埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第四十五回)

  第十一話 地方佛〜その魅力にふれる本〜

《その3》各地の地方佛ガイドあれこれ 【関東編】

 

 【11-3】

 【神奈川の仏像】

 関東地方の中でも、神奈川には、数多くの古仏が遺されている。
 鎌倉には、高徳院大仏を代表格に数々の仏像があるし、そのほかの地域にも平安仏の優品が結構ある。

 仏像についての本を見ても、「神奈川の仏像の本」は鎌倉の仏像をはじめとして、いろいろな本が多く出版されている。
 なかでも、「神奈川県の仏像についての本の決定版」とも云うべき充実したものは、この本。

 「神奈川縣文化財圖鑑 彫刻編」 (S50) 神奈川県教育委員会刊 【図版151P・本文175P】

 本書は、文化財保護条例施行15周年記念事業として「建築物編、工芸編、無形文化財・民俗資料編」と共に、全4巻で発刊された。
 県指定以上の仏像百余体が掲載されている。
 写真図版もシャープで立派なものだが、それにも増して解説文が学術レベルの高い充実したもの。研究調査結果などを踏まえた詳細な解説が175頁にも及び、追随を許さぬ内容となっている。
 執筆陣も、倉田文作、西川杏太郎、田辺三郎助、田中義恭、鷲塚泰光、松島健、佐藤昭夫、清水真澄と当代一流。
 絶対の必携本と言いたいところだが、奈良六大寺大観並みの大きさの大冊で、あまりに嵩高いのが難。

 ここで、この本の冒頭のカラー図版ページを開いてみて、神奈川を代表する仏像を見てみたい。
 第一ページは別格の鎌倉大仏。
 その次には、平安初期の迫力みなぎる箱根神社万巻上人像、鉈彫りの日向薬師三尊像、弘明寺観音像と続く。
 この後は、金剛寺阿弥陀如来像、運慶作の浄楽寺阿弥陀如来像、満願寺菩薩・地蔵立像、円応寺初江王像、鶴岡八幡弁財天像、称名寺弥勒菩薩像、浄光明寺阿弥陀如来像、東慶寺聖観音像などとなる。
 このあたりが、本書が見るところの「神奈川の仏像の優品」ということになるのだろうか。

 この他、平安古仏としては、王福寺薬師如来像、影向寺薬師三尊像、証菩提寺阿弥陀三尊像などが掲載されている。

 

箱根神社・万巻上人像         金剛寺・阿弥陀如来坐像

 

 

浄楽寺・阿弥陀如来坐像           王福寺・薬師如来坐像

 

 神奈川の仏像全般についてかかれた本は、この他に次のようなものがある。

 「神奈川の彫刻」(S52) 神奈川県立博物館開館10周年特別展図録 【133P】

 昭和52年秋「100躰の仏像を観る〜神奈川の彫刻」と題する仏像展が開催された。
 私も出かけてみたが、箱根神社万巻上人、王福寺薬師、金剛寺阿弥陀、証菩提寺阿弥陀三尊、辻薬師、満願寺地蔵、鶴岡八幡弁財天などの優品が出品されたほか、普段拝観しにくい弘明寺十一面観音、影向寺薬師三尊、能満寺聖観音、浄楽寺阿弥陀三尊も出品されていた。
 神奈川の仏像展としては、よくぞ集めたという圧巻の展覧会であった。

 この図録は、出品が叶わなかった名品も併せ掲載されており、神奈川の主要な仏像の図録解説になっているのも、大変重宝。

 「仏像を旅する〜東海道線〜」清水真澄編 (H2) 至文堂刊 【279P】

 「神奈川県の仏像」という章があり、約30頁の「相模の仏像〜湘南・箱根の古仏」(薄井和男)と題する解説他が掲載されている。

 「かながわの文化財めぐり」(S50)  神奈川県教育委員会刊 【118P】
 「ふるさとの文化財 絵画・彫刻・書跡編」(S59) 神奈川県教育委員会刊 【202P】

 「仏さまのお姿拝観」園田敏男著 (S50) 有隣堂刊 【245P】

 本書は、園田敏男の遺稿集として出版された本。
 著者は、東京、奈良の両博物館に勤務後、横浜国立大講師、神奈川県文化財専門委員を務めた仁。
 有燐堂PR誌「有隣」掲載の「かながわ文化財めぐり」を中心にまとめられた本で、小文ながら50余体の仏像解説が、判り易く綴られている。

 「古仏微笑 かながわの仏像」湯川晃敏写真・山田泰弘文 (S60) 朝日新聞社刊 【171P】 

 朝日新聞に5年間連載された「かながわの仏像」を再構成したもの。
 著者は、鎌倉国宝館学芸員だが、「あとがき」によると、県内仏像600件・1000体のリストを作り、新聞企画で200体を取材掲載、うち80体を厳選して出版したのが本書という。

 写真は、鎌倉仏の写真家として知られる、湯川晃敏。
 シャープで切れの良い映像が、仏像の魅力を際立たせている。
 かながわの「知られざる仏像」とその魅力を、知ることができる好著。

 「かながわの平安仏」清水真澄著 (S61) 神奈川合同出版刊(かもめ文庫) 【286P】

 本書は、神奈川県に存する平安仏100余体の全てを採りあげ、地域別に写真と綿密な解説を付した本。
 著者、清水真澄は「鎌倉大仏」「鎌倉の仏像文化」「中世彫刻史の研究」などの著作がある美術史学者。
 神奈川県博時代の平安仏調査研究成果をまとめたのがこの本。
 本書序文などで、このように語っている。
 「これまで行ってきた仏像の調査を通して、神奈川県内にある平安時代の仏像を、保福寺の十一面観音像をはじめ100体余り知ることができた。・・・・

 神奈川県は鎌倉をひかえて、鎌倉時代以降の仏像研究は早くから進み、これまでに多くの論考が発表されている。また鎌倉関係の社寺や仏像の出版物も多い。ところが、平安時代の神奈川の姿はほとんど明らかでなく、まとまった著作もない。この小冊子はこれまで欠けていた大きな部分を補う意味でまとめたものである。」

 まさにその通りで、「神奈川に平安古仏が100体以上もあったのか!」と、私自身大きな驚きであった。
 新たに確認された平安仏も、多く掲載されており、レベルの高い充実した解説で、神奈川の平安仏を網羅した大変貴重な本。
 どうして、こんな内容の本が「文庫本」で出版されたんだろうか?
 本来なら高価な研究書として出版されるべき本なのにと、不思議に思うが、安価に入手でき大変有難い。

 「神奈川の金銅仏〜銅・鉄の仏たち〜」(S63) 神奈川県立博物館刊 【121P】

 昭和63年に開催された特別展の図録。
 県内唯一の古代金銅仏・松蔭寺阿弥陀坐像をはじめ、43体の県内金銅仏・鉄仏が展示されたそうだ。

 

保福寺・十一面観音立像       影向寺・薬師如来坐像    

  

 


      

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