埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第八十四回)

  第十八話 仏像を科学する本、技法についての本
  〈その1〉  仏像を科学する


 【18−3】

 「古代小金銅仏」 久野健著 (S57) 小学館刊 255P 33000円

 久野健の、長年に亘る古代小金銅仏の調査研究成果の集大成・大著。
 本書の外箱の紹介コピーに次のように記されている。

 「三十六年に及ぶ研究の成果を、ここに集大成。
 北は青森から南は長崎まで、現存する7、8世紀の名品をすべて網羅した鑑賞と研究の決定版。γ線透過撮影写真、及び正面・側面・背面図を駆使し、造像年代を大胆に推定した著者渾身のライフワーク。」

 小金銅仏は、明治以来、古美術愛好家の収集欲の対象となり、その需要を満たすために盛んに模造品が造られた。そのため、古代小金銅仏と模造品の真贋判定が難しく、研究の障害になっている現状がある。
 久野健は、永年にわたるγ線撮影などによる小金銅仏調査の結果を踏まえ、確かに7、8世紀の制作と考えられる遺品を網羅し本書に収録、そのγ線透過撮影写真が掲載されている。
 小金銅仏研究の基礎資料として、誠に貴重な出版。

 「法隆寺献納宝物特別調査概報V〜X 金銅仏1〜6」 東京国立博物館編集発行 (S60〜H2) 【57P〜145P】非売品

 本書は、昭和54年度から実施されている、「法隆寺献納宝物特別調査」において、昭和58〜63年度に実施された「小金銅仏(いわゆる四十八体仏)と付属光背の総合調査」の研究調査概報として発行されたもの。
 各種方面からの詳細な総合調査が行われたが、保存科学的調査については、東京国立文化財研究所の専門家によって、γ線透視撮影調査、蛍光X線分析調査、鉛同位体比測定調査などが実施された。
 蛍光X線分析は、仏像や金属工芸品の諸成分を非破壊により検出する方法。
鉛同位体比測定は、青銅に含まれる鉛の4種の同位体の比率を測定することによりその産地を推定する方法。

 調査概報には、法隆寺伝来の57躯の小金銅仏と39面の付属光背の調査結果が詳述されており、γ線透視撮影も掲載されている。


 「法隆寺献納宝物 金銅仏T」 東京国立博物館編集 (H8) 大塚工藝社刊 【566P】 28000円

 本書は、先に記した「法隆寺献納宝物特別調査」の小金銅仏等研究調査の、研究報告・図録として刊行された大著。
 献納小金銅仏のうち、33躯が採り上げられている。
 続刊「金銅仏・」は、未刊。
 詳細な調査解説、γ線透視写真が掲載されているほか、「献納金銅仏の伝来」(西川新次)、「献納金銅仏の鋳造技法」(西川杏太郎)、「金銅仏の蛍光X線による材質調査」(平尾良光)といった研究論文も収録されている。


 「日本古代金銅仏の研究 薬師寺編」 松山鉄夫著 (H2) 中央公論美術出版社刊 【253P】 22000円

 本書は、昭和31年(1956)、薬師寺金銅薬師三尊修理の際に、国立文化財研究所が行ったγ線透過撮影の結果や、諸調査の結果を元にした、松山の薬師寺諸金銅仏の研究論考の集成。
 薬師寺金銅三尊、東院堂聖観音像の詳細なγ線透過撮影写真や、修理時の仏像内部の写真が豊富に掲載されている。
  松山は両像の制作年代について、従来、東院堂聖観音像は金銅薬師三尊像よりも制作年代が遡るというのが定説化されていたが、自身の様式研究、鋳造技法研究 によれば、制作年代は同時期もしくは逆で、金銅薬師三尊像は和銅年間中心(710〜717頃)、東院堂聖観音像は養老年間(717〜723)の制作ではな いかと論じている。


ここまで、文化財研究所・光学研究班を中心とした仏像の光学的科学研究について記してきたが、それ以外の処でも、こうした取り組みが盛んに行われるようになった。
そのなかでも、代表的なものは、奈良国立博物館の三森正士を中心とする研究と、東京芸大の本間紀男を中心とする乾漆像、塑像の研究である・


 「科学的方法による仏教美術の基礎調査研究」 奈良国立博物館編集 (S57) 【41P】非売品

 本書は、奈良博への寄託品のX線透過撮影を中心とする、調査成果の報告書。
 科学研究費補助金の研究調査結果報告として刊行されたもので、仏像彫刻については三森正士が執筆している。
 法隆寺伝法堂西の間阿弥陀三尊、額安寺・能満寺の虚空蔵菩薩像など19体のX線調査結果などを収録。


 「X線による木心乾漆像の研究」 本間紀男著 (S62) 美術出版社刊 【2分冊・994P】 27000円

 本書は、我国に現存する木心乾漆像42体のすべてについて、X線解析によりその構造、技法、材質を実証的に明らかにした本。
各像の調査内容について詳述するとともに、X線透過写真と構造図が掲載されている。
 その内容は、まさに「微にいり細にいり」という言葉そのままに詳細を極め、構 造、技法などが細かく記してある大著。

 著者の本間紀男は、東京芸術大助教授。古代彫刻技法の研究者であるとともに、新制作協会彫刻部会員の彫刻作家で、彫像、仏像の制作作品も数多い。
 実技家による古彫刻の研究のため、実際に復元像が出来るまでに、技法を追求していることに特色がある。
 この研究調査は、昭和52〜56年に、文部省科学研究費補助を得て実施された。
本書は、本間がその成果をまとめ「X線による木心乾漆像の構造・技法・材質の研究」として提出した博士論文を出版したもの。

 

 久野健は、本書に寄稿した序文で、

「本書は近年まれに見る高度な研究書である事にかわりはない。今後、古代彫刻を研究する者は、必ずや本書を一読せずには白鳳・天平・平安初期の彫刻を論ずることは難しいのではないかとさえ私は考えている・・・・」
と記している。

            


       

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