埃まみれの書棚から〜古寺、古佛の本〜(第一回)

  まえがきにかえて

 ボクが「仏像の本」のことを書いてみようと思ったワケ

 「古き友と酌み交わす盃は、安酒も極上の美酒となる」学生時代の仏像探訪同好の士と十数年ぶりに一杯やった。懐かしく美味い酒であった。
 彼は、企業人ながら「神奈川仏教文化研究所」という仏像研究の会の中枢で頑張っており、研究所のホームページを運営している。
 「何か学生時代の思い出話でも書いて載せませんか」「そんなこと言われても、会社に入って三十年、アクセク暇なく働いてきて、奈良なんぞ五年にいっぺんも行ったことがない輩のオッサンの出る幕じゃないよ」と笑って答えて別れた。

 帰りの途々、「学生時代の思い出ねえ・・・・・・あの頃は、結構仏像探訪に出かけたもんだ」と、昔のことが少しばかり蘇えってくる。

 話は、昭和四十年代半ばに遡る。

 和辻の古寺巡礼や亀井の大和古寺風物誌を読んで、教養人気取りで奈良とか仏像が好きだったという私は、久野健「仏像」という本を読んで『こんなに面白い本があるのか』と結構マジに感動した。
 X線透視による時代判定や運慶銘の発見の話など、ワクワクと知的興奮を覚えながら、何度も読んだ。「もっとこんなことが知りたい、こんな本がもっと読みたい」と思ったのだが、さて何を読んだら良いのか、何処にそんな本があるのか、皆目判らない。
 そのうち「仏教芸術、美術研究、国華」などという研究誌が存在すること知る。
 大学の学部(経営学部所属)や教養の図書館には無い。どうも文学部哲学科の図書室にあるらしい。恐る恐る哲学科図書室の扉をノックしたら、Tサンというきれいな事務のお姉さんが、結構優しくしてくれたのを今でも覚えている。

 また、東京で神田神保町の古書店街の存在も知った。

 東陽堂、一誠堂などの棚を見ると、仏教彫刻の知らない本がド、ド、ドーンと沢山並んでいるではないか。「小林剛・日本彫刻史の研究、金森遵・日本彫刻史要、毛利久・仏師快慶論」等々。
 どの本も背表紙が「学生のおまえなどに買えるわけないよ」とあざけっているような気がして、「覚えてろ、いつか俺が買ってやるぞ」とその背表紙を睨み返したのであった。
 そんな時代、私は「どの本にはどのようなことが書いてあるのか」、「こんな事を知るには、どの本、どの文献を読めばよいのか」を教えてくれるガイドブックがあれば本当に嬉しいなあ、と心底感じたものである。

 アマチュア仏像愛好家の切なる願いとでも言えようか。
 日本東洋古美術文献目録が唯一の頼りだった。

 そんな昔のことを振り返ってみると、今は充実した研究ガイドが出来たものだと思う。
 仏教美術史研究の世界では、近時、大橋一章を中心に「寧楽美術の争点、論争奈良美術、法隆寺美術〜論争の視点〜、薬師寺〜美術史研究の歩み〜」という本が続々と出版されて、いろいろな文献の間を行ったり来たりといった迷子にならずに、系統だって理解し、勉強できるようになった。

 「こんな本を待ってたんだ」と、私は思わず快哉の声をあげた。
 あとは、研究分野ではなくアマチュアの仏像愛好家向けに、やさしく愉しい仏像本の紹介ガイドがあると、もっと嬉しい。
 古書店を巡っていると、他のフィールドではそんな本が結構あるではないか。
 「釣り本の周辺、山の古典と共に、シネブック漫歩、読書の考古学」などの本が・・・・
 「仏像ブック面白漫歩」という本があってもいいじゃないか。
 それなら、私にも少しは書けるかも知れない。社会人になって古佛探訪にはご無沙汰になったが、その分神田古書店巡りで仏像を観に行った気分になるようなことでもあったし。

 仏像好きの人の中には、結構面白いと思う人もいるかも知れない。

 こんな思いで、仏像に関する本の紹介を「埃まみれの書棚から〜古寺・古佛の本〜」と題して、エッセイ風に綴っていければと思う。
 どんなものになるのか自分でもよく判らないが、次のような視点で語れればと思っている。
 テーマを定めて、その関連本について紹介していくスタイルとしたい。

 ○○寺の美術、××彫刻といったオーソドックスなテーマは、文献目録も結構整理されているので、ここでは「ちょっと違った角度から観た仏像愛好の愉しさ」に触れることが出来るようなものとしたい。(立派な美術書の巻末文献目録に顔を出さないような本を紹介したい)

 *紹介本は、研究書、論集・論文の類を避け、仏像好きの人が気軽に読め(古)書店で手に入れることが出来る本とし、その内容や私の感想を思い出交じりで語ってみたい。

 仕事の片手間でもあり、「サラリーマンの小遣いで買い貯めた我が家の書架にある本」の紹介にとどめ、それ以外の良き本があっても触れずにおくことを許してもらう。

 

  第1話 「奈良通」「古佛通」になれる本

  第2話 古佛に魅入られた写真作家達の本

  第3話 古佛の修復、修理に携わった人々の本

 というテーマで語れればと考えている処でありますが、
 何回続けられるのか?面白い内容にできるのか?甚だ疑問。
 とりあえず2〜3回は頑張ってみたい、と思っております。

 この「埃まみれの書棚から」を見て、書店やインターネットの古書サイトで本を探してみようかと思う人がいささかでも現れれば、嬉しき限り。

 第1話をお楽しみに?

 

      

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