埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の 本〜(第四十二回)

  第十話 地方佛〜その魅力にふれる本〜

《その2》各地の地方佛ガイドあれこれ 【全国編・東北編】

【10-5】

【福島県の仏像】

 「ふくしまの 仏像」 菊地貴晴 (S51) 福島中央テレビ ふくしま文庫27 【199P】

 著者は、福島大学教授で文化財審議委員。
 会津・中通り・浜通りという、福島県の地域別に、仏像を網羅し、写真と判り易い解説が付されている。啓蒙書だが、記述のレベルはしっかりしている。

 「福島の仏像〜企画展図録全3冊〜」 (H3)福島県立博物館 【268P】

 S62からH3にかけ、3回に亘り開催された福島の仏像シリーズ企画展「会津の仏像」「中通りの仏像」「浜通りの仏像」の、展覧会図録集。
 図録序文に、

「この展覧会は、勝常寺や法用寺など、有名になって、ひろく 常識になっている名作よりも、あまり知られていない、まったく知られていないにもかかわらず、十分歴史になっているもの、文化となって、評価をもっている ものを、重点的に扱ってみました。」

 と、記されているように、100体以上の仏像が掲載されているが、重文は2体だけで、あとは県指定・無指定の仏像が取り上げられており、貴重な図録。

 「福島の仏像〜福島県仏像図説〜」  (H9) 福島県立博物館 【205P】

 福島県の仏像についてかかれた本では、この本が最高。
 学術レベル、内容・写真の充実度、解説の判り易さ三拍子そろっていて、絶対にお薦め、一押し。
 今も博物館で入手可能、1300円。
 各論に入る前に、仏像の種類・材質・技法構造の解説があるが、すべて地元福島の仏像を例にとって記してある。
 仏像解説は、地域別・時代別に記されているが、しっかりとした学術調査・考証を踏まえ、しかも平易に叙されている。
 執筆は、若林繁。福島の仏像といえば若林、という感じで、著作、寄稿も多く活躍中の仁。福島県立博物館学芸課長。

 「ふくしまの仏像〜平安時代〜」 若林 繁著 (H14) 歴史春秋出版社 歴春ふくしま文庫75 【167P】

 福島の平安仏のみに、スポットあてて論じ解説した本。
 「会津勝常寺と平安前期の仏像、福島大蔵寺と平安前期の仏像、いわき出蔵寺と蔵皇神社の明王形立像、会津の平安後期の仏像、中通りの平安後期の仏像、白 水阿弥陀堂と浜通りの平安後期の仏像」という項立てで記されている。
 これまた、なかなかのお薦め本。


 「会津の美 術」 梅宮茂著 (S49) 浪速屋書店刊 【124P】

 会津の文化財の大型写真集。会津20余ヶ寺の仏像が掲載されている。




 「勝常寺」 佐藤昭夫著 (S51)  中央公論美術出版社刊 美術文化シリーズ86 【40P】

 この美 術文化シリーズは、ハンディな冊子ながらも、その寺社や文化財の調査・研究に取り組んだ研究者が、自ら執筆。平易だが、しっかりした考証・学術レベルの裏 打ちされた記述で定評あるシリーズ。
 本書、著者の佐藤昭夫も、勝常寺薬師三尊像考(美術史21)・会津の仏像(ミューゼアム230)の論考がある美術史学者。

 東北平安佛中、最古で最優の仏像と呼ばれる、勝常寺の古佛。
本尊・薬師如来像は、初期貞観というよりも、天平と貞観の間といった方が似つかわしいかと感じられる名品。
 平成8年には、薬師三尊像が、ついに「国宝」に指定された。


 3年程前、30年余ぶりに勝常寺を訪れてみた。
 私一人であったが、ご住職?は気さくな中年女性で、本堂に案内いただき、本尊薬師如来像を、懐かしく拝観させていただいた。
 眼前の薬師如来は、キリリと締まった顔で、どっしりとした威圧感と迫力を、厨子の中から伝えて来る。引き締まった小作りの口元と、大粒の螺髪が印象的 で、頼り甲斐ある秘めたる力を感じさせる。
 なんといっても「みちのく第一の傑作」たることは、間違いない。

「昔、寄せてもらった時は、怖そうなご住職で、もの凄く、緊 張して案内してもらったんですよ」
「ああ、その住職は、私の舅さんです。もう亡くなりましたけれど・・・・。皆さん結構、怖かったっておっしゃいますねえ」

 三十余年前、私たちが勝常寺を訪れたのは、朝の8時ごろ。
 声をかけ、現れたご住職は、「若造達が、何をしにきた」という感じの、厳しい表情。
 事前に手紙で、拝観のご了解を得てはいたのだが、何か気に障ることでもしたのだろうかとドギマギした。地方の古寺の拝観など、はじめての我々は、とにか く怖くてコチンコチンに固まってしまった。
 ご住職には、チャラチャラした若者達が、遊び半分のディスカバージャパン気分でやって来たように、映ったのかもしれない。
 本堂に、あげていただいたら、住職の第一声は、
 「あなた達は、どんな本を読んできたのかね。」
 検事に、取り調べの詰問をされているよう。
 もう、ひたすら恐れ入って、蚊のなくような声で、
 「あのう・・・東北地方の彫刻についてかかれた本とか、ええーと、あのその、久野健とか、佐藤昭夫という人が書かれた論文などを、読んできました が・・・・・・」
 「なるほど、オーソドックスですね。」
 と、厳しき表情が緩んで、その場の雰囲気が、かなり和んだ。
 それから読経が始まり、開帳され、薬師如来像を拝観させていただくことができた。
 しかし、立ち上がって仏像を観たり、動いたりなど許される雰囲気ではなく、正座したまま、ご拝観。
 恐る恐る「写真を撮らせて頂いてよろしいでしょうか?」と訊ねると「早く撮りなさい」と、叱られているように言われ、写真担当のM君は、三脚を立てるの も緊張でおぼつかなく、読経が続くなか、震える手でシャッターを切った。
 

 勝常寺の拝観を終え、ご住職と別れた後、ホーッとしてヘナヘナとよろけそうな気分だった。
 なにしろ、我々が地方仏探訪を計画し、「初めて訪れた地方の寺」が勝常寺であったのだから。

「地方の古佛を拝観するというのは、こんなにもシンドイ、緊 張する事なんだろうか?これでは参ってしまって、持たないかも?」
「あの時、何も読んだり調べたりせずに、フラッと来ましたって、答えたら、開帳してもらえなかったかも?」

 我々は、こんな言葉を交わしながら、ため息交じりに、帰りのバスが来るのを待っていた。


 薬師如来像を前に、
「昔は、ご拝観も厳しくって、事前に読んだ本まで聞かれましてね。佐藤昭夫さんの論文を読んできたと、緊張して答えましたよ」
 と思い出話をすると、
 「そうでしょうねー、なかなか厳しい方でしたから。いまは、バスで団体さんが見えるし、ふらりと来られても、ご本尊の拝観は頂いてるんですよ。
 佐藤昭夫先生は、懐かしいですね。研究されていた時は、先生は一ヶ月ぐらいここに泊まりっきりで、調査されてましたのを、覚えてますよ。」
 と和やかな会話を交わした。

今回は、ゆったりとした和やかな気分で、ゆっくりいろんな角度から薬師如来像を拝観することができ、その素晴らしさを、今更ながらに実感することができた のである。


 「立木千手観音〜金塔山恵隆寺」 恵隆 寺刊 【29P】

 会津・恵隆寺には、像高8.5mの巨大な立ち木仏がある。鎌倉初期?といわれ、重要文化財。
 寺発刊の小冊子だが、文化財専門委員の校閲もあり、恵隆寺・千手観音像解説と寺の歴史・年表が、キッチリと記述されている。参考文献も掲載。

 「大蔵寺の仏像〜東北の一木彫像〜〈福 島県立博物館調査報告第24集〉」 (H5) 福島県立博物館刊 【46P】

 大蔵寺は、福島市内、小倉寺山の中腹に在り、10世紀頃の制作といわれる、像高4mの一木彫千手観音像の巨像で名高い。
 大蔵寺には、この千手観音像をはじめ、破損一木彫など28躯の古佛が残されている。
 本書は、昭和39年に美術院で抜本修理された本尊千手観音像以外の、27躯の仏像の調査報告書。
 殆んどが、朽ちかけた破損仏だが、9〜10世紀の制作と考えられる像。
 執筆は、若林繁で、詳細な図版と1躯毎の調査結果解説、大蔵寺の仏像の論考からなる。
 内容充実した調査報告書、現在も1500円で販売中。



 みちのくの古佛は、やはり素晴らしい。

 それぞれの古佛たちが、みちのくの「土の匂いと、こころ」が息づいた個性的な姿で、我々の心を惹きつける。
 地方仏の魅力は、「みちのくに始まり、みちのくに終わる」のかなと、心の中で思いつつ、「東北の地方佛の本」の紹介を終えたい。

−了−

 

 


 参  考

  第十話 地方佛〜その魅 力にふれる本〜

《その2》各地の地方佛の本・探訪ガイ ドあれこれ 
【全国編・東北地方編】〜関連本リスト〜

書名
著者名
出版社
発行年
定価(円)

仏像巡礼事典

久野健

山川出版社

S61

1700

仏像を旅する 全10巻

西川杏太郎監修

至文堂

H1〜3

27060

国宝重要文化財 仏教美術
(既刊8巻)

奈良国立博物館編ハハハ

小学館

S47〜 55

116000

仏像集成 全8巻

久野健編

学生社

S60〜 H9

208950

日本の美術
地方別彫刻シリーズ6冊


至文堂

S59〜 60

7800

旅の仏たち〜地方仏紀行〜
全4巻

丸山尚一

毎日新聞社

S62

7200

秘仏の旅(上・下)

丸山尚一

東京新聞出版局

S58

3600

十一面観音の旅

丸山尚一

新潮社

H4

2600

続十一面観音の



H6

2800

日本仏像名宝辞典

久野健編

東京堂出版

S59

9800

全国 寺社・仏像ガイド

美術出版社

美術出版社

H14

2800

日本古寺美術全集 全25巻


集英社

S54〜 56

140000

仏像鑑賞の旅

久野健編

里文出版

S56

2000

秘められた百寺百仏の旅

久野健監修

里文出版

S59

1800

東北古代彫刻史の研究

久野健

中央公論美術出版

S46

7000

みちのく古佛紀行

大矢邦宣

河出書房新社刊(ふくろうの本)

H11

1800

「北 天の秘仏」別冊太陽74


平凡社

H4

2200

み ちのくの伝統文化T〜古美術編〜

上原昭一編集

小学館

S60

8500

仏 像を旅する〜東北線〜

佐藤昭夫編

至文堂

H2

2480

仏像を旅する〜奥羽線〜

佐藤昭夫編

至文堂

H1

2480

日本の美術〜みちのくの仏像

佐藤昭夫編

至文堂

S59

1300

祈りのかたち〜東北地方の仏像〜


東北歴史博物館

H11

1500

あづまみちのくの古仏

吉村貞司

六興出版

S53

1300

古仏の祈りと涙〜みちのく紀行〜

吉村貞司

新潮選書

S58

850

みちのくの仏たち

河村弘栄

鹿島出版会

S51

非 売品

みちのく古寺巡礼

高橋富雄

日本経済新聞社

S60

1800

みちのく〜風土と心〜

高橋富雄

社会思想社

S42

2300

東北の古代探訪
〜みちのくの文化源流考〜

司東真雄

八重岳書房

S55

1600

岩手の仏像
〜ふるさとのみほとけを訪ねて〜

吉川保正

岩手県文化財愛護協会

S50

980

岩手の平安仏

小野智保私家版


S63

9000

岩手の古代文化史探訪

司東真雄

岩手県文化財愛護協会

S61

1500

廃仏毀釈を免れた仏たち

梅原廉

山陽印刷出版部

H7

非 売品

江刺の仏像〜
江刺市文化財調査報告書〜


江刺市教育委員会

S60

1000

天台寺〜みちのく守護の寺

高橋富雄

東京書籍

S52

980

帰ってきた天台寺
〜神も仏もキャンペーンも〜

桜井邦雄

毎日新聞盛岡支局

S54

1300

天台寺研究

天台寺研究会編

岩手日報社

S59

4000

みちのくの霊山・桂泉観音

天台寺

岩手県立博物館

S62

1500

古代文化の黒石寺

司東真雄

亀梨文化店

S57

980

中 尊寺と藤原四代〜
中尊寺学術調査報告〜

朝日新聞社編

朝日新聞社

S25

300

金色の棺

内海隆一郎

筑摩書房

S60

1400

奥 州藤原4代 甦る秘宝

遠 山崇

岩 手日報社

H5

1262

シ ンポジウム 平泉
〜奥州藤原氏4代の栄華〜

高 橋富雄編

小 学館

S60

1800

福 島の仏像

菊 地貴晴

福 島中央テレビ
ふくしま文庫27

S51

680

福 島の仏像〜企画展図録全3冊〜


福 島県立博物館

H3

不 明

福 島の仏像〜福島県仏像図説〜


福 島県立博物館

H9

1300

福 島の仏像〜平安時代〜

若 林繁

歴 史春秋出版社
歴春ふくしま文庫75

H14

1200

会 津の美術

梅 宮茂

浪 速屋書店刊

S49

非 売品

勝 常寺

佐 藤昭夫

中 央公論美術出版
美術文化シリーズ86

S51

400

立 木千手観音〜金塔山恵隆寺


恵 隆寺


500

大 蔵寺の仏像〜東北の一木彫像〜
〈福島県立博物館調査報告第24集〉


福 島県立博物館

H5

1500

 

 


       

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