埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第十六回)

  第五話 近代日本の仏教美術のコレクターたちの本《その2》(4/5)

《その2》  我が国のコレクターたちをたどって

 

 2.近代数寄者列伝と美術品移動史についての本

 これまで、国宝仏画仏像を所蔵した8人のコレクターたちの足跡と蒐集エピソードを振り返る本をたどってきた。
 私にとっては、下手なドラマや小説よりも余程面白く、興味をそそられる。
 彼らのほかにも、数多くの古美術蒐集家がいたことは云うまでもないが、その一人一人を振り返る余裕も、蓄積もない。
 ここでは先を急ぎ、我が国近代の主だった古美術品コレクター達や古美術名品の変転などについて、列伝、移動史的に書かれた本を紹介するに留めたい。

 

 〈数寄者列伝を知る本〉

 所謂、数寄者と称された人たち、明治来の名立たる茶人、古美術品コレクターを列伝的に紹介した主なる本は次のとおり。

 「近代数寄者太平記」原田伴彦著(S46)淡交社刊
 「美術話題史〜近代の数寄者たち〜」松田延夫著(S61)読売新聞社刊

 ムック、図版本的なものとしては
 「近代の数寄者」淡交別冊愛蔵版(H10)淡交社刊
 「101人の古美術」別冊太陽100号青柳恵介構成・文(H10)平凡社刊
 「数寄者を訪ねる」青柳恵介著(H9)双葉社刊
 いずれの本も、豊富な図版でそのコレクションを紹介するほか、主だった数寄者コレクターの略伝や蒐集エピソードなどが掲載されており、気楽に愉しくその足跡を知ることが出来る。

 

 〈古美術品移動とエピソードを知る本〉

 古美術品の売買、コレクター同志の遣り取りのエピソードや、美術品売立てについて書いた本。
いくつかあるけれども、どうしても何々名物と呼ばれる茶碗、茶入れなどの茶道具、掛物についての話が多く、仏像仏画についてはそう多くは語られていない。
 そうはいっても、此の種の話、なかなかドキュメンタリータッチで面白く、人間の物欲、蒐集への執念が滲み出てきて、読んでいて興味は尽きない。

 ここでは、代表的な古美術品移動史の本を紹介しておきたい。

 「近世道具移動史」箒庵・高橋義男著(H2復刻)有明書房刊[元版S4慶文堂刊]

 明治以降の古美術道具の蒐集物語、移動をまとめた本の定番といえる一冊。
 読み物としてもなかなか面白い。
 著者、高橋箒庵は明治15年慶応義塾を出て、時事新報社に入社。欧米留学の後24年三井銀行に入り、実業家として三井系各社を回り、44年に実業界を51歳で引退。
 鈍翁、三渓等数寄者の仲間入りして、スポークスマン的役割を果たした。茶会記を新聞に掲載、「東都茶会記」以下23冊の茶会記を出版するほか、超豪華図録「大正名器鑑」を著した文化人。

 同種の本には、以下のものがある

 「骨董太平記(上中下)」渡邊源三著(S6)太陽出版社刊

 著者が大阪時事新報に連載した、読み物仕立の長編、古美術道具物語。

「骨董価値考〜大名・旧財閥の売立に見る〜」光芸出版編集部編(S54)光芸出版刊
 明治大正昭和の古美術品売立ての主要な品と落札価の記録。

 「書画骨董回顧五十年」斎藤利助著(S32)四季社刊
 古美術商「平山堂」主で、東京美術倶楽部社長を長く勤めた著者の回顧物語。明治以降の重要な出来事が、よく纏められている。

 「東京美術市場史」東美研究所編(S54)東京美術倶楽部刊
 明治44年創立の東京美術倶楽部での、売立品を網羅。近代美術品の売立、売買史の詳細全資料ともいうべき大著。掲載の瀬木慎一著『東京美術市場の歩み』も充実した内容。

 この章の締めくくりには、「この本を読めば全てがよくわかる」一冊を紹介したい。

 「美術品移動史〜近代日本のコレクターたち〜」田中日佐夫著(S58)日本経済新聞社刊

 本書は、芸術新潮に60回にわたり連載された「戦後美術品移動史」を全面的に加筆、まとめ直された労作。
 本書の帯には「名宝の流転と収集の歴史、日本の有名美術コレクション成立とその劇的変遷を辿る、回想録・文献・当事者の談を広範に盛り込んだドキュメント」と記されている。
 益田鈍翁を皮切りに、三十数名の名立たるコレクターが次々取り上げられ、近代日本の美術コレクター達の足跡と、美術品移動と逸話が丹念に描かれており、ここまで、私が紹介してきた話の多くが書中語られている。
 活き活きと綴られた語り口は、惹き込まれる様に読ませる。是非とも、じっくり読んでみたい必読必携の書。

      

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