持物(じもつ)



 如来をはじめ、諸菩薩や天などの諸尊が誓った本誓を、持ち物によって表すとき、これを契印(けいいん)とよび、その持ち物を持物(じもつ)とよぶ。持物は如来の場合はほとんど持たないが、薬師如来と鎌倉時代以降の釈迦如来がもつことがある。したがって持物を執るのは、菩薩や明王・天・神将である。持物の種類は数え切れない程に多いが、その代表的なものは千手観音の持物にみられ、次のように分けられる。法具・武具・楽器・動物・植物・宝物・建物・装身具および日月・雲などの自然現象、その他である。

 法具は僧侶の修業や儀式に用いられる器具である。観音菩薩のもつ水瓶、文殊菩薩の経巻、あるいは聖徳太子の柄香炉(えこうろ)などがこうした類である。水瓶は比丘が日常生活に使用する十八物の一つで、飲用水を入れる浄瓶(じょうへい)と汚れた処で使用する触瓶(しょくへい)がある。観音の浄瓶は霊薬を入れ、栓の代りに蓮華をさすともいわれる。地蔵菩薩が手にする錫杖は、単に杖ともいわれ、比丘十八物の一つである。山林を歩行するときに、蛇や毒虫を避けるための道具である。武具には刀剣・杵・戟・斧・弓矢・輪・索・杖・幡などがある。剣は内心の魔性や煩悩を断ち切る意味をもち、刃先の鋭い利剣と丸味を帯びた宝剣に分けられる。杵は金剛杵(こんごうしょ)ともよばれ敵を摧破する武器で、帝釈天や仁王の持物である。杵は、先端に鋭い刃先があり、その数で独鈷杵(どっこしょ)・三鈷杵・五鈷杵などに分けられ、各々に意味をもつ。仏教のシンボルともされる宝輪は、伝説上の王様、転輪聖王の七宝の一つである。王が戦にでれば常に輪宝が先頭を往き、敵の頭上を旋転して自然に降伏させるといわれる。現実には古代インドの武器で、輪のふちに鋭い刃をつけ、縄をつけて飛ばして敵を倒す武器である。蓮華は仏教のシンボル的な花である。泥の中より生れ、汚れのない花を咲かすため、古くから汚れなき心を象徴する花として尊ばれている。色によって青・紅・自・黄蓮華に分けるほか、満開(開敷−かいふ−蓮華)、半開、蕾(未敷−みふ−蓮華)など咲きかたによっても分けられ、それぞれに意味付けがある。青蓮華は睡蓮の花で文殊菩薩の持物とされ、尖った花弁は文殊の知恵を象徴する。観音菩薩の系統は紅蓮華を持物とすることが多い。観音が右手で、左手の蓮華の蕾をつまむのは、衆生の心を開こうとする姿ともいわれる。宝物の中では如意宝珠が一般的であるが、この珠は摩尼宝珠ともよばれる。自分の思う通りに、もろもろの宝物を降らしてくれるという宝珠であって、このことから衆生の望をかなえてくれる珠、人に幸福や安楽を与えてくれる珠といわれる。如意輪観音や地蔵菩薩の持物である。

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