GHQ文教部長ヘンダーソン中佐から、山中商会・宮叉一がこの噂を耳にし、この話を伝え聞いた矢代は、
「奈良を愛すること己が心の如きウォーナーならば、きっと両古都をを救うために、渾身の努力を試みたろう。
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この噂をもっと確かめたうえで、もしそれが本当ならば、これを広く日本人に知らせ、何とかしてウォーナーに国民的謝意を表したい、と考えた。」
そこで、美術講師などの経歴を持つヘンダーソン中佐は、矢代の旧知であったので、自ら訪ねてその確認を行った処、
「ヘンダーソンは即座に
『それは本当だ。しかし君がそれを新聞に発表するとならば、私一人の記憶では不確かかもしれないから、仲間の連中を呼び集めて、皆に問い質してみよう』
ということになって・・・・・」
ウォーナーが、文化財の爆撃を避けるようという意見を出したことは確かだと、係官一同の意見が一致したので、事実に相違ないと信じられると確信し、朝日新聞に談話を発表した。
「凄惨苛烈を極めた我が国本土の爆撃の最中にさらされながら、これらの文化財ばかりではなく、京都及び奈良の地域が、よくも禍を免れたものだと不審に思うのは、私一人に止まらないでありましょう。
しかし、こうした疑念も、本書を読まれることによって、明瞭に解明せられるでありましょう。」
「我々県民の、又国民の一人として、世界文化の恩人としての(ウォーナー)博士の偉大なる功績を、讃えずにはいられないのであります。」