埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第三十八回)
第十話 地方佛〜その魅力にふれる本〜
《その2》各地の地方佛ガイドあれこれ 【全国編・東北編】
【10−1】
全国各地の地方佛ガイドあれこれ
さて、こんどは、どこの「地方佛探訪」に出かけてみようか?
まだまだ、一度訪れたいとは思いながら、拝したことのない地方佛も沢山あるし、知らない仏像もまた山ほどある。
そういえば、今月も、同好のSさんは、丹後宮津へ出かけて、成相寺・聖観世音の秘仏ご開帳と金剛心院・宝生如来、正印寺・薬師如来などを拝しに行くと張
り切っていたし、Yさんは、岡山方面へ、高野神社・随身像、明王寺・聖観音を拝しに、日帰りで出かけると言っていた。
ぼくは、どちらの仏像も、いつかの探訪候補として押さえてはいるのだが、まだ拝したことがない。
「一緒にどうか?」と誘われもするが、「そこまでヒマも体力も、○○の余裕もありませんよ」と、残念ながら辞退。
それにしても、「地方佛好きの人達」は、私も少々あきれ果てるほどに、大変なエネルギーと執着心で、目指す地方佛探訪に、これでもかと出かけていく。
地方佛の世界には、それだけ、心惹きつける不思議な魅力と魔力があるんだろう。
さて、地方佛を、押さえどころの仏像をはずさずに、抜かりなく探訪するには、どんな本にあたれば、観るべき仏像をチェックしたり、どのような仏像か知ることが出来るだろうか?
ハ全国地方佛探訪の検索・チェックに役立つ本を、ここで紹介したい。
まず、地方佛愛好者なら、いつも、カバンの中に入れて必携していたい、地方佛ガイド本は、
「仏像巡礼事典」 久野健編 (S61) 山川出版社刊
この本は、ポケットにそのまま入るハンディな全国仏像ガイド。
全国の重文級の仏像が都道府県別に網羅され、寺社名・住所・尊像名・材質・像高・制作年代などが列挙され、簡単な解説が付してある。
カバンの中に入れておいて、「ちょっとどうだったっけ」と、調べたり確認するのに格好の本。このサイズの類書は、本書をおいて無い。
「○○地方・県あたりで、めぼしい平安仏はどんなのがあるのだろうか?」と、あたりをつけるのにも最適だし、旅行へ出かける時、「その近くに、見るべき
仏像があるのかな?」「ついでに、立ち寄るべき仏像はないか?」などのチェックには、誠に重宝。
どこかの地方の仏像探訪に、出かけてみようと、観佛候補やスケジュールを考える時は、どうだろうか?
まずは、その地域の「出来の良い平安仏」を中心に、めぼしい仏像をピックアップせねばならない。
押さえどころの仏像を、漏らさずに、上手にピックアップするには、こんな手順で各書にあたっていくことになるだろう。
まず、眼をとおすのは、この本。
「仏像を旅する 全10巻」 西川杏太郎監修 (H1〜3) 至文堂刊
このシリーズは、JRの各本線別に、その地方の仏像と歴史文化を解説・紹介した本。
本書の、行きたい地方の仏像解説のある巻を取り出し、まず読んでみる。
各巻、「○○地方の仏像」と題して、地域別に、その地の仏像の特色と解説が、時代を追って、しっかりと書かれている。重文以上の、見るべき有力仏像はここに、まず間違いなく網羅されている。
寺社の場所の一覧地図も掲載されているので、距離感や、廻るスケジュールの目処をつけるのにも便利。
「仏像解説」の執筆陣は、当地の仏教美術研究者などが中心で、学術レベルも高い。
ただ、網羅的に触れる必要性からか、かなり淡々とした解説文で、面白みには欠けるのが残念。
また、「仏像を旅する」の解説は、仏像1体1体の解説は詳しくないし、写真も小さなものばかりなので、これで探訪先を決めてしまうのは、ちょっと心許ない。
そこで、これを補う、個別の仏像毎の解説・写真集となると、この「2つのシリーズ」ということになるだろう。
「国宝重要文化財 仏教美術(既刊8巻)」奈良国立博物館編 (S47〜55)小学館刊
「仏像集成 全8巻」 久野健編 (S60〜H9) 学生社刊
この二つの全集で、めざす地方・地域の仏像の巻にあたれば、写真も解説もバッチリ掲載されており、また仏像の「出来の良さ加減」や「必見度」も、一目瞭然、大変よくわかる。
地方佛検索用の写真・解説全集本としては、この両全集で必要にして十分。
「仏教美術」のほうは、奈良国立博物館が各地の国宝・重文指定の全仏教美術作品を、地方別に網羅して図版収録、丁寧な解説を付したもの。
序文で、当時の館長・倉田文作は、このように記している。
「・・・写真と調書の図録上梓を企画したのが、この図録である。研究資料とし
ても第一級のものを提供することになり、日本美術史研究に貢献することが少なくないと思う。・・・・・学芸課の専門技官が調書の作成にあたった。したがっ
て最も信頼すべき資料の蒐集であることを、ひそかに誇りとしている。」
まさにそのとおりで、全国地方佛の検索本として最高レベルなのだが、残念なことに、このシリーズ、第8巻迄発行された後、未完のまま途絶してしまった。
即ち、発刊されたのは、北海道・東北、中国、四国、九州のみ、その他の地域については未完で、役に立たない。
また、掲載対象を、国宝・重文に限っているので、県指定以下の仏像で、注目されたり、見どころがある平安前期仏などがあっても、知ることが出来ないのが難点といえば難点。
「仏像集成」は、仏像のみに絞込み、全国を地域別に8巻に分け、写真図版とその解説で構成した、貴重なシリーズ。
見どころのある仏像は、まず、すべて網羅され掲載されているといって過言でない。
序文に、
「国宝、重用文化財に指定されている彫像は無論のこと、都県指定の像や指定外でも今後彫刻史上、重要さを増すと考えられる仏像は、出来るだけ収録することに努めた。」
とあるように、重文以外の「出来の良い像、注目像」が、採り上げられているのが大きな魅力。
例えば、「〈その1〉心惹かれる地方佛の世界」で採り上げた仏像のうち、楊柳寺・楊柳観音・十一面観音、勝尾寺・千手観音、慈光円福院・十一面観音は、重要文化財に指定されていないが、本書にはバッチリ写真・解説が載っている。
執筆陣が、主にそれぞれの地方の大学研究者や博物館学芸員によっているのも、各地の押さえどころの仏像がきちっと網羅されている理由かも知れない。
愛好家なら、是非持っていたい全集だが、今でも古書価が10万円以上するのが、玉にキズ。
ここらあたりで、研究者が書いた本からの観佛候補仏像チェックは、もう十分というところだが、あえて同系列のシリーズ本を付け加えておくと、次の本。
「日本の美術 地方別彫刻シリーズ6冊」 (S59〜60) 至文堂刊
お馴染み、「至文堂・日本の美術」のなかで、刊行されたシリーズ。
〈みちのくの仏像・佐藤昭夫〉〈鎌倉の仏像・田中義恭〉〈若狭丹後の仏像・鷲塚泰光〉〈近江の仏像・西川杏太郎〉〈紀伊寺の仏像・松島健〉〈四国の仏像・田辺三郎助〉で構成されている。
内容濃さでは定評のある本シリーズ、執筆陣を見ても明らかなように、学術レベルの高い解説で、充実したもの。
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