仏像の材質 銅造
金銅仏は、銅と錫の合金である青銅(ブロンズ)の鋳造像の表面に鍍金を施したものである。
錫は、表1に示すように、錫は、金属の中でも融点が低く、合金の融点を下げると同時に、溶融状態での流動性を高め、鋳造性を向上させるために、金銅仏には、通常2〜10%程度含まれている。
表1 金属の融点 金属 比重 融点(℃) 銅 8.96 1083 鉄 7.87 1539 錫 7.3 232 鉛 11.3 327 青銅 8.86 954〜1049 金 銀 錫とその他の添加物の種類、添加量によって、合金の性状、使用目的は異なり、主に錫の含有量によって一般的に下記のように区分されている。
表2 青銅の区分 錫含有量(%) 名称 使用先 特徴 2〜10 唐金 金銅仏 古代青銅器 10 砲金 大砲の砲身 磨耗に強く、靱性に富む 15〜20 鐘青銅 梵鐘 脆いが硬く、音の響きが良い 30 鏡青銅 古鏡 硬い 錫以外には、溶融湯の流動性を良くするため、鉛が加えられた。
奈良の大仏は何度も作り直されており、部位によって時代が異なるため、各部位の素材を調べれば、時代毎の原料がある程度判る。奈良大仏、鎌倉の青銅の成分は表3のようになる。
表3 奈良大仏、鎌倉大仏の組成 (部位) 制作年代 銅 錫 鉛 砒素 奈良大仏(左膝) 奈良時代 92.8 1.8 0.5 3.0 奈良大仏(右肩) 鎌倉時代 93.5 2.9 2.6 1.3 奈良大仏(左眼) 江戸時代 91.5 4.2 3.0 1.4 鎌倉大仏(平均値) 鎌倉時代 68.8 9.6 19.6 微量 古代のものは、錫や鉛が少なく、砒素が多く含まれているが、古くは、鉛が貴重品であったため、鉛の代わりに砒素が用いられたものと考えられる。
鉛や砒素は、溶融湯の流動性を増し型へのなじみをよくする働きを持つ。しかし、鉛は、錫とは合金をつくるが、銅には溶解せず、合金を造らないため、余り多く加えると、凝固する際に均一な合金とならず鉛が単体で析出する、いわゆる偏析と呼ばれる現象を生じ、表面に鍍金を施す場合は、斑になり美しく仕上がらないといわれている。古代の金銅仏の鍍金が美しいのはこのためであるのかもしれない。
一方、鎌倉大仏の鉛の含有量が極端に多いが、これは浄光上人が、建立に当たり一文銭を勧請した事から、当時流通していた銅銭が材料として用いられたためと想定される。当時流通していた貨幣は、中国の宋銭が大部分であり(貨幣一覧参照)、その鉛含有量は、20〜45%と非常に高い。