埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第百三十九回)

  第二十四話 近代奈良と古寺・古文化をめぐる話 思いつくまま
  
  〈その1〉  法隆寺の大御所 北畠治房



【目次】


はじめに

1.法隆寺の大御所〜雷親爺〜

2.喜田貞吉、薄田泣菫の描いた北畠冶房

3.北畠冶房の生い立ち、略伝

4.近代法隆寺と北畠冶房

(1)法隆寺宝物の皇室献納
(2)百万塔の売却
(3)若草伽藍址塔心礎の寺外流出と返還
(4)法隆寺二寺説のルーツ

5.北畠冶房について採り上げた本




   5.    北畠冶房について採り上げた本

 法隆寺の大御所、北畠冶房にまつわる話も、そろそろ終幕としたい。
最後に、北畠冶房について書かれた本について、紹介しておこう。
 ここまで紹介した本以外で、北畠のことについてしっかり書かれた本は、次のとおり。

「新編 わたしの法隆寺」 直木孝次郎著 (H6) 塙書房刊 【250P】 1200円

 歴史学者・直木孝次郎の法隆寺に関する随筆集。
 法隆寺の思い出話、文人のエピソードなどがふんだんに盛り込まれた肩のこらない法隆寺随筆、
 古代史学者の豊かな見識と南都法隆寺への愛着・愛情にあふれた本で、一読お勧め一押しの本。
 北畠冶房については、「薄田泣菫と斑鳩」という章に書かれている。
 泣菫が北畠冶房と交遊があり、北畠が登場する随筆を数編書いていることから、北畠についての回想随筆のような形でまとめられている。
 北畠についての項立ては、「北畠男爵と喜田貞吉の出会い」「北畠男爵とはいかなる人か?」「法隆寺二寺説と北畠冶房」「泣菫と北畠老人」「北畠老人の博識と泣菫の晩年」となっており、約20ページにわたって綴られている。
 北畠の人物像やエピソードについて、これほどしっかりまとめられたものは、他には無い。
 軽妙で愉しい文章で惹き込まれるように読ませる。
この「法隆寺の大御所・北畠冶房」の文章で、大いに参考にし、数多く引用させてもらったのも本書。

「法隆寺日記をひらく〜廃仏毀釈から100年〜」 高田良信著 (S61) 日本放送協会刊 【215P】 750

 法隆寺の日々の出来事が綴られた「法隆寺日記」を舞台回しに、近代法隆寺史を一般にわかりやすく説き起こした本。読み物風で楽しく読める。
  明治以降の法隆寺の事を知るには、一押し必読本。
 「宝物献納」「百万塔売却」「若草伽藍礎石の返還」などの出来事が書かれた項に、北畠が登場する。

 


「法隆寺の横顔」 釋瓢斎著 (S17) 斑鳩郷舎出版部刊 【139P】 1.7円

 本書の著者は、本名「永田栄蔵」。大阪朝日新聞の天声人語を担当、毒舌家といわれた仁。
 足立康の新非再建論が発表され、白熱していた法隆寺論争への批評随筆本とも言える本で、誠に面白く読める。
 畠の人物像、法隆寺二寺説や、返還若草伽藍心礎と北畠の係わり合いなどについてもふれられている。


 「まぼろばの僧 法隆寺・佐伯定胤」 太田信隆著 (S51) 春秋社刊 【225P】 1300円

 本書は、法隆寺の近現代史に、佐伯定胤の生涯を重ね合わせ物語風に綴った本。
信仰と信念の人、佐伯定胤(慶応3年1867〜昭和27年1952)を活写している。
 「再建非再建論争」という章に、「雷おやじ」「巨石のなぞ」という項が設けられ、北畠冶房という人物について、歯に衣着せぬ率直さで活写されている。

 


「斑鳩雑記」 佐伯啓造編 (S15) 鵤故郷舎刊 【354P】 3円

 本書は研究誌「伊可留我叢書」巻1〜6までを、改定合本したもの。
各界研究者の論考が所収されている。
 巻末に、編集者・佐伯啓造の「斑鳩の偉人北畠冶房男の逸話」と題する小文が収録されている。
 ここでも、男爵の傲岸不遜、雷親爺たる人物像が描かれている。
 加えて、明治二十年代、関西本線が開通する際の法隆寺駅の位置についての論議のエピソードも添えられている。
 北畠は、ただ一人が伽藍に近い松並木付近を主張したが、煤煙による農作物被害等から反対意見が続出、現在地に設置された。
 現在の不便さを思うに、北畠の方に先見の明があったと回顧している。


 法隆寺の大御所といわれた北畠冶房について、その人物像やかかわった出来事などについて、小文で紹介してみようと思ったが、思いのほか長く書くことになってしまった。

 やはり、北畠という人物は、近代法隆寺の歴史を語るとき、切っても切れない存在であったし、またその特異なキャラクターは、誰の記憶にも深く刻まれたということなのであろうか。
 それ故か、ついつい長い文になってしまった。

 そしてまた、傲岸不遜で胡散臭さをにおわせながらも、法隆寺を最も思い、心より愛していたのが、北畠冶房であったのだろう。



 参  考
  第 二十四話 近代奈良と古寺・古文化をめぐる話 思いつくまま
  〈その1〉  法隆寺の大御所 北畠治房

〜関連本リスト〜

書名
著者名
出版社
発行年
定価(円)
喜田貞吉著作集14〜60年の回顧・日誌〜 喜田貞吉
平凡社
S57
6400
泣菫随筆〜「中宮寺の春」を収録
薄田泣菫
富山房
H5
1100
薄田泣菫全集 第7巻
薄田泣菫
創元社
S14
2.8
斑鳩町史
斑鳩町史編纂委員会
斑鳩町役場
S38

大和百年の歩み 社会人物編

大和タイムス社
S47
4000
近代法隆寺の祖 千早定朝管主の生涯
高田良信
法隆寺
H10

追跡!法隆寺の秘宝
高田良信・堀田謹吾
徳間書店
H2
1800
伊珂留我 法隆寺昭和資材帳調査概報11〜特別報告 若草の礎石について:高田良信
法隆寺昭和資材帳編纂所
小学館
H1
1240
法隆寺再建非再建論争史
足立康
龍吟社
S16
3.8
新編 わたしの法隆寺
直木孝次郎
塙書房
H6
1200
法隆寺日記をひらく〜廃仏毀釈から100年
高田良信
日本放送協会
S61
750
法隆寺の横顔
釋瓢斎
斑鳩郷舎出版部
S17
1.7
まぼろばの僧 法隆寺・佐伯定胤
太田信隆
春秋社
S51
1300
斑鳩雑記
佐伯啓造
鵤故郷舎
S15
3


 


       

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