貞観の息吹き 
高見 徹

24.  廃白米寺 地蔵菩薩立像(奈良県磯城郡川西町) 


  白米寺はかつては東数百m離れた大和川右岸の高堂八幡神社付近にあったと伝えるが、近世以前に廃寺になったとされ、その際、仏像などは下永八幡神社の収蔵 庫に収められ、石造物は高堂八幡神社に隣接する教願寺に移されたという。教願寺には鎌倉時代末の形式を持ち、金剛四仏を表した宝塔の残片が残されている。
 また、近年高堂八幡神社の近隣で発掘調査がなされ、奈良時代の瓦が出土している。

 当地に伝えられた諸像は下永区の集合所を兼ねた八幡社神の境内の収蔵庫に収められ、地区の人々によって護られている。
 中央に安置される阿弥陀如来坐像は、像高150cmの円満な面相やおだやかな衣文等に正統の定朝様を示す堂々たる半丈六像である。全身に金箔を残し、蓮台は蓮肉と華盤に元の部材を残すなど、当初の姿を伝えている。

  阿弥陀如来坐像の向って右脇に守置される地蔵菩薩像は、クスノキのー木から彫出されたほぼ等身大の像である。宝珠・錫杖・光背・台座・白毫などは後補であ るが、像自体は保存状態も良く補修部分も殆ど無い。大振りの目鼻立ちを持つ厳しい面相や、塊量的なモデリング、深く流れるような衣文は、典型的な平安初期 彫刻の様式を示している。特に下腹部に表わされたY字形の衣文や膝前の翻波式衣文は、奈良・法輪寺や大阪・観心寺の地蔵菩薩像に近く、その流れを汲むもの と思われる。
 しかしながら、衣文の端部はやや丸みを帯びて、凌ぎの鋭さはやや影を潜めており、制作年代はやや降るものと考えられる。

 収蔵庫には、他に小像ながら切金文様の美しい本格的な彫像を残す鎌倉時代の不動明王像も残されており、白米寺の盛期の隆盛を示している。

 明治以前に廃寺になり、流転の歴史を経てきたにも係わらず、金色燦然とした阿弥陀如来坐像や、衣文の彫りも瑞瑞しい地蔵菩薩像などの仏たちを目前にして、これらの諸像を守り続けた先人達の想いを感じざるを得ない。

  



 


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