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聖林寺 十一面観音像 |
「この像の素材は上半身が脱乾漆像のために、その部分は張子のような構造で中空である。
住職倉本春尚師が、師の坊につれられて、子供の時はじめてこの像に接したときは『単なる張りぼて』であるとしか思われなかったという話は、ことの真実を
直感として語っている。
脱乾漆は一般にのびのびとした巨像をつくるのには何より好条件であるが、しかし逆にちぢみからくる狂いと痩せがこの像をほろびの運命へと導く。薄くつく
れるのでこの欠点を逆に考えれば、軽さと軟らかさと可憐さと親しみの微妙な味わいを与えるから妙である。
この像の作者は、上部は脱乾漆、下部は木心乾漆、両方の特質を巧みに併せて活用している。・・・・・・・・
やや重たげのふっくらとした上瞼、そのはれぼったさが不思議に人をひきつける。」(寺尾勇著「古寺再見〜ほろびの美〜」所収)