埃 まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第百七十五回)

   第二十八話 近代奈良と古寺・古文化をめぐる話 思いつくまま

〈その5>仏像の戦争疎開とウォーナー伝説

(9/12)


【目次】


1.仏像・文化財の戦争疎開

(1)東京帝室博物館の文化財疎開

(2)正倉院と奈良帝室博物館の宝物疎開

(3)博物館と正倉院の宝物疎開・移送について書かれた本

(4)奈良の仏像疎開

・興福寺の仏像疎開
・東大寺の仏像疎開
・法隆寺の仏像疎開

(5)奈良の仏像疎開について書かれた本

2. ウォーナー伝説をめぐって

(1)ウォーナー伝説の始まりと、その拡がり

(2)ラングトン・ウォーナーという人

(3)「ウォーナー伝説」真実の解明




ここで、

いわゆる「ウォーナー伝説」を、世に知らしめた本。
真実として解説した本

について、紹介しておきたい。


「日本美術の恩人たち」 矢代幸雄著 (S36) 文芸春秋新社刊 【371P】 850円

矢代幸雄氏が、日本美術にかかわりが深かった外国人の功績や評伝を綴った本。
美術史家、コレクター、古美術商など12名が採り上げられている。


「ラングトン・ウォーナー」という標題の章が設けられ、日本美術を爆撃から守った恩人、ウォーナーの功績やその人となり、思い出などが語られている。

「ウォーナーと日本」
「その後のウォーナー」
「ウォーナーリストをめぐって」
「ウォーナーの死、及びその後」
「ウォーナー記念塔建立由来」

などといった項立てになっている。

矢代氏がウォーナーについて発表した文章は、一通り収録されていると思う。

「ウォーナーと日本」は、
昭和21年(1946)7月に文芸春秋に発表されたもの。

矢代氏が「ウォーナーが日本の古都、文化財を守った」という話をGHQから聞きだし、それをマスコミに発表するに至ったいきさつが、語られている。


矢代幸雄
それによれば、

GHQ文教部長ヘンダーソン中佐から、山中商会・宮叉一がこの噂を耳にし、この話を伝え聞いた矢代は、

「奈良を愛すること己が心の如きウォーナーならば、きっと両古都をを救うために、渾身の努力を試みたろう。
・・・・・・・・・
この噂をもっと確かめたうえで、もしそれが本当ならば、これを広く日本人に知らせ、何とかしてウォーナーに国民的謝意を表したい、と考えた。」

そこで、美術講師などの経歴を持つヘンダーソン中佐は、矢代の旧知であったので、自ら訪ねてその確認を行った処、

「ヘンダーソンは即座に
『それは本当だ。しかし君がそれを新聞に発表するとならば、私一人の記憶では不確かかもしれないから、仲間の連中を呼び集めて、皆に問い質してみよう』
ということになって・・・・・」

ウォーナーが、文化財の爆撃を避けるようという意見を出したことは確かだと、係官一同の意見が一致したので、事実に相違ないと信じられると確信し、朝日新聞に談話を発表した。

このように記されている。


また、「ウォーナーリストをめぐって〜日本爆撃と文化財の救済〜」は、
芸術新潮、昭和25年(1965)12月号に掲載されたものを収録している。

この芸術新潮には、
「〈特集〉文化財は日本爆撃からいかに守られたか〜ウォーナーリストをめぐって〜」
という、特集が組まれている。

矢代はここで、ウォーナー自身が強く否定する「ウォーナー伝説」について、渡米した際に調査などを踏まえしっかり検証してみると、やはり間違いなく真実であるという主張を展開している。
ロバーツ委員会の実態や、米軍が作成した文化財リスト、いわゆるウォーナーリストの内容のなどについての検証結果などについて記されている。


「私の美術遍歴」 矢代幸雄著 (S47) 岩波書店刊 【500P】 2000円

矢代幸雄の自伝的回想の書。

この中に「敗戦、進駐軍の美術保護、ウォーナーのこと」という標題の章が設けられている。

GHQからウォーナーが日本の古都、文化財の爆撃回避に尽力したという情報を入手した話に始まり、その後のウォーナーの二度の来日から逝去、叙勲に至るまでのストーリーが、17ページにまとめられている。


「忘れ得ぬ人々〜矢代幸雄美術論集T」 矢代幸雄著 (S59) 岩波書店刊 【416P】 3000円

矢代没後に出版された、題名のとおりの矢代の美術論集。

巻頭に「ウォーナーのことども」と題する文章が収録されている。
内容は、「日本美術の恩人たち」に収録されている、「ウォーナーと日本」と同内容。

  


「〈特集〉文化財は日本爆撃からいかに守られたか〜ウォーナーリストをめぐって〜」芸術新潮・昭和25年12月号 新潮社刊 190円



いわゆる「ウォーナー伝説」「ウォーナーリスト」について、まとまった解説がされた特集記事。

「文化財はいかに救われたか」
と題する、編集部執筆の記事と、

矢代幸雄の寄稿
「ウォーナーリストをめぐって〜日本爆撃と文化財の救済〜」
で構成されている。

「ウォーナー伝説」について、その内容、根拠などが、わかりやすく解説されている。
また、「ウォーナーリスト」と云われる、日本の文化財リストの一覧が掲載されている。
リストは、日本の重要な文化施設、文化財が一応網羅されており、その重要度に応じて*印3つから*印無しまで、4等級に区分されている。


「太平洋戦争中における日本文化財の救済とウォーナー博士」 (S37) 奈良ロータリークラブ刊 【41P】 非売品

奈良ロータリークラブが、創立10周年の記念事業として発刊した冊子。


内容は、前述の芸術新潮・昭和25年12月号掲載の、
「〈特集〉文化財は日本爆撃からいかに守られたか〜ウォーナーリストをめぐって〜」
を転載して、冊子としたもの。

ロータリークラブ会長の序文には、このように記されている。

「凄惨苛烈を極めた我が国本土の爆撃の最中にさらされながら、これらの文化財ばかりではなく、京都及び奈良の地域が、よくも禍を免れたものだと不審に思うのは、私一人に止まらないでありましょう。
しかし、こうした疑念も、本書を読まれることによって、明瞭に解明せられるでありましょう。」

「我々県民の、又国民の一人として、世界文化の恩人としての(ウォーナー)博士の偉大なる功績を、讃えずにはいられないのであります。」

当時の、また奈良の地における、「ウォーナー伝説」称賛への盛上りの大きさが偲ばれる冊子。



 


       

inserted by FC2 system