貞観の息吹き 
高見 徹

34.  常楽寺 如来坐像愛知県稲沢市日下部東町) 

  稲沢は、今でこそ名古屋の衛星都市の一つで、郊外の町という佇まいだが、濃美平野の中央に位置し、かつては尾張国の国府が置かれ、奈良時代には、 聖武天皇の命により、国分寺・国分尼寺が建立された場所でもある。また、尾張大国霊神社が尾張国の総社と定められるなど、古くから当地方の政治・経済・文化の中心で あった。
 戦国時代には稲沢の南に位置する清洲城に織田信長が入城し、天下統一の舞台となった場所でもある。

 現在、稲沢市には重要文化財23件、県指定文化財34件、市指定文化財133件、計190件の指定文化財があるが、重要文化財の数は、愛知県内では名古屋市、岡崎市に次いで3番目に多く、その中でも優れた仏教美術が多い。
 仏像では、特に藤原時代から鎌倉・室町時代にかけての優作が多く残されており、中央との密接な関係が感じられる。

 その中でも、稲沢市の南方、清洲駅に程近い場所に位置する常楽寺の如来坐像は、量感のある体躯や奥行きのある面相などに古様を示す像である。

 如来坐像は現状は両手先が後補のものに代っており、本来の印相が不明であることから、如来坐像として県の指定文化財に指定されている。
 本堂脇のコンクリート造りのお堂に安置されており、須弥壇の正面にガラスが張られているため、正面からの像容が掴み辛いが、面相は円満具足の穏やかな像で、切り付けの螺髪も細かく、藤原盛期の像容を伝えているように見える。しかしながら、側 面に廻ると、頭部の奥行や体部などに十分な厚みを持っており、ボリュームを感じさせる像であることが分かる。このような量感は地方作であるが故の造形と見る向きもあるが、縦四材 から頭体部を彫出するなど一木造の意識を感じさせる点や、衣文の表現、高い膝張は、平安時代前期の余韻を残すと見るべきであろう。

 稲沢は、前述のように古代からの歴史を伝える地域であり、奥田安楽寺や船橋安楽寺の阿弥陀如来坐像など、平安時代中期以降の像を多く残すが、それ以前に溯る遺品は少ない。その意味では、本像は稲沢地方にあって、先駆的な位置付けにある像と言えよう。



 



 


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