T は じ め に




【あなたの一番好きな仏像は?〜現代の人気仏像】


「あなたの一番好きな仏像は?」

このように尋ねられると、皆さん、どんな仏像の名前を挙げられるでしょうか?


「人気仏像ランキング」というのがあるとしたら、こんな仏像が上位にランクインするのはないでしょうか。

NO1は、なんといっても興福寺・阿修羅像でしょう。
ダントツの人気だと思います。




人気NO1の興福寺・阿修羅像



NO2には、
広隆寺・宝冠弥勒半跏像、中宮寺・菩薩半跏像、法隆寺・百済観音像
あたりが、入ってくるのでしょう。


そのほかには、
東大寺戒壇院・四天王像、東大寺法華堂・日光月光菩薩像、薬師寺金堂・薬師三尊像、東院堂・聖観音像、聖林寺・十一面観音像
なども、ランクインしそうです。

神護寺・薬師如来像も、平安初期好きの方からは、名前が挙がりそうです。
また、近年の運慶ブームで、円成寺・大日如来像や興福寺北円堂・無著世親像も登場してくるのかもしれません。


仏像大好きの同好メンバー、7〜8人で「仏像・私のベスト10」を自由に挙げてみたことがあります。

そこで、
最も得票数が多かったNO1は、東大寺法華堂・不空羂索観音像、
NO2は、渡岸寺・十一面観音像、
NO3は東大寺戒壇院・四天王像と神護寺・薬師如来像
でした。


 

東大寺法華堂・不空羂索観音像



いずれにせよ、このあたりの仏像が、現代人の人気の仏像、好みの仏像ということになるのだと思います。



【歴史教科書に載っている仏像は?〜時代を代表する定番仏像】


学校の歴史の教科書では、どんな仏像が採り上げられているのでしょうか。

ある高校の日本史の教科書に載っていたのは、ご覧のような仏像でした。


 



飛鳥時代から鎌倉時代までで、全部で24件の仏像が掲載されていました。

これらの仏像が、時代を代表する仏像とされているということになろうかと思います。
現代の、標準的な定番仏像、ということになるのでしょう。



【人気の仏像や仏像の評価は、今も昔も変わらないのだろうか
〜仏像を見る眼はうつろうのか?】


ここにラインアップされた仏像を見ていると、ふと湧き上がってくる「疑問」があります。

「これらの仏像たちは、明治の頃から日本を代表する仏像、大人気の仏像とされていたのだろうか?」

「明治時代の評価の高い仏像、人気の仏像は、現代とは違っていたのではないだろうか?」

こんな、素朴な疑問です。

私の知っている限りでも、今、超人気の興福寺・阿修羅像や広隆寺・宝冠弥勒像は、明治時代には、それほど注目されていなかったようです。
藤原彫刻の代表選手、平等院・阿弥陀如来像も、明治の中頃には、高い評価はされていなかったようです。

実は、高校教科書掲載仏像リストの中で、青色に塗った仏像は、明治時代の主要な美術史書に採り上げが少ないもので、太字の仏像は、全く採り上げがありませんでした。
青色の仏像は13件ありますので、高校教科書掲載仏像の約半数が、明治時代には時代を代表する仏像とはされていなかったということなのかもしれません。


「仏像の評価」「人気や好み」は、明治時代から平成の今日までの百数十年余の流れの中で、きっと変化してる違いありません。
「仏像を見る眼」、すなわち「美のモノサシ」は、時代の流れの中で、うつろっているのだろうと思います。

芸術作品の評価や人気が、時代と共にうつろっているのは、今更言うまでもありません。
江戸絵画をみても、伊藤若冲をはじめ曽我蕭白、長澤芦雪など、奇想といわれる絵画の近年の人気沸騰ぶりは、驚くばかりです。

その昔、全く評価されていなかった作品や作家が、今では、誰もが知っている超有名美術作品ということは、世にいくらでもある話だと思います。



【明治時代から今日まで、近代仏像評価の変遷をたどってみたい】


そんなことを考えているうちに、

「仏像が彫刻作品として評価されるようになった明治時代から現代に至るまでの、仏像の評価、人気の変遷をたどってみたい。」

と思うようになりました。

仏像の評価や人気の変遷をたどることが出来たならば、そこから時代と共にうつろう「美の価値観、モノサシ」が読み取れそうな気がします。

そして、
「どうして仏像を見る眼のモノサシが、うつろい変遷していったのだろうか?」
という時代背景も見えてくるのではないでしょうか。

大変興味深いテーマだと思います。


そんな興味、関心で、この

「仏像を見る眼はうつろうのか?〜近代仏像評価の変遷をたどって〜」

を、綴ってみたいと思います。

このテーマについては、以前、「観仏日々帖」に、
と題して、明治時代の仏像評価の特質や変遷について、少しふれさせていただいたことがあります。


今回の連載では、これを踏み台にして、

「大正時代から現代までの仏像評価の変遷」や、
「現代の超有名人気仏像の評価の変遷」も、

併せてたどってみたいと思います。

そうすれば、近代仏像評価の変遷を、少しは俯瞰できそうな気がしています。

「そんなに、うまい具合に仏像評価の変遷をたどることが出来るのか?」

といわれると、少々、心持たないところです。


どれほど、このテーマの本質にアプローチできるのかわからないのですが、出来る範囲で、「近代仏像評価の変遷と、その要因、背景」について、考えてみたいと思います。


ちょっとマニアックなテーマで、皆さんのご興味がどれほどなのかわかりませんが、しばらく、お付き合いください。


【2018.11.3】


                



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