埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第三回)

  「奈良通」「古佛通」になれる本 (2/2)

 さて、締めくくりの決定版は、

 「大和百年の歩み〜文化編〜」大和タイムス社(S46)
 奈良通本のブックオブブックス、総集編とも言うべき本である。
 『これさえあれば、あなたは誰よりも奈良通(古佛通)になれます・・・』という広告キャッチで、奈良美術愛好者に売り込めば、今でも儲かるのでは?と思ってしまうほど、〜ソンナコトハ、アリエナイヨネ〜

 近代奈良の美術・文化史を百科全書的に網羅した、全705頁の大冊。大和タイムス(現奈良新聞)社が、明治百年記念事業として出版したもので、政経編・社会人物編と、この文化編の三分冊となっている。
 当代の、学者、文化記者、郷土史家など40人ほどでテーマ別に執筆している。
 その記述は、文化の歩みをしるし解説するということから、先に紹介した随筆本ほどは面白く読めるものではないが、奈良文化・美術のトピックス、エピソードはほぼ網羅され盛り込まれているのではないだろうか。

 目次の構成は次のようになっている。

大目次
興味を惹かれる標題

大和学

序曲・フェノロサ・国宝指定・論争(関野貞、喜田貞吉)・学者輩出・研究誌夢殿・大和誌

文化財

神仏分離令・古社寺保存法・戦争と文化財・薬師寺月光菩薩の修理・大仏殿の明治修理・五重塔秘宝の発見まで・明治初年の(仏像)保存状態・秘仏の劇的発見・進む科学的修理

記念物

 

建築・美術

美術院・古美術講座と写真・古美術案内書

文学

志賀直哉氏とその周辺・高畑界隈・小説に出てくる奈良

伝統芸能

南都舞楽の新たな価値・正倉院の雅楽関係遺品・奈良県の舞楽面遺品

観光

奈良公園の沿革・鹿・年中行事

 この中から、これまで触れていない話しを二三紹介すると、

 『神仏分離令』では、三輪山大御輪寺の宝物仏具が廃され、現聖林寺乾漆十一面観音・金屋二尊石仏が移されていった有様
 『古社寺保存法』では、フェノロサの夢殿秘仏の開扉
 『薬師寺月光菩薩の修理』では、S27吉野地震で首の亀裂が拡大した月光菩薩の鉄心棒切断事件(通称首切り事件)の騒動と結末
 『五重塔秘宝の発見まで』では、法隆寺五重塔心礎空洞から発見された舎利容器・海獣葡萄鏡の話しと、その写真等々が語られている。

 三百近い標題が項立てされており、「奈良通」好みの人ならば、愉しきインデックス本として座右必置の書ではないだろうか。

 話しのオマケにもう一冊

 こんな奈良の百年、今昔を写真で見ながら、眼で楽しみ確かめたい人のために、

 「奈良いまは昔」北村信昭著(S58)

 この写真集の、ちょっとセピア色の奈良の町、古寺の写真のページを、パラパラとめくっているうちに、もう完全に「奈良通」「古佛通」の気分になってしまっている自分に、きっと驚くことであろう。        

-了-

 

    

大和百年の歩み         奈良いまは昔     

大和タイムス社          奈良新聞社      


 参 考

「奈良通」「古佛通」になれる本 関連本のリスト

書名

著者名

出版社

発行年

定価(円)

霧のなかの声「宝冠」

島村利正

新潮社

S57

1300

仏像「執金剛神の神秘」

久野健

学生社

S36

480

脱出「焔髪」

吉村昭

新潮文庫

S63

360

南都逍遥

安藤更正

中央公論美術出版社

S45

1200

古寺辿歴

町田甲一

保育社

S57

3800

大和古寺巡歴

町田甲一

有信堂

S51

5500

法隆寺の里

直木孝二郎

旺文社文庫

S59

360

秋篠川のほとりから

直木孝二郎

塙新書

S60

1100

奈良百題

高田十郎

青山出版社

S18

5.1

奈良叢記「奈良百話」

森川辰蔵編
高田十郎

駸々堂

S17

3.5

奈良物語

松本楢重

国書刊行会

S50

850

奈良の本

松本楢重
森川辰蔵編

大和地名研究所

S27

280

奈良閑話

北野徳俊

近代文芸社

S63

1500

大和古物散策

岡本彰夫

ぺりかん社

H12

2600

奈良の本

吉村正一郎

実業の日本社

S48

880

新訂 奈良

青山茂

保育社(カラーブックス)

S53

500

大和百年の歩み文化編

大和タイムス編

大和タイムス社

S46

4000

奈良いまは昔

北村信昭

奈良新聞社

S58

8000

      

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