仏像を科学する

 

 熱ルミネッセンス年代測定法

 動物または植物を利用した遺物の年代は放射性炭素年代測定法によって年代も判定できるが、炭素を含んでいない土・砂等の鉱物を原料にした土器、陶器が製作された年代は放射性炭素年代測定法を直接に用いることができない。

 熱ルミネッセンス年代測定法は、土器、陶器等の製作年代を直接測定する方法として、米国ウィスコンシン大学のダニエル教授によって提唱された。自然の鉱物には加熱すると蛍光を発するという熱ルミネッセンスと呼ばれる性質がある。その代表例は蛍石で、名前も加熱発光に由来している。宇宙線等の天然放射線が蛍石や石英などの鉱物に当たると、その鉱物を構成する原子に衝突し電子を放出する。この電子は結晶内に蓄積され、電子エネルギーとして保存される。長い年月の間放射線が当たっていると、鉱物結晶内の電子エネルギーは次第に蓄積されてくるが、鉱物が一旦加熱されると、蓄積されていた電子が放出され、電子のエネルギーは蛍光となって発散される。この時発光する蛍光の強さは、その鉱物がそれまで受けてきた放射線量に比例する。

 土器は粘土を成型焼成して初めて土器になるが、焼成時に500度以上に加熱されるため、それまでに蓄積されたエネルギーは一旦ゼロになる。その後自然放射線が常に一定に当たっているものとすると、蛍光の強さは土器が製作されてから経過した年数に比例することになる。熱ルミネッセンスの年代測定法は、試料を加熱して放出されるエネルギー(天然ルミネッセンス強度)を測定し、その試料に一定の強さの放射線を一定時間照射したのち再び加熱してその時放出されるエネルギー(人為熱ルミネッセンス強度)を測定し、次式から年代を決定する。

(天然ルミネッセンス強度/人為熱ルミネッセンス強度)/(照射放射線量/年間放射線量)

 熱ルミネッセンス年代測定法は試料の採取法、年間放射線量の決めかたなどにいろいろ問題はあるが、従来手のつけられなかった土器の直接測定によって絶対年代を判定する方法が開発されたことで、考古学界への貢献が期待される。

 

 

 

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