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(14) 威徳寺と122躰の仏 |
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丹波の山間の町、福知山のこの寺の諸仏を訪ねたのは偶然のことからだった。 丹波と但馬の古寺の仏像をめぐる旅先で、仲間の一人が盲腸になった。普段から控えめな女性ではあるが、新幹線の中から余り喋らず、丹波篠山に到着した時は腹を押さえており、翌日に緊急入院して手術を受けることとなった。 翌朝、調べた地区の管理者に電話。不意の電話で許可を渋っている。関東から来て、今度はいつ来ることができるか分からないこと、お参りが数十年来の念願であったことをクドクドと説明した。しかし鍵は別の人が保管しており、その人の都合が分からない言うのを、ともあれそちらに向かうという事で、強引に拝観を申し入れた。今までの経験から仏様を拝みたいという気持ちは、少々の無理があっても管理する人に通じる筈だ。 |
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観音堂は間口三間、奥行き四・五間、寺というには質素なこの堂の中に、平安の諸像が122躰も安置されていると思うと不思議な気持ちがする。 現在の威徳寺は観音堂に寺名を伝えるだけだが、かつては相当人きな伽藍をもったこの辺りの大寺であったようだ。今では境内がどこにあったかなど、その所在地すらはっきりとしていない。 堂内の仏像群は現在三室に分けられて安置されている。正面奥の内陣に、この堂の本尊千手観音立像と比較的大きな如来坐像や菩薩立像などが安置される。手前左の間には等身大の勢至菩薩立像、四天王など。さらに向かい側の室には100躰はあると思われる小像が、雛壇状にぎっしりと安置されている。 本尊千手観音立像 像高は2mを超す一木造の大きな像である。体躯には幅があり、その肉取りは厚く、威風堂々とした像である。四二臂は両肩で矧付けとしている。ボリュームのある両腿を包んだ裳の雛には、浅く翻波式衣文が刻まれるなど、九世紀頃の様式を伝える古様な像である。しかし頭上の化仏や全体の粗野な彩色は後のもので、特に厚い補彩は馨跡を覆い隠し、木像の威厳を損ねている。大きな鼻梁、分厚く突き出した唇などには、地方的な逞しさが感じられる。この堂の本尊に相応しい像である。 |
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如来坐像 像高136.0cm 一木造 この像は威徳寺の本尊像に比定される。両手首とも後補のため尊名ははっきりしないが、言い伝えでは薬師如来とよんでいる。螺髪を切り付けとした大きな肉髪を頂き、彫眼は伏し目で、小鼻が広がり、突き出した口元には特徴がある。三道を太く刻出し、体躯も幅があり量感がある。衣の処理は大まかではあるが明確な形法で、全体に均衡のとれた11世紀頃の制作と見られる像である。 如来立像 一木造 像高約100cm この寺には朽損仏をはじめ、錠彫りあるいは未完成とも見られる像が多数安置されているが、本像もまた頭部や面相の他、両手首から先を欠失するなど損傷が多い。しかし、原形を良くとどめた中央風の作風をもった完成像で、おそらく11世紀頃に制作された像と見られる。 |
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兜跋毘沙門天立像 一木造 像高 約100cm 内陣向かって左隅手前に毘沙門天、その後ろに兜跋毘沙門天の小像が安置されている。いずれも損傷が激しいが、毘沙門天が踏まえる邪鬼や兜跋毘沙門天の地天女が確認でき、尊名を知ることができる。特にこの堂内には四躰の兜跋毘沙門天像が安置されているが、写真の像は損傷が少ない像で、地天女の左右に配置する毘藍婆・尼藍婆を失う他、鳥冠の前部、鳥の頭と胴部を失ってはいるものの、左右の羽と尾羽が僅かに残り、この像が鳥を彫り出した正楽寺や達身寺、楊柳寺像に共通する鳥冠の兜跋毘沙門天像ということを確認できる。毘沙門天共々11世紀頃に制作されたと見られる。 |
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内陣の手前、向かい合って左右に脇陣がある。左室の前面には各々両肩より肘部を失った等身大の四天王と見られる二躰の武将像をはじめ、その後ろにはこれも等身大の伝勢至菩薩立像、法衣の襟に鉈彫り状に鑿跡を残し、両大腿間の衣文をY字型に刻出した古様の天部形立像が安置されている。これら四躰の像はいずれも一木の像で、足裏に柄があって台座に差し込むようになっている。恐らく11世紀に入ってからの制作と見られる。 |
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こうした122躰もの像の中、等身大の大きな像は、かつて明智光秀に破壊された三六の等々の堂塔の本尊像であったということから、それらの寺から移された像という考えもあるが、その中には未完成品とも見られる像も多いことや、同一系統の仏師の制作と見られる像もあることから、ここには達身寺にもいえるように地方仏師の工房があったという考え方もある。いずれにしても、これだけの像が、いつ誰の手によってこの観音堂に集められたのか、今では歴史の彼方に忘れ去られている。無住でしかも小像の多いことから盗難も多く、すでに十数躰の像が盗難などによって行方不明ということであった。 |
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(威徳寺の寺崎をはじめ諸仏については、仏教芸術六三号に「威徳寺の仏像群」と題した中野玄三氏の詳細な論文があるので、これを中心に参考とさせて項いた) |
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