埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第百七十九回)

   第二十九話 近代奈良と古寺・古文化をめぐる話 思いつくまま

〈その6>奈良の仏像盗難ものがたり

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【目次】


はじめに

1. 各地の主な仏像盗難事件

2. 奈良の仏像盗難事件あれこれ

(1) 法隆寺の仏像盗難

・パリで発見された金堂阿弥陀三尊の脇侍金銅仏
・法隆寺の仏像盗難事件をたどって
・法隆寺の仏像盗難についての本

(2) 新薬師寺・香薬師如来像の盗難

・失われた香薬師像を偲んで
・香薬師像盗難事件を振り返る
・その後の香薬師像あれこれ

(3) 東大寺・三月堂の宝冠化仏の盗難事件

・宝冠化仏盗難事件の発生
・宝冠化仏の発見・回収と犯人逮捕
・三月堂宝冠化仏盗難事件についての本

(4) 正倉院宝物の盗難事件

・正倉院の宝物盗難事件について書かれた本

(5) その他の奈良の仏像・文化財盗難事件をたどって



はじめに


「明治の廃仏棄釈の話」、「昭和の戦争疎開の話」と、これまで奈良の仏像の災難の話をたどってきた。

仏像の災難の話の最後に、「奈良の仏像の盗難の話」を採り上げることとしてみたい。

「奈良の仏像の盗難」というと、何が思い浮かぶだろう?

それは、何と言っても、


■東大寺三月堂・不空羂索観音の宝冠化仏の盗難(昭和12年)




三月堂・不空羂索観音宝冠化仏




■新薬師寺・香薬師像の盗難(昭和18年)




新薬師寺・香薬師像



この二つの大盗難事件のことが、皆さんの頭の中に思い浮かぶことと思う。

三月堂・不空羂索観音の宝冠化仏は、盗難後6年半を経て無事戻ってきたが、新薬師寺・香薬師像は盗難に遭ってから杳として行方知れず、もう70年間も発見されていない。

この「奈良の仏像の盗難の話」は、二つの大事件の経緯、顛末などを、振り返ってみることを話の中心にして、さまざまな仏像盗難事件をたどっていくこととしたい。


1.各地の主な仏像盗難事件


奈良の仏像盗難事件に入る前に、
これまで全国各地で起こった「仏像の盗難」事件というものについて、ちょっと振り返ってみたい。

皆さんご存じのとおり、昨今、「仏像の盗難」事件が、新聞記事やニュースを賑わせ、マスコミを騒がせている。
それは、昨年(2012)10月、対馬市の海神神社の銅造如来立像(重要文化財)と、観音寺の銅造・観音菩薩像(県指定文化財)が盗難に遭い、今年(2013)1月に両像が韓国で発見された事件。
犯人は逮捕されたが、肝心の仏像の返還を巡っては何かと物議をかもし、すんなり日本に戻されるという訳には行っていないようだ。

  
対馬 海神神社・如来立像              対馬 観音寺・観音菩薩像


この仏像盗難事件、今後どうなっていくのだろうか?
世間の大注目を浴びている。

「仏像の盗難事件」という話題。

これまでは、あまり注目を浴びなかった、マイナー話題であったのではないだろうか?

しかし、「仏像の盗難」というのは、いつの世にも発生していた事件で、古くは平安・鎌倉時代のころからあったようだ。
明治維新後の近代になってからは、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れる中、多くの社寺の仏像が売られたり廃棄されたりもしたが、盗難に遭った仏像も無数にあったのは間違いない。

そして、昭和に入ってからも、折々、仏像の盗難事件が奈良・京都ばかりではなく、各地で発生している。
平成の近年に至っても、各地で仏像盗難事件が結構な頻度で発生しており、こうしたなかで、話題の対馬の仏像盗難事件もおこってしまった。


過去の「仏像盗難事件」には、どのようなものがあっただろうか?

昭和になってから発生した、主要な「仏像盗難事件」をリストにしてみた。
参考までにご覧いただきたい。

どんな盗難事件が発生していたのかを、きっちりと調べてご紹介してみたい処なのだが、これが、よく判らない。
「仏像盗難事件史」とか「文化財盗難事件史」といったことをまとめた資料や本が、なかなか見当たらないというのが実情。
此の種の事件については、専門的に整理したり、学問的に研究するといったテーマではないので、きちっと整理されたものが無いのは、当然といえば当然なのであろう。

そこで、いろいろな本や資料の「仏像盗難事件」記事を、結構苦労して捜して、私なりにピックアップしてみたのが、このリスト。

ここでは、「国宝・重要文化財指定以上の仏像」に限って、リストアップさせてもらった。
また、リストアップ出来たのは、私が本や資料などで、眼について見つけたものだけなので、ピックアップ漏れなど多々あろうかと思われるが、
「国宝・重文級の仏像盗難事件」の主要例は、これでお判りいただけるのではないかと思う。




私が見つけることのできた、国宝・重要文化財級の「仏像盗難事件」ご覧のとおり。

全部で、30件ピックアップすることができた。
盗難に遭った30件のうち、いまだ行方不明で発見されていない仏像は12件、18件は発見されている。
県指定、市町村指定や、無指定の仏像の盗難はよく判らないが、この何倍も発生しているのは間違いないだろう。

これらの仏像盗難事件の数々、結構、ご存じあったでだろうか?
私は、今回調べてみるまで知らなかった仏像盗難事件がほとんどであった。
有名処の寺や、知られた仏像もあるが、地方の重文指定の仏像が随分盗難の災難に遭っている。

「こんなに数多くの重要文化財仏像が、盗難に遭っているのか!!」

とびっくりされた方もおられるだろうし。

「この程度は、あるのだろうな!」

と、納得された方もおられるだろう。

いずれにせよ、これだけの国宝・重文仏像が盗難に遭い、未だ多くの行方不明の仏像があることは、誠に残念なこと。
今後、こうした盗難事件が発生しないこと、不明仏像の発見が切に望まれるところである。

なお、仏像盗難の歴史や、近年の仏像盗難事件については、当神奈川仏教文化研究所のトピックス【盗難文化財】のコーナーに掲載している。

参考にしていただければと思う。



 


       

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