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貞観の息吹き 高見 徹 42. 小山寺 十一面観音坐像(茨城県桜川市富谷2190)
小山寺は、富谷山の中腹に位置し、天平7年(735)、聖武天皇の勅願により行基菩薩を開基として創立されたと伝えられ、富谷観音として親しまれている。境内からは岩瀬の町が一望できる。 本堂の厨子の中には十一面観音坐像が、不動明王像、毘沙門天像を脇士として安置されている。本尊十一面観音坐像は、像高200.5cmの巨像で、面部、体 部、上膊部をはじめ、全身にやや不規則な横縞目の丸鑿の痕を残す、いわゆる鉈彫像である。胸前には瓔珞が共木から彫り出されているが、瓔珞にも模様のよう に鑿跡が見られる。両肩口から剥ぎ付けた腕にも精緻な腕釧が彫られている。
鉈彫像は、関東・東北地方を中心に多く残されているが、その中でもこれ程大きな像の例は少ない。この像は、頭体部をアサダの一材から彫り出されているが、
脚の部分は別材でカエデ材が用いられている。一体の像で、上半身と膝部分を別材で造ることは珍しく、脚部は時代的にもやや下ると見られることから、アサダ
の一木で造られた立像が、下半身が朽損したため、膝部を新しく造り直し坐像としたとも考えられる。 アサダはカバノキ科の樹木で、材質は極めて緻密で、アイアンウッドあるいは
中国では鉄木と呼ばれる程硬く、強靭で割れにくい材料として知られている。また、産地は狭い範囲に限られており個体数も少ない樹木である。 本像は、大柄で小さな厨子一杯に安置されているので、全体を捉えるのは難しいが、側面観は鉈彫像には珍しく、頭部、体部ともにかなりの奥行きを持っている。 当地は、平安時代前期の聖観音像を有する楽法寺(雨引観音)など、筑波山から連なる一連の仏教文化圏の中にあり、その影響を感じさせる。 |
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