埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第七十一回)


  第十六話 中国三大石窟を巡る人々をたどる本
〈その1〉敦煌石窟編

 【16−5】

3.敦煌石窟の歴史と美

「♪♪ 月の砂漠を はるばると、  旅の駱駝が  ゆきました。
金と銀との  鞍置いて、  二つならんで ゆきました。」

 敦煌を訪れた人から土産話を聞くと、敦煌の沙漠がはるかに続く景色を眺めていると、この「月の砂漠」の唄が、心に染み入るような気分になるのだそうだ。

 そんな沙漠のなかの敦煌に、石窟寺院・莫高窟が開かれたのは、建元2年(366)のこと。
 沙門楽僔が、この山にいたり一窟を開いたことに始まるといわれる。
 莫高窟の第332窟から出土した「大周李懐譲重修莫高窟仏龕碑」にそのように記されており、異説はあるが、いずれにせよその頃の開窄と見られている。

 敦煌石窟というのは、敦煌の東南18キロの莫高窟、西南30キロの西千仏洞、安西の南75キロの楡林窟の三箇所をさす。
 このうち敦煌石窟を代表するのが莫高窟で、オアシスの南にひろがる砂丘、鳴沙山の東麓に位置している。約1600mの断崖に、600の窟龕が開窄、そのうち壁画や仏像の残っている窟龕には、492の番号がつけられている。
 このあたりの礫岩は石質が粗いことから、石窟内部は壁土の地塗りによって、表面を平らにし白土の化粧がけを施して壁画を描いている。このような石質は彫刻には適していないので、粘土で塑像を造り、それに彩色を施している。
 塑像は合計2415体、大きなものは高さ33mもある。壁画は45000平方メートルに達するともいわれ、それぞれ美しい彩色が今もなお残っている。
 写真で壁画や仏像をながめているだけでも、その美しさや凄さに圧倒されてしまう。
 現存する窟龕の造営は、5世紀の前半の北涼から、北魏、西魏、北周、隋、唐、五代、宋、西夏、元と10代10世紀の長きに及んでいる。
 莫高窟ほど大規模で、これだけ豊富な仏教美術と古文書が保存された文化遺跡は世界でも類例がないといえる。現在、ユネスコの「世界文化遺産」に登録されている。


敦煌莫高窟壁画・塑像

 文章にして、くどくど語るよりも、「敦煌石窟」の歴史と美術についての写真・図版本を見るほうが、その素晴らしさに直に感じることが出来るのは間違いない。
 本の紹介に入りたい。

 敦煌莫高窟をはじめ、中国の石窟についての決定版といってよい本は、平凡社からS55年に刊行された「中国石窟シリーズ 全17巻」。
 この本は、中国・文物出版社と平凡社の国際提携出版で中国の9箇所の代表的石窟寺院を網羅し、豊富な図版と充実した解説で中国石窟寺院についての最高レベルのシリーズ。
 「敦煌莫高窟」だけでも全5巻の大冊で、シリーズ全巻購入すると595000円という高価な本。
 とても手が出ないので、私は所蔵していない。

 「敦煌石窟」 敦煌文物研究所編 (S57) 平凡社刊 【285P】 9800円

 写真集としては、この本が一押し。
 紹介した「中国石窟シリーズ」の「敦煌莫高窟 全5巻」の図版を抜粋して編集されたもの。ケ健吾執筆の敦煌石窟解説文付。
 美しく豊富なカラー図版で莫高窟の仏教美術が十分に堪能できるお勧め本。

 「敦煌三大石窟 莫高窟・西千仏洞・楡林窟」 東山健吾著 (H8) 講談社刊 【324P】1700円

 解説書としては、この本が一押し。
 敦煌石窟の歴史と仏教美術について、詳しく解説された充実した内容。
 「石窟が開かれるまで」、「初期・中期・後期の美術」などの項立てで、その意義、時代背景、代表作品が解説されている。


 この二冊のほかにも、「敦煌」とテーマにした本は、これでもか!というぐらい多数出版されている。
 ここでは、我が家の書架にある敦煌石窟の解説本、敦煌紀行本を紹介しておくこととしたい。

 「敦煌の美と心」李最雄ほか共著 (H12) 雄山閣刊 【149P】 2500円
 「敦煌石窟 美とこころ」 田川純三著 (S57) 日本放送協会刊 【166P】 900円

 共に、敦煌石窟の歴史と美術を、わかりやすく図版入りで解説した本。


 敦煌紀行本としては、
 北川桃雄(美術史家・評論家)、久野健(仏教彫刻史学者)、陳舜臣(作家)のそれぞれの敦煌紀行・旅行記を、紹介しておく。

 「美術紀行 敦煌」 北川桃雄 (S52) 東出版刊 【205P】 2000円

 「敦煌石窟の旅」 久野健著 (S56) 六興出版刊 【173P】 2300円
 「敦煌の旅」 陳舜臣著 (S51) 平凡社刊 【326P】 1500円
 

 


       

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