埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第百三十一回)

  第二十三話 仏像を科学する本、技法についての本
  〈その6〉  仏像の素材と技法〜石で造られた仏像編〜


 石仏の素材と技法についての本

 最後に、石仏について書かれた本を紹介したい。

 石仏について、しっかり書かれた本は、意外に少ない。
 「日本の石仏」といった総括的なテーマの本はそれなりにあるが、その技法や素材といった点に踏み込んだテーマで書かれた本は、ほとんどない。
 それは、最初にふれたように、石仏や石造美術という分野が、日本彫刻史の研究分野として主流ではなかったことによるものであろう。
 これから紹介する本も、石仏についての総括的な本ばかりになりそうだが、その中でも、出来るだけ石彫技術や素材(石材)について、採り上げたものを紹介していきたいと思う。


「日本の石仏」 久野健著 (S50) 小学館刊(日本の美術36) 【221P】 750円

 この本は、小学館の「日本の美術シリーズ」の一冊として出された、石仏の概説本だが、大変わかりやすい解説書。
 「日本の石仏の流れ」という解説は、石仏の時代による変遷を三つの期に区分し、磨崖仏の時代、花崗岩石仏の時代の到来とその要因について、わかりやすく書かれている。
 この「石仏の素材と技法」の話も、この久野の時代区分の考え方をベースに書かせてもらった。
 石仏の彫刻史を理解するための最適本。


「日本の石仏」 谷口鉄雄著 (S33) 朝日新聞社刊 【223P】 2500円

 日本石仏彫刻史について、その骨格をしっかり理解するには、一番良い本だと思う。
 この本の解説を読むと、石仏彫刻史の時代的推移だけでなく、形式や技法の変遷、石仏の作者についての考察などを、きっちりと理解することが出来る。
 特に、凝灰岩と花崗岩の石材としての特徴・性質と、磨崖仏の時代、花崗岩石仏の時代の到来の因果関係の話や、木仏師の活躍から石工へと、石仏彫刻の主役が変遷していった事由などを論じたところなどは、惹き込まれる様に読ませる。
 解説の項立ては、「石仏の研究、社会的背景、宗教的背景、形式と技法の変遷、石仏の作者」となっており、それぞれに興味深い。
 本稿を綴るのにも、大いに参考にさせてもらったし、沢山の引用もさせてもらった。
 日本石仏彫刻史について、体系的に理解したい人にとっての必読本。


「石仏」 清水俊明著 (S54) 講談社刊 【198P】 390円

 宋からの渡来石工、伊行末とその一派のことを、詳しく知ることができる、お薦め本。
 新書本(講談社現代新書)ではあるが、石仏の歴史と魅力について、しっかり踏み込みながらもわかりやすく書かれた好著。
 「石仏を彫る」という章が設けられており、伊行末と一派の事蹟や遺品について、26頁に亘って大変詳しく語られている。
 項立てを紹介すると、
「宋石工・伊行末〜伊行末の来日、伊行末その後、石造美術復興の恩人〜」
「伊派の石工たち〜伊行末から伊末行へ、伊行経の活躍、木彫仏に劣らぬ優美さ〜」
 などと、なっている。
 誠に興味深い内容。

 清水俊明は、伊行末一派の鎌倉石造美術に残した意義の大きさを、このように熱い思いをこめて語っている。
「彼らは、はじめ彫刻に適さない硬質の花崗岩を、その後自由にこなすようになり、見事な厚肉彫りの石仏を造るまでに発達させた。
 そのことにより、わが国の石造美術が、この時代に飛躍的に進み、数々の名作を生み出すことになったのである。
 伊行末こそ、わが国中世の石造美術の復興の恩人であり、その後に作られる庶民的な石仏群の造顕の土台ともなっている。
 わが国の土となった伊行末の霊も、さぞ安らかに眠っていることであろう。」


「日本の石仏 200選」 中敦志著 (H13) 東方出版刊 2800円

 日本の主要石仏を200選んで、写真と丁寧な解説を付した本。
 この本の特筆すべきところは、巻末の都道府県別石仏リストに、それぞれの石仏の「石材」に種類が、ほとんど書かれていること。
 この石仏は砂岩か、凝灰岩か、花崗岩か、といった疑問がすべて解決することが出来る。
 さらに、この巻末リストには、所在地、制作年代、金石文、文献資料検索データ(どの文献に採り上げられているか)の記載が、網羅されている。
 制作年代などは、文献別の各説、異論も全て記載されている。
 石仏の、いろいろなデータのインデックス本として、大変重宝な本。
 著者は、アマチュアの写真家で30年来、石造美術に関心を持ち続ける石仏愛好家。


「新装版 日本石造美術辞典」 川勝政太郎著 (H10) 東京堂出版刊 【369P】 3150円

 石で造られた遺品1000余と、石造美術に関する用語800を解説した辞典。
 日本全国に散在する塔、板碑、石仏、石橋、狛犬、石臼、石壇などの石造美術品を、網羅している。
 すべての石造物の石材の種類が記載されており、検索に便利。
 著者、川勝政太郎は、石造美術研究の第一人者であった仁。


「石造美術 日本の美術45」 小野勝年編 (S45) 至文堂刊 【106P】 590円
「石仏 日本の美術147」 鷲塚泰光編 (S53) 至文堂刊 【98P】 980円

 共に、おなじみ至文堂日本の美術史リーズの一冊。
 石造美術、石仏の時代的変遷と主要な作例について、しっかりと纏められた本。

 


「石仏と石塔」 石井進・水藤真監修 (H13) 山川出版社刊 【114P】 1600円

 文化財探訪シリーズの一冊として出た本。
 石仏と石塔の概説書だが、「石工と石材」「石仏の彫刻技法」という項立てがなされているところが面白い。


「仏教芸術30 特集日本の石仏」 仏教芸術学会編 (S32) 毎日新聞社刊 【114P】 300円

仏教美術研究誌、仏教芸術の「日本の石仏」特集版。
 9編の石仏研究論考が収録されている。
 それぞれ力の入った論考だが、その中でも、川勝政太郎の「日本石仏の性格〜特に材質と彫成手法を中心として〜」が、興味深い。

 

「石に聴く 石を彫る」 関敏著 (H12) 里文出版刊 【157P】 2000円

 著者は、石彫芸術作家。
 本書は、石の文化と歴史の概説や、著者の石彫作品制作の回顧と解説などで構成されている。
 最終章が、「石彫入門」という表題で、石を彫る、切る、磨く、といった石彫の技術、技法について丁寧な解説がある。
 石彫の技術や、ハンマー、鑿、電動カッターなどの工作道具についても解説があり、石彫の技術について理解するのに、役立つ内容となっている。


 このほかにも、日本の石仏や、臼杵石仏、奈良京都の石仏など、各地の石仏について書かれた本や写真集は、数多く出版されており、採り上げていくときりがない。
 ここでは、「素材と技法」の理解に参考となる、以上の本の紹介に留めておきたい。



 本当に長々と書き綴ってきた「仏像の素材と技法の話」も、やっとのことで、これでおしまい。
自分自身の勉強のつもりで書いてみたのだが、少々マニアックな世界に這入り込み過ぎてしまった。
 「こんな話が、まだ続くのか!」と、皆さん、読み疲れたというのが本音ではないだろうか。
 辛抱して、お付き合いいただいた方々に、心より感謝申し上げる次第。

 次回からは、仏像一直線の世界から少々離れて、肩のこらない愉しい話にしてみたいと思っています。
懲りずにお付き合い、よろしくお願いします。



 参  考
  第 二十三話 仏像を科学する技法についての本

〈その7〉仏像の素材と技法〜石で造られた仏像編〜
〜関連本リスト〜

書名
著者名
出版社
発行年
定価(円)
渡来仏の旅 久野健 日本経済出版社 S56 980

特集・話題の磨崖仏を探る

〜目の眼19926月号〜

里文出版 H4 780
有帆菩提寺山磨崖仏〜有帆菩提寺山磨崖仏調査委員会報告書 有帆菩提寺山磨崖仏調査委員会 山陽小野田市教育委員会 H20
日本の石仏〜日本の美術36 久野健 小学館 S50 750
日本の石仏 谷口鉄雄 朝日新聞社 S33 2500
新装版 日本石造美術辞典 川勝政太郎 東京堂出版 H10 3150
石造美術〜日本の美術45 小野勝年編 至文堂 S45 590
石仏〜日本の美術147 鷲塚泰光編 至文堂 S53 980
石仏と石塔

石井進・水藤真監修

山川出版社 H13 1600
仏教芸術30〜特集日本の石仏〜  仏教芸術学会編 毎日新聞社 S32 300
石に聴く 石を彫る 関敏 里文出版 H12 2000

 


       

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