埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第九十回)

  第十九話 仏像を科学する本、技法についての本
  〈その2〉  仏像の素材と技法〜金属・土で造られた仏像編〜


 【19−2】

1.仏像の素材と技法全般についての本

 これから、仏像の素材と技法について採上げ綴っていく前に、「仏像彫刻の素材と技法」のそれぞれを、ひと通り判り易く知ることができる本を、まずは5冊 紹介したい。

「仏 像のみかた〈技法と表現〉」 倉田文作著 (S40) 第一法規出版刊 【331P】 3500円

 本の表題のとおり、仏像の素材と技法を総合的に理解することができる、最もわかりやすく充実した本。
仏像の文化財指定や修理に長らく携わり、奈良国立博物館の館長もつとめた倉田文作が、その経歴、知見を活かし、仏像制作の技法面を中心に解説している。
 「仏像の材質と技法」という章では、素材別にそれぞれの仏像製造技法が、やさしく解説されている。
さらには、飛鳥から鎌倉までの代表的仏像のうち、著者倉田が実査し、修理、修復等に関った仏像について、その技法や構造などが詳しく記されている。
 内部構造や材の矧ぎ付け方、後補部分や見所が懇切に解き明かされており、自ら実査し、修理の現場に立ち会ったものならではの解説で、まことに興味深い。


「古 美術の科学〜材料・技法を探る〜」 小口八郎著 (S55) 日本書籍刊 【222P】 1500円

 東京藝術大学大学院で、我が国の芸大に唯一設置された「保存科学」という専攻分野を担当する著者が、古美術の材料・技法について、一般読者にもわかりや すい文章で解説した本。
 仏像の制作技法については、50頁にわたって、「金銅仏、天平の塑像、乾漆」という項立てで、詳しく丁寧に記されている。
 この後、記した素材別技法についての話は、本書の解説に助けられること多く、結構引用させてもらうなどお世話になった。
 是非、一読をお薦め。
 

  「仏像彫刻の鑑賞基礎知識」 三森正士・岡田健著 (H1) 至文堂刊 【264P】 3689円

 本の題名のとおり、仏像鑑賞のための基礎知識項目について解説した本。
基礎知識と称されているものの、しっかりしたレベルの充実した解説内容の本。
「素材と技法」という項立てで、三森正士が詳細な解説を27ページに亘って執筆している。


「日 本史小百科 彫刻」 久野健編 (S60) 近藤出版社刊 【368P】 2000円

 日本史小百科シリーズの一冊として刊行された。
 日本の彫刻(仏像)を理解するのに必要な事項を百項目選び、平易な解説が付されている。
 いわゆる仏像鑑賞解説書ではなく、仏像愛好者向きの一歩踏み込んだ内容になっている。
 「彫刻の材料と技法」という章が四十数頁設けられ、仏像の各種素材とその技法を10種に区分し簡潔平易な解説が付されており、概観を理解するのに大変便 利。
 因みに、本サイト(神奈川仏教文化研究所)の主宰者、高見徹氏が執筆に参画しており、「彫刻の材料と技法」の章では、脱乾漆、木心乾漆の項を執筆されて いる。


「日 本仏像事典」 真鍋俊照編 (H16) 吉川弘文館刊 【409P】 2500円

 本書は、吉川弘文館の大著「国史大辞典」全15巻に収録された解説文の中から、仏像に関するものを採録して、ハンディな一冊にまとめたもの。
 「国史大辞典」は、ご存知の通り、学界の研究者を総動員して編纂された、我が国最大最高峰の日本史百科事典。
 当代一流の研究者が執筆により、仏像の由来・意味・特徴などの解説がまとめられている。
 「仏像の技法」という章が設けられ、各種の技法について、コンパクトに説明されている。


 もうひとつ、仏像の素材と技法について、詳しく知ることができるシリーズ本を、ここで一括して紹介しておきたい。
 皆さんご存知の「至文堂 日本の美術」シリーズで、このシリーズの中で仏像の素材と技法をテーマにしたものが、10冊刊行されている。
 それぞれ当代一流の研究者が、製作技法や代表的作品について、詳しく論じており、このシリーズを読破すれば、「仏像の素材と技法」のことについては、相 当のレベルでしっかり知ることができると思う。

「金 銅仏   日本の美術251」 鷲塚 泰光著 (S62) 至文堂刊 【94P】 1300円

「塑像 日本の美術255」 西川杏太郎著 (S62) 至文堂刊 【94P】
 1300円

「押 出仏と塼仏 日本の美術118」 久野 健編 (S51) 至文堂刊 【98P】
  980円

「乾 漆仏 日本の美術254」 久野 健著 (S62) 至文堂刊 【98P】
 1300円

「一 木彫の展開〜平安時代前期の彫刻〜日本の美術457」 岩佐光晴著 (H16) 至文堂刊 【98P】 1571円

「一 木造と寄木造 日本の美術202」西川杏太郎編(S58) 至文堂刊【90P】
1300円

「檀像 日本の美術253」 井上 正著 (S62) 至文堂刊 【94P】
 1300円

「鉄仏 日本の美術252」 佐藤 昭夫著 (S62) 至文堂刊 【98P】
 1300円

「石 造美術  日本の美術45」 小野 勝年編 (S45) 至文堂刊 【106P】
 590円

「石仏 日本の美術147」 鷲塚 泰光著 (S53) 至文堂刊 【98P】
  980円

 

2.素材別に見た仏像の技法の話
 
 我が国の古代仏像を、素材・材料からみると、銅、鉄、石、木、漆(乾漆)、土(塑土)など、さまざまだ。

 これを技法面から見ると、捻塑的技法と彫刻的技法に分類される。
 捻塑的技法には、塑像、乾漆像、金銅仏などが含まれる。
 この技法は、軟らかい素材をモデリングして作るわけで、仏師は思うがままにモデリングして、盛ったり掻き落したりしながら、表情豊かな面相や起伏に富ん だ体躯など自由な表現が可能となる。
 彫刻的技法は、木彫像、石彫像などだが、外側から鑿を掘り進め、彫り込んでいく彫刻法は、修正が効きにくい。
 一木彫像に代表されるように、その量感や存在感をそのまま生かしたような、力強い像となる場合も多い。

 「それぞれの素材や技法を代表する仏像作品には、どのようなものがあるだろうか?」
 ここで、仏像の素材と技法を、私の独断と偏見の分類で一覧にし、その特色が見事に表現されたと思う仏像をあげてみた。

素材 技法 技法の特色が活かされた代表的仏像と思う作品
金属 金銅仏 橘夫人念持仏像、薬師寺東院堂聖観音像、
薬師寺金堂薬師三尊像
鉄仏大山寺不動明王像、大観音寺観音菩薩像頭部
金銀 (銀製)東大寺三月堂不空羂索観音化仏
押出仏法隆寺厨子入り阿弥陀三尊
土(塑土)塑像法隆寺塔本塑像、東大寺三月堂日光月光菩薩像、
東大寺戒壇堂四天王像
塼仏南法華寺、紀寺出土塼仏
漆(乾漆)脱乾漆像東大寺三月堂不空羂索観音像、興福寺阿修羅像、
唐招提寺廬舎那仏像
木心乾漆像 聖林寺十一面観音像、観音寺十一面観音像、
唐招提寺千手観音像
一木彫 神護寺薬師如来像、元興寺薬師如来像、
渡岸寺十一面観音像
檀像 法隆寺九面観音像、金剛峯寺諸仏龕
法華寺十一面観音像、奈良博薬師如来像
鉈彫り 宝城坊薬師三尊像、天台寺聖観音像、
弘明寺十一面観音像
板彫り小松寺如意輪観音像、興福寺板彫十二神将像
寄木造平等院阿弥陀如来像、東大寺南大門仁王像
石仏石位寺三尊石仏、十輪院地蔵菩薩像
磨崖仏大谷寺磨崖仏、臼杵磨崖仏、熊野磨崖仏

 ここに挙げてみた仏像たちの姿や造型、その魅力を頭の中に思い浮かべてみると、
名品といわれる仏像たちは、こうした素材や技法の特色、持ち味を見事に生かして、すばらしき造型、表現に仕上げられている。
 と、今更ながらに感じるのである。

       

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