える大型像で、威厳と力強さにあふれる堂々たる体躯の像です。

    
(左・中)横須賀〜満願寺・観音菩薩像(鎌倉・重文)    (右)地蔵菩薩像(鎌倉・重文)

やや大味な感じも受けますが、なかなかの迫力に圧倒されるものがあります。
かつては慶派仏師の影響を受けた在地仏師の作とみられていたようですが、近年は運慶工房乃至慶派正系仏師の作とみられています。
運慶作とみる説もあり、大変興味深い像だと思います。

本展は、金沢文庫でも巡回展が開催されますが、横須賀美術館展は三浦一族に、金沢文庫展は鎌倉幕府に、それぞれ重点を置いた展示内容となるということです。





●東京国立博物館で特集展「収蔵品でたどる日本仏像史」開催(5/17〜7/10) (2022年5月14日‎)


東京国立博物館で創立150年記念特集「収蔵品でたどる日本仏像史」が開催されます。
開催期間は、2022年5月17日(日) 〜 2022年7月10日(日) です。

詳しくは、東京国立博物館HP特集展ページをご覧ください。

本展開催趣旨は、
「今年創立150年を迎えた当館には、古代から近代まで、さまざまな仏像が収蔵・寄託されています。このうち、飛鳥時代から近代にいたる各時代の典型的な作品を展示することで、日本の仏像を通史的に紹介します。」
ということです。

展示作品は、展覧会ページ・展示作品リストをご覧ください。

「収蔵品でたどる日本仏像史」という表題を見て、これは興味津々!どんな興味深い展示会なのだろうと、大いに期待感を抱いたのですが、展示規模、顔ぶれ共に、私にはちょっと期待外れといった処です。
本館1階の奥の角部屋、小さな本館14室でのこぢんまりとした特集展のようです。
展示作品リストによると、出展は16件で、日頃から東博で見慣れた比較的小型の仏像が、バランスよく取り合わされての展示となっています。

私が気になるのは、木心乾漆・日光菩薩像と、天王立像といった処でしょうか。

木心乾漆・日光菩薩像(奈良時代・重文)は、もともと丹波、亀岡の神尾山金輪寺の本尊として祀られていた薬師三尊像の脇侍です。
後世に高山寺に移され、明治22年(1889)に両脇侍像は東京美術学校が購入、展示の日光菩薩像の方は明治25年(1902)に帝国博物館(現東京国立博物館)に譲渡されたものです。
奈良時代後期の木心乾漆像として貴重な優作です。
中尊薬師如来像は高山寺蔵(京都国立博物館寄託)、月光菩薩像(破損像)は東京藝大美術館蔵となっています。

天王立像は像高:96p、平安前期・9〜10Cの制作の一木彫像です。
余り知られていない彫像ではないかと思うのですが、いかにも平安前期という、迫力ある厳かな面貌、体躯のはち切れるようなボリューム感に大いなる魅力を感じる像です。

    
(左)金輪寺伝来高山寺旧蔵・木心乾漆日光菩薩像(奈良・重文)    (中・右)天主立像(平安前期)





●天理市 なら歴史芸術文化村で「観音のいます地〜三輪と初瀬展」開催(4/29〜6/19) (2022年4月29日‎)


奈良県天理市杣之内町のなら歴史芸術文化村で、第1回企画展「観音のいます地〜三輪と初瀬」が開催されます。

   

開催期間は、2022年4月29日(金・祝)〜6月19日(日) です。
詳しくは、
なら歴史芸術文化村HPイベントページをご覧ください。

「なら歴史芸術文化村」は、奈良県が県内文化財の継承・活用拠点として約100億円かけて整備した文化複合施設です。
本年3月にオープンしたばかりで、日本で初めてとなる文化財4分野(仏像等彫刻、絵画・書跡等、建造物、考古遺物)の修復作業現場の公開や、国内外から招いたアーティストとの交流、アートプログラムなどが実施されるということです。

本展は、なら歴史芸術文化村での第1回企画展として開催されるものです。
桜井市の三輪と初瀬に残る、あまり知られていない十一面観音像が出展されます。
出展作品等は、イベントページにチラシ・出品目録PDFが掲載されていますのでご覧ください。

出展仏像は、ご覧のとおりです。



一番の注目は、平等寺の秘仏、十一面観音像の出展です。
三輪の平等寺は大神神社の神宮寺であったお寺で、明治の神仏分離により廃寺となってしまいました。
その折に小西家から現境内地の寄進を受け、本尊十一面観世音菩薩他の寺宝を移して守り伝えられて、昭和52年(1977)に、曹洞宗の寺院「三輪山平等寺」として再興されました。

御本尊の十一面観音像は平安時代の制作で、年に1度、8月1日にだけ開扉される秘仏として守られています。
像高:105p、ケヤキの一木彫で、11世紀の制作とされています。
写真をみると、ちょっと奈良在地の地方色を匂わせ、古様を感じさせる興味深い造形のようです。

その他も、桜井市内の知られざる平安古仏の十一面観音像がいくつも出展されており、これらの像を観ることが出来るめったにないチャンスだと思います。
聖林寺・十一面観音像の模作像や関連資料も出品されるようです。

「なら歴史芸術文化村」のHPをみると、いろいろな面白そうな展示や、企画が盛り沢山になっています。
仏像修理の工房もあり、修理現場の見学もできるようです。
今回の企画展もなかなか興味深いものですが、「なら歴史芸術文化村」の諸施設や展示、企画などもなかなか面白そうで、訪ねてみたいものです。





●若狭歴史博物館で「とあるお寺のほとけさま〜秘仏観音と伝来の古仏展」開催(4/23〜5/29) (2022年4月27日‎)


福井県小浜市の福井県立若狭歴史博物館でテーマ展「とあるお寺のほとけさま〜秘仏観音と伝来の古仏」が開催されます。

    
「とあるお寺のほとけさま」展に出展される秘仏観音像

開催期間は、2022年4月23日(土) 〜 2022年5月29日(日) です。
詳しくは、
若狭歴史博物館HPテーマ展ページをご覧ください。

謎めいた名前が付けられた企画展ですが、大変魅力的で、興味深い平安古仏が展示されるようです。

テーマ展開催主旨には、このように記されています。

「小浜市内のとある村落の小さな寺院に、ひっそり伝わったほとけを紹介します。
33年に一度ご開帳される本尊観音菩薩立像は壇像風の仏像で、多田寺の三尊に通じる裳の浅い彫られた衣紋と、天衣の鋭い彫り口の衣紋の対比は、本像の見どころのひとつでしょう。
すがりたくなるような華麗なおすがたは一見に値します。
この他平安時代にさかのぼると考えられる8躯のほとけは、いずれも破損仏ながら一木造によりその量感をよく留めており、かつての美しいすがたを彷彿とさせます。
いずれのほとけも当館初公開です。この機会にぜひご覧頂きたいと思います。」

盗難のリスクなどから、お寺の名前が伏せられての展示となっているようです。

出展像のHP掲載写真をみると、まさにテーマ展主旨に記されている通りの、バリバリの平安前期の一木彫像のようです。
むっちりしたボリューム感ある体躯、鎬だった衣文の彫り口など、大変魅力的でどのような仏像なのか興味津々です。

「とあるお寺」がどこのお寺なのか大いに気になる処ですが、こんな知られざる古仏が未だに遺されているというのは、海のある奈良と云われる小浜という地の奥深さを今更ながらに再認識させられます。

このためだけに小浜まで出かけられるのは、なかなか大変ではないかと思いますが、大変興味深いテーマ展です。





●奈良国立博物館で「大安寺のすべて展」開催(4/23〜6/19) (2022年4月23日‎)


奈良国立博物館で特別展「大安寺のすべて〜天平のみほとけと祈り」が開催されます。



開催期間は、2022年4月23日(土)〜6月19日(日) です。
詳しくは、
奈良国立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

わが国最初の天皇発願の寺を原点とする大安寺の歴史をたどると共に、現存する仏像を展示する展覧会です。
大安寺木彫群と称される、9体の一木彫像(奈良・重文)すべてが出展されます。
大安寺木彫群は、唐招提寺木彫群と並んで、奈良時代制作の一木彫像として知られています。
出展作品については、展覧会ページ・出陳品一覧をご参照ください。

今回の展覧会は、大安寺の宝物殿が4月から1年間増改修工事が行われることから、開催されることになったものだと思います。
大安寺の宝物殿に安置されている木彫諸像については、皆さん何度も観ておられることと思いますが、本展では普段は期間を限って公開されている秘仏の十一面観音像、馬頭観音像も出展されます。
なお、十一面観音像は前期(4/23〜5/22)のみ、馬頭観音像は後期(5/24〜6/19)のみの出展です。

  
(左)大安寺・十一面観音像(奈良・重文)〜前期展示、(左)馬頭観音像(奈良・重文)〜後期展示

大安寺の諸仏像以外では、
岡寺・義淵僧正像(奈良・国宝)、西住寺・宝誌和尚像(平安・重文)、文化庁〜額安寺旧蔵・虚空蔵菩薩像(奈良・重文)、北僧坊・虚空蔵菩薩像(平安・重文)、神応寺・行教律師像(平安・重文)、薬師寺・八幡三神像(平安・国宝)、大分 永興寺・四天王像(鎌倉・重文)、香川 鷲峰寺・四天王像(鎌倉・重文)
などが出展されます。

注目は、神応寺・行教律師像(平安前期・重文)の出展です。

 
神応寺・行教律師像(平安前期・重文)

神応寺は、石清水八幡宮を開いた行教律師によって開山されたと伝えられています。
本像は、開祖行教律師像として伝えられていますが、初期の僧形神像ではないかという見方がある像です。
迫力ある魁偉な容貌は、肖像彫刻というよりも神の像を思わせるようです。
普段は、拝観に予約が必要で、展覧会出展も余りされませんので、ジックリ見ることが出来るチャンスだと思います。

大分 永興寺・四天王像(鎌倉・重文)と香川 鷲峰寺・四天王像(鎌倉・重文)が出展されますが、共に大安寺伝来で興福寺北円堂安置の四天王像(延暦10年794造立・国宝)を模した四天王像として知られています。
それぞれ地方の像で、なかなか拝する機会がないかと思われ、この機会に観ておきたいものです。

    
(左)大安寺伝来〜興福寺北円堂・四天王像(延暦10年・国宝)、(中)大分 永興寺・四天王像(元亨2年1322・重文)、(右)香川 鷲峰寺・四天王像(鎌倉・重文)





●京都国立博物館で「最澄と天台宗のすべて展」開催(4/12〜5/22) (2022年4月9日‎)


伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」の京都展が、京都国立博物館で開催されます。

  

開催期間は、2022年4月12日(火)〜5月22日(日) です。
詳しくは、
京都国立博物館HP展覧会ページならびに展覧会公式サイトをご覧ください。

本特別展は、2021年が伝教大師最澄の1200年の大遠忌にあたることから、東京国立博物館、九州国立博物館、京都国立博物館、三館巡回展として開催されているものです。

東京展の開催については、本HP「東京国立博物館で「最澄と天台宗のすべて展」開催」でご紹介した通りです。

本展覧会は、開催会場によって出展作品の内容が、随分違ったものになっています。
京都展出展作品については、公式サイト「3会場出展目録」をご覧ください。

東京展では、普段は「拝観不可の秘仏」が数多く出展されるなど、多くの仏像が出展され、充実したものとなっていましたが、京都展では仏像の出展数はさほど多くは無いようです。
京都展に出展される仏像をピックアップした一覧リストは、以下のとおりです。

 

注目像は、次のようなものではないかと思います。

*日野法界寺・薬師如来立像

日野資業が永承6年(1051年)に、伝教大師最澄自作の三寸の薬師像を納入して造立したと伝えられ、厳重な秘仏として守られている仏像です。
開帳の定めもなく、私の知る限りでは、1965年と2016年に京都非公開文化財特別公開で2度開帳公開されただけだと思います。
その時も、正面からではなく、厨子の横脇の扉が開かれ、側面から覗くように拝することが出来ただけでした。
温和な藤原風の像ですが、超絶技巧の繊細華麗な截金模様の見事さには眼を見張ります。
寺外初出展はもちろんのこと、正面からじっくりその姿を観ることが出来るのも、本展が初めてのことだと思います。

本展開催に際して、本像のX線CTスキャン撮影調査が行われ、最澄ゆかりと伝えられる「胎内仏」の姿の影像が発表されました。
その調査内容等については、観仏日々帖「法界寺の秘仏・薬師如来像の胎内仏をX線CTスキャンで撮影」で、ご紹介していますのでご覧ください。
京都展では、法界寺・秘仏薬師如来像と共に、CTデータにより3Dプリンターで複製制作された「胎内仏模造」が展示されるということです。

*興善寺・釈迦如来、薬師如来坐像

興善寺は、大阪府の南端、岬町多奈川にあり、釈迦如来、薬師如来坐像は半丈六の大型坐像です。
ちょっと地方的な匂いがする豊満な体躯の平安後期の像で、お寺では中尊・大日如来坐像(平安後期・重文)の両脇に安置されており、お堂いっぱいに安置された三尊像は、なかなかの壮観です。
本像が展覧会に出展された記憶は無いので、拝する良い機会かと思われます。
2018年の台風でお堂、仏像などに甚大な被害を受け、釈迦、薬師両像は京都で修理が行われていたことから今回の出展になったものだと思われます。

*等妙寺・菩薩遊戯坐像

愛媛県鬼北町の等妙寺・菩薩遊戯坐像は、鎌倉時代の制作で60年に一度の開扉の秘仏となっています。
本展出展に際し、九州国立博物館でX線CTスキャン調査が行われ、胎内に八角形を主体とした珍しい形の五輪塔が納められ、塔内部に舎利を表現した約20個の粒が籠められていることが判明し、注目を集めている像です。
紡ぐプロジェクトサイトに、調査内容等が掲載されています。

    
(左)法界寺・薬師如来像(平安・重文)、(中)興善寺・薬師如来像(平安後期・重文)、(右)等妙寺・菩薩遊戯坐像(鎌倉・県指定)

京都展では、仏像よりも画幅などの展示が充実しているようです。
釈迦金棺出現図(京博像・平安・国宝)も出展されます。

東京展をご覧になった方も、京都まで出かけてみる値打ちがありそうです。





●鳥取県立博物館で「三蔵法師が伝えたもの〜奈良・薬師寺の名品と鳥取・但馬のほとけさま展」開催(4/9〜5/15) (2022年4月3日‎)


鳥取市の鳥取県立博物館で、博物館開館50周年を記念して「三蔵法師が伝えたもの〜奈良・薬師寺の名品と鳥取・但馬のほとけさま展」が開催されます。

    


開催期間は、4月9日(土)〜5月15日(日) です。
詳しくは、
鳥取県立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、奈良薬師寺の所蔵の名品をもとに、その歴史と文化を紹介するとともに、三蔵法師が伝えた仏教や仏典の影響を受けた、県内と但馬地方に残る奈良〜平安時代の仏像や仏画の優品などを展示するものです。
展示作品については、展覧会ページ掲載の出品リストをご覧ください。

薬師寺からは、国宝・慈恩大師画像(平安)、十一面観音木彫像(奈良・重文)などが出展されますが、関心興味があるのは、当地、鳥取、但馬の仏像の出展です。
大栄町東高尾の観音寺・千手観音像(平安・重文)他の仏像群、三朝町の三仏寺・十一面観音像(平安・重文)、南部町の白山神社・十一面観音坐像(平安・町指定)、但馬香美町の帝釈寺・聖観音像(平安・重文)などが、出展されます。

最大の注目は、大栄町東高尾に在る観音寺の木彫群のうち主要な8躯が出展されることです。
辺鄙な無住のお寺の収蔵庫に、50体ほどの木彫仏、破損仏が遺されているのです。

    
東高尾観音寺の収蔵庫に安置される古仏群と千手観音立像(平安前期・重文)

そのなかでも、とりわけ魅力的なのは、ひときわ大きな千手観音立像(重文)です。
奈良時代風のハイウエストの造形で、大陸的な空気感を漂わせ、伸びやかなエネルギーを強く感じる、素晴らしい平安前期の一木彫像です。
山陰地方の仏像では、「私の一番のお気に入りの古仏」で、これまで3度も東高尾の観音寺をわざわざ訪ねたことがあります。

このほか、南部町の白山神社・十一面観音坐像(平安・町指定)は、白山神社の御神体で30年に一度開扉の秘仏だそうです。
但馬香美町の帝釈寺・聖観音像(平安・重文)は、風化があるものの平安後期の一木彫像です。

    
(左)南部町白山神社・十一面観音坐像(平安・町指定)、(右)但馬香美町帝釈寺・聖観音像(平安・重文)

私は、共に未見で、ちょっと興味深い処です。





●松涛美術館で「SHIBUYAで仏教美術〜奈良国立博物館コレクションより展」開催(4/9〜5/29) (2022年4月3日‎)


東京都渋谷区の松涛美術館で「SHIBUYAで仏教美術〜奈良国立博物館コレクションより展」が開催されます。

    


開催期間は、2022年4月9日(土)〜2022年5月29日(日) です。
詳しくは、
松涛美術館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

この展覧会は、奈良国立博物館所蔵の美術工芸品を東京で展示するという名品展です。

展覧会開催趣旨は、
「国内有数の博物館である奈良国立博物館ですが、意外にもその所蔵品を名品展として東京で公開したことはありませんでした。
そこで、この度、その魅力を多くの方々に改めて知って頂く 契機となればと考え、同館の数多くある所蔵品の中から、主として仏教に関する美術工芸品の一端、計83件を名品展という形で、ここ東京・渋谷で、ご紹介させて頂くことと致しました。」
ということです。

出品目録がまだ掲載されていませんが、仏像では、銅造・薬師如来坐像(奈良・重文)、銅造・観音菩薩立像(飛鳥・重文)、如意輪観音菩薩像(平安前期・重文)、石清水八幡宮宝塔院伝来・毘沙門天像(鎌倉)などが出展されるようです。

なかでも一番の注目は、アップ写真が展覧会チラシになっている如意輪観音菩薩像(平安前期・重文)です。

    
奈良国立博物館蔵・如意輪観音菩薩像(平安前期・重文)

本像は、江戸時代に丹後国の海中より発見されたという伝承をもち、その後、京都市内の回向院に伝来したという像です。
迫力満点の平安前期の一木彫像です。
キリリと鋭い目線、張りと締りのある体躯など緊張感あふれる造形で、圧倒的な存在感を発散させています。
なら仏像館に常時展示されているのですが、奈良博の傑作ぞろいの仏像展示のなかでは、目立っては注目されていないのかもしれません。

今回、松涛美術館で単独展示されると、優れた造形がとりわけ際立つのではないかと思います。
皆さん、その圧倒的迫力に、きっと驚かれるのではないでしょうか。

奈良博に折々訪れている方には、それぞれ見慣れた名品ということなのでしょうが、場所を変えてピックアップ作品をみると、またフレッシュな感覚で鑑賞することが出来るような気がします。
是非とも、訪れてみたい展覧会です。





●東京藝術大学美術館で「藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑」開催(4/2〜5/8) (2022年3月27日‎)


東京藝術大学美術館では、毎年所蔵品を展観する毎年藝大コレクション展が開催されていますが、本年は「春の名品探訪 天平の誘惑」というテーマで開催されます。

    
チラシ左は浄瑠璃寺旧蔵・吉祥天像厨子絵〜弁財天像(鎌倉・重文)

開催期間は、2022年4月2日(土)〜5月8日(日) です。
詳しくは、
東京藝術大学美術館HPならびに展覧会ページをご覧ください。

展覧会では、古美術から現代美術に至る藝大所蔵の名品が展示されますが、今回は、「天平の美術に思いを馳せた特集展示」も見どころとなっているということです。

仏像愛好がらみでいうと、注目の出展作品は、次の3点でしょうか。

第1は、浄瑠璃寺吉祥天厨子絵の出展です。
「浄瑠璃寺吉祥天厨子絵」(鎌倉・重文)は、あの有名な浄瑠璃寺の吉祥天像(鎌倉・重文)を収めた厨子の厨子の扉および背面板で、吉祥天像と同じく建暦2年(1212)に制作されたものです。
吉祥天像にも劣らぬ美麗で見事な厨子絵で、弁財天、梵天帝釈天、四天王像などが描かれています。
展覧会には全7面が一挙公開されます。

この厨子絵は、明治16〜7年(1883〜4)頃、加納鉄哉、竹内久一が浄瑠璃寺から入手し、明治22年(1889)に東京藝大の前身、東京美術学校の所蔵となっているものです。
現在、浄瑠璃寺に在る吉祥天像の厨子には、原画の所蔵先である東京芸大美術学部保存技術研究室による模写が復元制作されて嵌め込まれています。
この流出厨子絵の復元制作については、奈良文化財研究所の小林剛氏、仏像写真家の鹿鳴荘・永野太造氏等の尽力により昭和51年(1976)により実現したものです。

      
浄瑠璃寺旧蔵・吉祥天像厨子絵(左)梵天像(中)帝釈天像(鎌倉・重文)  (右)復元修復された厨子絵内に安置される浄瑠璃寺の吉祥天像

明治の厨子絵流出の経緯は興味深いものがあり、また昭和の復元制作への尽力については、記憶に留めておきたい話です。
観仏日々帖「東京国立博物館・静嘉堂文庫分蔵の浄瑠璃寺伝来・十二神将像」 「奈良の仏像写真家、「鹿鳴荘」永野太造氏のこと」で、これらの話をご紹介していますので、ご覧いただければと思います。


第2は、高山寺旧蔵・月光菩薩像の出展です。
本像は、体躯の一部が欠損しているものの、奈良時代後期の木心乾漆像として貴重な優作です。
この像は、もともと丹波、亀岡の神尾山金輪寺の本尊として祀られていた薬師三尊像の脇侍です。
所伝によれば、後世に高山寺に移され、明治22年(1889)に両脇侍像は東京美術学校が購入、日光菩薩像の方は明治25年(1902)に帝国博物館(現東京国立博物館)に譲渡されています。
中尊薬師如来像は、高山寺所蔵で京都国立博物館に寄託され、たまに京博に展示されています。
当時の丹波亀岡の仏教文化の奥深さを知ることが出来る、大変興味深い天平の木心乾漆像です。

  
亀岡金輪寺伝来・薬師三尊像〜(左)東京藝大美術館蔵・月光菩薩像、(中)高山寺・薬師如来坐像(京博寄託・重文)、(右)東博蔵・日光菩薩像(重文)

第3は、狩野芳崖の「奈良官遊地取」が出展されます。
狩野芳崖は、明治19年(1886)4〜6月に岡倉天心、フェノロサ等によって実施された奈良地方古社寺調査に同行します。
この時調査された、古社寺の仏像や宝物をスケッチしたのが「奈良官遊地取」で12巻の巻子本に仕立てられています。
狩野芳崖の手になる、法隆寺夢殿・救世観音、中宮寺・菩薩半跏像、聖林寺・十一面観音などのスケッチが残されていて、誠に興味深いものです。
なお、狩野芳崖の悲母観音像(重文)も展示されます。

        
狩野芳崖・奈良官遊地取〜(左)法隆寺夢殿・救世観音像、(中)中宮寺・菩薩半跏像、(右)聖林寺・十一面観音像

所謂仏像の展覧会ではありませんが、ご関心のある方には必見の展覧会ではないかと思います。





●東京国立博物館で「空也上人と六波羅蜜寺展」開催(3/1〜5/8) (2022年2月27日‎)


東京国立博物館で特別展「空也上人と六波羅蜜寺」が開催されます。

  

開催期間は、2022年3月1日(火) 〜 2022年5月8日(日) です。
詳しくは、
東京国立博物館HP展覧会ページならびに展覧会公式サイトをご覧ください。

本展では、六波羅蜜寺の宝物館に安置されている諸仏像・19躯が、全部揃って出展されます。
東京国立博物館での六波羅蜜寺の仏像展は、2008年7〜9月に「六波羅蜜寺の仏像」展が開催されて以来、14年ぶりの開催です。
2008年の展覧会は、六波羅蜜寺の宝物館(収蔵庫)修理に伴い開催されたものでしたが、今回の特別展も、2022年5月末に新宝物館「令和館」が開館することから、その移転に伴い開催されることになったものだと思われます。

出展仏像については、東博展覧会ページ・作品リストからダウンロードできます。

14年前の展覧会では、空也上人像(鎌倉時代〜康勝作・重文)は出展されませんでしたが、今回の展覧会には出展され、東京では半世紀ぶりの公開となります。

六波羅蜜寺の諸仏像は仏教彫刻史上、重要な位置付けに在る像ばかりです。

秘仏本尊・十一面観音像、薬師如来坐像、四天王像は、平安中期10世紀の制作で、一木彫像から寄木造へと移行して行く過渡期の技法が注目される重要な像です。
薬師如来像は正中線での左右二材矧ぎで、寄木造最古の像と云われています。
地蔵菩薩立像は、近年、定朝作の可能性が高いと論ぜられています。
運慶作の優品と考えられる地蔵菩薩坐像も出展されています。

  
六波羅蜜寺展出展像(左)薬師如来坐像(10C・重文)〜寄木造最古、(中)地蔵菩薩立像(11C・重文)〜定朝作?、(左)地蔵菩薩坐像(12C・重文)〜運慶作

余談ながら、秘仏本尊・十一面観音像(国宝)は、12年に一度開帳の秘仏で、当然のことながら出展されません。
「辰年開帳」ですので、2年後、2024年の御開帳の予定です。





●佛教大学宗教文化ミュージアムで「美術史の資料を紐解く展」開催(2/19〜3/19) (2022年2月19日‎)


京都市北区紫野の佛教大学宗教文化ミュージアムで企画展「佛大逍遥[〜美術史の資料を紐解く〜」が開催されます。

  


開催期間は、2月19日(土)〜3月19日(土) です。
詳しくは、
佛教大学宗教文化ミュージアムHP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、一見、仏像愛好とは縁がないように展覧会名になっていますが、仏像愛好者ならその名前をよく知る「井上正氏」(1929〜2014)の仏教美術研究の業績を、資料などで振り返り紐解く企画展ということです。

企画展開催趣旨には、
「本展では、「雲気化生説」や「霊木化現仏説」などの学説を唱え、仏教美術史研究に大きな影響を与えた井上正先生の業績を中心に据え、美術史の奥深さと楽しさをご紹介します。
先生が佛教大学で教鞭をとられたのは僅か五年ほどでしたが、長きにわたる研究活動のなかで、様々な観点と成果が有機的に結びついて、出そろった時期にあたるようです。
独自の学説はどのように形成され発信されてきたのか、遺された貴重な資料を紐解いてみたいと思います。」
と、述べられています。

井上正氏と云えば、背面の彫りや後頭部の螺髪を省略した表現となっている仏像について、霊木から仏が出現する途上の有様を形にした造形表現であるという説、即ち「霊木化現仏説」を提唱した研究者です。

また、従来10世紀頃とされていた平安木彫の捉え方を見直し、それらの中で奈良時代まで制作時期が遡るものがあることを主張しました。
これらの像は、いずれも「烈しい霊威表現」とか、「尋常ならざる精神性を発する表現」の仏像で、その多くは行基ゆかりの彫像で8世紀前半に遡る制作のものという、従来の常識を覆す大胆な説でした。
大阪府貝塚市の孝恩寺諸像、三重県伊賀市の観菩提寺・十一面観音像、兵庫県多可郡の楊柳寺諸像などが、こうした仏像の代表例に挙げられるのではないかと思います。

    
(左)大阪〜孝恩寺・跋難陀竜王立像、(中)三重〜観菩提寺・十一面観音像、(左)兵庫〜楊柳寺・十一面観音像

井上正氏の所説や著作については、観仏日々帖「新刊・旧刊案内〜井上正著「続・古仏 古密教彫像巡歴」でご紹介したことがありますので、ご覧ください。

私は、井上正氏の提唱説の当否と云ったことはよく判りませんが、そこで採り上げられている気迫勝負というか強烈なインパクト、オーラを発する「古密教彫像」たちにすっかり惹きつけられ、これらの像を拝しに各地を巡っています。

本企画展に関連して、次のような講座が佛教大学オープンラーニングセンターで開かれます。

熊谷貴史氏による「宗教文化ミュージアム連携講座 仏像夜話」の第5回・6回です。
企画展「佛大逍遥[―美術史の資料を紐解く―」によせて@:2022.2.25(金)18:00〜19:15
企画展「佛大逍遥[―美術史の資料を紐解く―」によせてA:2022.3.11(金)18:00〜19:15
詳しくは、佛教大学OLC・HP並びに講座一覧ページをご覧ください。
オンライン受講も可能です。

大きな企画展ではありませんが、ご関心のある方には必見で、講座も是非聴いてみたいものだと思います。





●亀岡市文化資料館で「亀岡の名宝展」開催〜甘露寺・十一面観音像が出展(2/11〜3/13) (2022年2月14日‎)


京都府亀岡市の亀岡市文化資料館で特別展「「亀岡の名宝展」が開催されます。

  


開催期間は、2022年2月11日(金)〜3月13日(日) です。
詳しくは、
亀岡市文化資料館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

本展は、「亀岡市内の名宝」の展示会で、円山応挙が丹波国桑田郡穴太村(現亀岡市)に生まれて290年の節目に当たることを記念して開催されるものとのことです。
出展作品は、円山応挙作の金剛寺蔵・群仙図(重文)をはじめ、絵画作品が多いようです。

仏像の出展は2躯だけですが、私の大注目は甘露寺・十一面観音坐像(府指定文化財)が出展されることです。
あまり知られていない仏像ですが、9世紀の制作に遡ると云われる、大変興味深い一木彫像です。
私は、甘露寺を訪ねて初めてこの像を拝した時、想定外の迫力に驚かされました。

   
甘露寺・十一面観音坐像(平安前期・府指定文化財)

中野玄三氏は、「新修亀岡市史」(2005年刊)で、
「甘露寺十一面観音像は、制作年代は9世紀に下るかもしれないが、天平時代の山林仏教で盛んに制作された木彫像の作風と、同時代の山林仏教で信仰された十一面観音悔過の様相を物語っている。」
と述べています。
ちょっと鄙びた感じもありますが、豊満で肉付け豊か、堂々と重厚感に満ちた造形は、魅力的で惹きつけられるものがあります。
惹かれるものがあって、私は2回も甘露寺を訪ねてしまいました。
観仏日々帖「亀岡市、甘露寺・十一面観音坐像」でご紹介していますので、ご覧ください。

もう1躯出展の丹波国分寺・薬師如来像(重要文化財)は、平安時代、11世紀頃の製作と見られる一木彫像です。
穏やかさもみられる造形ですが、上瞼がうねるようなアイラインの眼力を感じる、締まった顔立ちが印象的な見処ある古仏です。

   
丹波国分寺・薬師如来坐像(平安・重文)

こじんまりした展覧会のようですが、亀岡まで足を延ばして、甘露寺・観音像を一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
コロナ禍下でなければ、亀岡の仏像探訪がてら、是非とも観に行きたい展覧会なのですが、関東から出かけるかはちょっとためらってしまう処です。





●奈良国立博物館で「国宝 聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ展」開催(2/5〜3/27) (2022年1月27日‎)


奈良国立博物館で「国宝 聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ展」が開催されます。

 

開催期間は、2022年2月5日(土)〜3月27日(日) です。
詳しくは、
奈良国立博物館HP展覧会ページおよび展覧会公式サイトをご覧ください。

この展覧会は、昨年(2021年)6〜9月に東京国立博物館で開催されたものと同じ特別展で、奈良国立博物館を会場として開催されるものです。
展覧会概要や注目点などについては、本HP、
【東京国立博物館で「国宝 聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ展」開催】
でご紹介していますので、そちらをご覧ください。

奈良博開催展での「最大のみどころ」は、聖林寺・十一面観音像がガラスケース越しではなくて、直に観ることが出来ることです。
東博会場では、360度ビューでは見ることが出来たものの、ガラスケースに入れられていました。
聖林寺の宝物殿でもガラス越しの拝観になっていますので、今回、奈良博でガラス無しに360度ビューで観ることが出来るのは、得難いチャンスかもしれません。

是非、お出かけください。





●和歌山県立博物館で「仏像は地域とともに〜みんなで守る文化財〜展」開催(1/29〜3/6) (2022年1月27日‎)



和歌山県立博物館で企画展「仏像は地域とともに〜みんなで守る文化財〜」が開催されます。

開催期間は、2022年1月29日(土)〜3月6日(火) です。
詳しくは、
和歌山県立博物館HP並びに展覧会ページをご覧ください。

和歌山県では、各地の集落に受け継がれて守られてきた仏像が、集落の人口減少や高齢化が進み、寺社の日常的な管理が難しくなっている状況にあります。
仏像が盗難被害に遭う事例も増えており、積極的な防犯対策を進めるとともに、人々の信仰と歴史の蓄積をものがたる大切な文化財を失わないための、これからの保護のあり方を模索していくことが求められています。
此の企画展では、こうした現状の中で、
「地域で守り継がれた仏像と、盗難被害に遭った仏像、そして県立和歌山工業高等学校・和歌山大学と連携して製作した「お身代わり仏像」を活用した保護の取り組みを紹介し、文化財をみんなで守るこれからのあり方について考える機会とします。」
という趣旨で開催されるということです。

所謂、仏像の名品展というものではありませんが、過疎が進む中での、地域の文化財や人々に信仰される仏像を、如何にして守ってゆくのかという問題を考える、意義深い展覧会だと思います。

出展される仏像(掲出目録参照)を見てみると、有田川町の法福寺の諸仏像5躯が展示されます。
これまでも企画展で、折りに展示されているようですが、一度は観ておきたい仏像です。
平安時代、10世紀頃かと思われ、なかなか個性的な存在感を発散している独特の仏像群です。

    
法福寺の諸仏像 (左)観音菩薩像、(中)地蔵菩薩像、(右)吉祥天像〜いずれも平安・10C頃(町指定)

法福寺は、有田川町でも奥の方の辺鄙な処にあり一度訪ねたいと思っているのですが、まだ果たせていません。

本展の「図録的な16ページのパンフレット」が、博物館HPにPDFで掲載されています。
展覧会へ出かけられない人には、大変嬉しく、有り難いことです。





●京都・龍谷ミュージアムで「仏像ひな形の世界展V」開催(1/9〜3/21) (2022年1月6日‎)


京都市下京区の龍谷ミュージアムで、特集展示「仏像ひな形の世界V」が開催されます。




開催期間は、前期:1月9日(日)〜2月13日(日)、後期:2月19日(土)〜3月21日(月・祝)です。
詳しくは、
龍谷ミュージアムHP並びに展覧会ページをご覧ください。
龍谷ミュージアムでは、2020年から仏像の小型模型ともいえる「ひな型」を展示する特集展をシリーズで開催しています。
江戸時代から平成まで系譜を重ねた京都仏師・畑治良右衛門家に伝わってきた、仏像雛形420件の中から順次特集展示が行われているものです。
今回の展観は、その第3回の特集展です。

  
第1回、第2回の「仏像のひな型」特集展のチラシ

展覧会開催趣旨には、
「雛型は、大きな仏像を制作する前に、構造や木材の必要量を計算し、どのようにすれば効率的に制作できるかを考える縮小模型としての役割ほか、仏師にとっては様々なかたちで役立つものでした。 また、ときには失われた彫像の姿を今に伝えてくれる存在でもあります。
普段我々の目にふれることの少ない雛型を通して、江戸時代のゆたかな造像活動や仏師たちの息遣いを感じ取っていただけましたら幸いです。」
と、述べられています。

大変地味な特集展だとは思いますが、木彫像の制作技法のご関心のある方には、大変興味深い展覧会ではないかと思います。






【過去の展示会情報】

2000年上半期

2000年下半期

2001年上半期

2001年下半期

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

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