埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第四十七回)

  第十二話 地方佛〜その魅力にふれる本〜

《その4》各地の地方佛ガイドあれこれ 【中部編】

 【12-1】

 中部地方というのは、なかなか広い。

 北の国・新潟は、今年(H18)、大変な豪雪だった。
 観測史上始まって以来という3メートル以上の積雪に、交通が遮断された山村もいくつかあるという。
 そんな厳しい自然も、さらりと「仕方が無いねえ」と受け止めて、雪に埋もれて春を待つとか、耐えて忍んでいつかはきっと幸せが・・・・・・・・。
 新潟・越後という土地柄には、こんなイメージが浮かんでくる。

「♪♪ 冬の越後は 涙も凍る・・・・・・         がんばって がんばって つよく生きるのよ 吹雪く北風に 耐えて咲く 母子草 ♪♪」

 小林幸子が歌う「越後絶唱」の、この歌詞が、越後の気候・風土を象徴しているのかもしれない。

 新潟県を代表する仏像の名品といえば、佐渡国分寺の薬師如来像だが、この仏像を拝していても、そんな「新潟の風土の中で生きてきた仏像」という思いがしてくる。
 ドッシリとかズングリという言葉が似合う、ぶ厚い造りの重厚感ある像だが、平安初期の迫力・量感というより、佐渡や越後の、素朴で粘り強く辛抱強いといった気風を、そのまま顕しているようだ。

 

 佐渡国分寺・薬師如来坐像

 

 一方、同じ中部地方といっても、南に眼を転ずれば、黒潮洗う伊豆半島。

 南の国・伊豆の平安仏の優品は、南禅寺の薬師如来像をはじめとする仏像群。
 「明るく伸びやか、素朴で穏やかな頼もしさ、ほのぼのとした温かみ」
 こんな形容が、ピッタリ似合う仏像達である。
 薬師如来像は、豊かな塊量感・どっしりした重量感に平安前期の残り香を感じるが、厳しい緊張感・迫力というのではなく、「心広き、穏やかなやさしさ」を感じさせる。
 伊豆という、明るく温暖な土地・風土の中で生まれてきた仏像だなーと思う。

 

「♪♪さよならも 言えず 泣いている 私の踊子よ ああ 船が出る
 天城峠で 会うた日は 絵のように あでやかな・・・・・・・・♪♪」

 伊豆の踊り子を歌った、三浦洸一「踊り子」の一節
 〜あまりにも古いナツメロですみません〜。
 南禅寺の薬師如来を観ていると、薬師様は、こんなほのぼのとした情景を、明るく温かく微笑みながら見守っていたに違いない、そんな気がしてくる。

 

南禅寺・薬師如来坐像

 

南禅寺・二天像

 

 こんなふうに観ていくと、同じ中部地方の仏像でも、あまりにもその個性・風土性が違う。
 若狭小浜あたりまで眼を拡げると、地方色というよりは「都のみやびを受け継いだ仏像たち」が待っている。

 やはり中部地方は広すぎて、「中部の仏像」といった括りで論じたり、イメージしたりするのは、なかなか難しい。
 東北は「みちのくの風土の色を写した仏像」、関東は「東国武士を生んだ気風を育んだ土地の仏像」という感性で受け止められるのだが・・・・・・・・・・。

 

 そうしたことからか、地方佛の本を見てみても、中部地方の仏像全般という括りで出版された本はあまり無いが、つぎの3冊を紹介しておきたい。

 「中部の古寺巡礼」氏平裕明著 (S60) 芸艸堂刊 【278P】

 中部9県のうち、新潟県をのぞく8県の古寺、45ヶ寺の紀行解説。
 先に採り上げた「東国の古寺巡礼」の姉妹編で、寺史・建築・仏像について、満遍なく触れられている。

 「地方の仏たち」丸山尚一著 (H7) 中日新聞社刊 【245P】

 本書は、丸山尚一が中日新聞に「地方の仏たち」という連載を、20年に亘り週一回・1千回を超えて執筆したなかから、中部日本編として出版されたもの。
 新潟・福井・山梨を除き三重を加えた7県、125ヶ寺の地方古仏が採り上げられている。
 その地の風景・風土の中に生きる仏の姿を追った本。

 「仏像めぐりの旅 6 信越・北陸」毎日新聞社編 (H5) 毎日新聞社刊 【194P】

 このシリーズは、全6巻のうち5巻は、鎌倉・奈良・京都の仏像めぐりという内容だが、何故だか、第6巻だけは信越・北陸の地方佛を採り上げている。
 長野、新潟、富山、石川4県の重要文化財の仏像、が掲載されている。
 いわゆるガイドブック的な解説書だが、拝観の可否・要領、連絡先などが載っているのが便利。

 

 


      

inserted by FC2 system