貞観の息吹き 
高見 徹

27.  清水寺 十一面観音立像(岐阜県加茂郡富加町) 


 清水寺は、寺伝によれば、大同3年(808)蝦夷征伐で知られる坂上田村麻呂が開いたと伝える。

 県道沿いに駐車場があり、ここから山に向かう参道を進むと楼門がある。楼門は入母屋造りの二層の正面に唐破風をつけた珍しいものだ。門の左右には持国天・増長天像を安置しており、二天門と呼ばれている。
 二天門をくぐると清流沿いに結構長い石段が続き、登り切ったところに城郭風の石垣が築かれ、鐘楼と本堂、社務所が並んでいる。
 現在は、無住となっているが、町の人々が共同してお守りしているという。

  十一面観音坐像は本堂の裏手の収蔵庫に安置されている。十一面観音像の坐像は珍しく、重要文化財に指定されているものも数体しかないが、その多くが右手を 膝に、左手に華瓶を執る姿をしており、この像のその例にもれない。但し、本像の場合、華瓶を失っており、蕾をつけた蓮の枝を執る。
 肩幅や胸に厚みを持ち、腰を細く絞り全体的に穏やかな像であるが、やや華奢な上半身に対し、膝前の張りは広く厚みを持っている。彩色は黒漆の上に朱を置き、その上に金箔を貼っているが、剥落は進んでいるものの当初の彩色や金箔を所々に残している。
 頭頂の化仏も細部は摩滅しているが、当初のもので、素朴な表情が見られる。
  本像は頭胴部を両肩まで含めて一木から彫り出しており、両肘から先を別木とするものの、肘から曲げた指先まで一材で彫り出している。通常は手首から先や指 先などは木の年輪に沿って折れやすいため別木にすることが多いが、一木造の意識を残しているといえよう。また、膝部の衣文は深く明瞭で鎬立っており、翻波 式衣文も見られる。
 台座は八重蓮華座で、吹き寄せ式の蓮弁は薄く、平安時代の優美な柔らかいもので、本像と一具のものと考えられる。
 本尊に並んで安置される地蔵菩薩立像は、小像ながら、漆下地の上に細かな切金が全身に施されている。延命地蔵として信仰が篤く、普段は十一面観音像よりも地蔵菩薩像のお参りの方の方が多いそうだ。

 


 平成元年庫裏から承和5年(838)に書かれた清水寺縁起の写しが発見され、これによると、京都・清水寺の縁起と共に、清水寺開山の延鎮上人が美濃で奇譚を得、坂上田村麻呂の協力でここ清水寺を建立した旨が記されているという。
 このことから、全国清水寺ネットワーク会議に唯一僧職の無い身分で参加し、平成10年には、京都・清水寺の森清範貫主をはじめ数百人の清水寺関係者が来山したという。

  



 


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