埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第七十三回)
第十六話 中国三大石窟を巡る人々をたどる本 〈その1〉敦煌石窟編
【16−7】 最後に、張大千、常書鴻など、敦煌石窟の保存、調査にささげた人達について書かれた本を紹介して、この稿を終えることとしたい。
「敦煌の夢」王家達著、徳田隆訳 (H12) 竹内書店新社刊 【429P】 1800円
本書は、敦煌文書発見に始まり現代に至るまでの、敦煌を巡る人々を、時代を追って系統的に紹介した文学作品。 張大千や常書鴻など、故郷や家族を捨て、原始人のようなひどい生活に耐え、何年も何年も壁と向かい合い、敦煌の芸術に身をささげた人々について、小説家ならではの物語風の文章で生き生きと描かれている。 中国国内において、日中戦争以降現代に至るまで、敦煌石窟がいかにして守られてきたかを知ることが出来る好著。
「張大千の超絶絵画術」芸術新潮H14年5月号(H14)新潮社刊 【152P】 1400円
芸術新潮の、画家・張大千の特集号。 「真贋両道を極めた未曾有の画人」というサブキャッチがついており、「500年に1人の画家と称される張大千。中国正統を継ぐこの画人は、実は希代の大贋作者でもあった。今も世界の美術館を震撼させる、驚異の画家を本邦初紹介!」と表紙にかかれている。
張大千については、国内外に名を知られる人気画家でありながら、最果ての地「敦煌」に行き、壁画の調査や模写をするなど、破滅に瀕した敦煌芸術を救済に尽くした、「敦煌芸術保存の先駆者」として紹介した。 これは、王家達著「敦煌の夢」をベースに記したのだが、 芸術新潮・特集によれば、この張大千、
「あるときは山賊、修行僧、またあるときはグルメ名プレイボーイ、そして20世紀中国を代表する画人にして、芸術史上最も多彩な贋作者」
と、破格のアーティスト、奇人として取り上げられているから、なんとも面白い。 現実に、フリアギャラリーの「呉中三賢図」、メトロポリタン美術館の伝・董源「渓岸図」をはじめ、多くの美術館が所蔵する中国古画が、張大千の贋作といわれているそうだ。
敦煌壁画の模写に従事したことについても、芸術新潮によれば、
「莫高窟に住み込み洞窟壁画を臨模してすごしたが、贋作のレパートリーを広げ、敦煌から出たとの触れこみで贋作仏画をコレクターに売りつけていたらしい。・・・・壁画を剥がしているところを目撃された大千は、甘粛省参議会から糾弾非難されたことが、生涯唯一の汚点だった」
ということで、何が真実なのやら、なんとも興味深くもあり、面白い。
張大千 「敦煌の風鐸」 常書鴻著、秋岡家栄訳 学習研究社刊 (S57) 【294P】 2400円
「敦煌と私」常書鴻著 サイマル出版会刊 (S61) 【232P】 1800円
「敦煌の風鐸」は、常書鴻自らが執筆した自伝。 生誕からフランス留学、敦煌行きの決意、敦煌での保存調査への血のにじむ苦労などが、著者の思いが滲み出るように綴られている。 是非一度は読んでみたい本。
「敦煌と私」は、国際文化教育交流財団が、昭和58年、常書鴻を日本に招聘し開催した、「石坂記念講演会」の講演記録出版。 「敦煌と私」と題する自伝的講演と、「敦煌芸術について」「危機に瀕する千仏洞〜敦煌保存を訴える」という内容で構成されている。
「美しき敦煌」段文傑著、東山健吾訳 (S61) 潮出版社刊 【213P】 1000円
段文傑もまた、敦煌にその生涯をささげた人である。 段文傑は、若き日、張大千の「敦煌壁画模写展」を見て宗教的感動を覚え、覚醒する。 彼はきっぱりと待遇の良い仕事をやめ、新婚間もない妻に別れを告げ、西域に足を踏み入れる。 1945年、蘭州で常書鴻と出会うが、まさにそのときは、国民政府から敦煌芸術研究所の閉鎖を通告されていたときであった。 そして敦煌芸術研究所の再開と共に、研究所のスタッフとなり、以来50年余敦煌石窟芸術の研究と保存に力を注ぎ、1982年、常書鴻の後を受け、65歳で敦煌文物研究所の所長に就任する。 本書は、段文傑が日本各地で敦煌石窟芸術について、さまざまなテーマで講演したり対談したりしたものを単行本化したもの。 自伝的なものではなく、敦煌石窟芸術の解説や、敦煌の現状についての話しが中心なっている。 了
参 考 第
十六話 中国三大石窟を巡る人々をたどる本 〈その1〉敦煌石窟編
〜関連本リスト〜 書名 | 著者名 | 出版社 | 定価(円) |
敦煌 | 井上靖 | 新潮社 | 250 | 敦煌物語 |
松岡譲 | 講談社 | 700 | 敦煌 |
長沢和俊 | 筑摩書房 | 300 | 敦煌ものがたり |
中野美代子 | 中央公論社 | 680 | 敦煌ものがたり |
東山健吾、松本龍見、野町和嘉 | 新潮社 | 1500 | 「ドラマ敦煌」 |
芸術新潮1988年5月号 | 新潮社 | 1000 | シルクロード発掘秘話 |
ピーター・ホップカーク著、小江慶雄・小林茂訳 | 時事通信社 |
1600 | 大谷探検隊 シルクロード探検 | 長沢和俊編 | 白水社 | 1600 | 大谷探検隊と本多恵隆 |
本多隆成 | 平凡社 | 2400 | 「特集 大谷探検隊」 |
太陽1991年6月号 | 平凡社 | 1000 | 「シルクロードと大谷探検隊」 |
季刊文化遺産11号 | 島根県並河萬里写真財団 | 1500 | 大谷光瑞と西域美術 |
日本の美術No.434 | 臺信祐爾 | 1571 | 仏教東漸 |
龍谷大学350周年記念学術企画出版編集委員会編 | 思文閣 | 5400 | 大谷光瑞 |
杉森久英 | 中央公論社 | 1250 | 天の伽藍 | 津本陽 | 角川書店 | 1800 | 敦煌学五十年 |
神田喜一郎 | 筑摩書房 |
750 | 敦煌学とその周辺 | 藤枝晃 |
ブレーンセンター |
680 | 敦煌千仏洞 | 萩原正三編著 |
シルクロード |
3500 | 敦煌石窟 | 敦煌文物研究所編 |
平凡社 |
9800 | 敦煌三大石窟 莫高窟・西千仏洞・楡林窟 |
東山健吾 | 講談社 | 1700 |
敦煌の美と心 | 李最雄ほか共著 | 雄山閣 | 2500 |
敦煌石窟 美とこころ | 田川純三 | 日本放送協会 | 900 |
美術紀行 敦煌 | 北川桃雄 | 東出版 | 2000 |
敦煌石窟の旅 | 久野健 | 六興出版 | 2300 |
敦煌の旅 | 陳舜臣 | 平凡社 | 1500 |
敦煌の夢 |
王家達著、徳田隆訳 | 竹内書店新社 | 1800 |
「張大千の超絶絵画術」 | 芸術新潮H14年5月号 | 新潮社 | 1400 |
敦煌の風鐸 | 常書鴻著、秋岡家栄訳 | 学習研究社 |
2400 |
敦煌と私 | 常書鴻 | サイマル出版会 | 1800 |
美しき敦煌 | 段文傑著、東山健吾訳 |
潮出版社 | 1000 |
|