仏像の材質

  鉄造

 現在鉄仏は、全国に約50体現存するが、造られた時代、地域とも限られており、現存する像のほとんどは、鎌倉時代以降の制作で、また、地域的に見ても関東が約30体、愛知地区が約11体と、関東地方及び愛知県尾張地方に集中している。重要文化財に指定されている仏像は7体である。

 鉄以外でも紙や銀などで造られた像もあるが、特殊な用途、目的で造られたこれらの例を除けば、鉄造の仏像は、少数派に属する。

 鉄は、融点が、銅の1083℃に比べて、1539℃と高くて扱いにくく、特に仏像のような大きなものを鋳造するのには、特殊な技術が必要であったと考えられる。鉄は空気中に放置すると水分の存在下で容易に酸素と結合し、塩化第二鉄(いわゆる赤錆)を生成し腐食する。このように鉄は腐食しやすいため、仏像の素材としては、余り好まれなかったものと思われる。造像法も、銅造が、ろう型で鋳造された精密なものが多く、比較的柔らかいため表面も鏨等で仕上げるのに対し、鉄造は、砂型を外型として合わせて造る鋳造法がほとんどで、細い造作が苦手であり、また鋳物の表面が硬く、型の間からはみだしたバリ(鋳張り)を取るのも困難であるため、仕上がりも余り美しくない。

 鉄仏が鎌倉時代に関東、尾張で流行したのは、刀に代表されるように一番堅い金属であった鉄に対する信仰と共に、鉄仏の持つある種の荒々しさが、武家社会の好みと合ったためと考えらる。

 その意味では、鉈彫像(木造で表面を仕上げず、荒彫りのままにした像−平安から鎌倉時代にかけて関東地方で主に制作された)に通ずる所があるのかも知れない。

 鉄仏の鋳造方法として、原型を土で造る(塑像)場合と、木で造る(木像)場合がある。鉄仏に限らず、大形の銅造の場合も同様で、奈良の大仏は塑像、鎌倉の大仏は木像をそれぞれ原型として制作されている。

 原型が塑像の場合は、その上に粘土砂等をつけて外型を造る。外型を乾燥後一旦取外して、次に原型の塑像の表面を削り(削った厚み分が鋳造後の鋳物の肉厚となる)、これを内型(中子-なかご)として、再び外型を元に戻して中子との間に溶解した鉄を流し込み鋳造する。

 原型が木型の場合は、外型を造った後、その内側に粘土砂等をつけて内型を造る。次に内型の表面を削りこれを中子として鋳造を行う。

 一般的に原型を塑像としたものは、細かい造作ができないため造型も大雑把あり、木型を原型にしたものは、比較的造作が明瞭で銅造に近い仕上がりになるといわれている。

 東京・府中の善明寺には、坐像と立像の2体の鉄仏がある。

 坐像の方は、現存する鉄仏の内では最大の像であり、そのためか鋳造技術にやや難があり、全体に柔らかく量感があるが、立体感に乏しく衣文線も浅く簡素である。

 これに対し、立像の方は同様に鋳造の際の欠損部があるものの衣文線等は明瞭で、鉄仏の中でも流麗な像であり、木型を使用したものと考えられている。

鉄造の仏像の多くは背面等に銘文が陽刻されているが、在銘像としては、栃木県・北犬飼薬師堂の薬師如来坐像が最古の像である(1218銘)。また、造形的に優れた例としては、東京人形町・大観音寺の菩薩像頭部(頭部だけで168cm)、愛知県稲沢市・長光寺の地蔵菩薩立像等がある。

 

全国鉄仏一覧

 

 

 

 

inserted by FC2 system